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第一章 挿話 オルトニプス 驕傲 倨傲 傲岸 -中-

「...んん、ここはどこ?」


周りを見渡すとゴツゴツとした岩肌がみえ、真上には丸くくり抜かれたように大きな穴があり月の光が差している。そして、海の波が穏やかに入口部分から流れてきては引いてを繰り返している。いわゆる海食洞というものだろう。


「すっごく綺麗...」


「ふふっ、気に入ってくれたかしら?」


「だ、だれ?!」


綺麗な景色に見惚れていると背後から女性に声を掛けられた。

声がした方に振り返ると、濡れた長髪の髪を纏めながら妖艶な笑みを浮かべた麗しい女性が岩に腰掛けている。


「に、にん...」


「なーに?上から下までジロジロみて、レディーに対して失礼じゃないかしら?ふふっ。」


「だって、その足...」


改めて上から下まで眺めると上半身は大きな貝殻をその豊満な胸に胸当てとしてあてがっており、男性であれば誰もが見惚れる程非常に魅力的な女性の身体なのだが問題はその下。

へそより下、下半身には虹色に輝く宝石の様な鱗が並び、末端は魚の様な尾を持つその姿はまるで...


「えぇ、人魚よ?ふふっ意地悪してごめんね。」


先程の妖艶な笑みとは違い、悪戯が成功した少女のようなあどけない笑顔を浮かべる。


少年は待ち望んだ対象が目の前に現れた事により驚き思わず尋ねる。


「やっぱ居たんだ!ね、ねぇ!血頂戴!何でも治す事が出来るんでしょ?!僕の友達が大変なんだ!」


少年の一言に人魚は笑顔を崩し顔を顰める。


「いきなり失礼な人ね、初対面で血を分けてくれなんて。大体貴方を此処まで運んであげたのは誰のおかげだと思ってるのよお礼が先何じゃないかしら?」


ふんっと腕を組みそっぽを向きながらほっぺを膨らませる。


「あ...ご、ごめん。あの嵐から助けてくれたのは君だったんだね。ありがとう。」


「名前は?」


「え?」


「だから貴方の名前は?」


「ぼ、僕は『オルトニプス』。君の名前は?」


「『ルナ』よ、じゃあ貴方は『オル』ねオルが今度から定期的に話し相手になってくれるなら許してあげるてもいいわよ。ほんとはダメなのよ?人間に知られるのは、でもバレたら仕方がないわ。」


「『ルナ』...あのお月様と同じだね!わかった!そんなので良ければ。」


「ふふっ。楽しみにしてるわね。」


興奮が収まり、ふと我に帰るととてつもない美人な事に改めて気づきその優しい笑みに思わず見惚れてしまった。


「それとね、さっきの話だけど。やっぱり協力出来ないわ。だってそれ迷信だもの。」


「へっ?迷信...?」


髪をクルクルと指で遊びながら答える。


「えぇ、そうよ。血も肉も食べてもなーんにもなんないわ。確かに私達人魚は不老不死にさせるスキルはあるわよ。」


「だったら!」


「私の命と引き換えにね。」


「え...」


「種族スキル『自己犠牲』ね、対象を1人自らの命と引き換えに不老不死にする。恐らくこのスキルの噂が1人歩きしたんでしょうね。おかげで私の仲間はみーんな狩られて生き残りは私だけって事。」


「...何も事情を知らないのに身勝手な事を言ってごめんなさい。」


「別にいいわよ、大昔の事だもの。だからオルに暇潰し相手になってもらうわ!人と話すなんて何年ぶりかしら!何十年?なんびゃく?」


全く気にしていないという素振りで指を一本づつたて年数を数え出す。


「人間の事嫌いじゃないの?」


ルナは数えていた指を止めオルに向き直る。


「嫌いよ?だいっきらい!自分が不老不死になって永遠を生きたいだとか、死ぬのが怖いだとか。自分勝手で身勝手で平気でみんな嘘ついて。自然の摂理に反して自分だけが生きたいなんて『()()』よね。そんな人間が大嫌い。」


「...なら、どうして」


「でもオルはお友達を助けたいんでしょ?自分じゃなくて他人の為に危ないって知っていながら1人で海に出たのよね?」


「なんで?!」


「知ってるわよ、お魚さんや鳥さん達が教えてくれたわ。君が危ないかもって教えてくれたのも彼等よ。貴方と話してみたくてつい助けちゃった。」


-見ててくれたんだ、知ってくれたんだ。大人達には笑ってあしらわれたのに...この人になら。


「実はね...」


オルトニプスは村の現状についてルナに全てを打ち明けた。


「なるほどね...非常に危険な状態よ、それは『子韜晦(しとうかい)』といって最初は子供に感染して徐々に生気と魔気を奪っていくの。所謂HPとMPの最大値が少しずつ減っていくのよ。ほら、子供って耐性スキルなんて殆ど取得してないでしょ?それで徐々に成長していった子韜晦は大人にも感染して大人の持つ耐性スキルでも防げない程強力になり、やがて村全体が根刮ぎ生気と魔気を奪われてしまうってわけ。」


「蔦の様な黒い血管が浮き出た頃には感染者の凶暴性も高まって誰から構わず引っ掻きや噛みつく事でさらに感染拡大、最後には...」


ルナはそれ以上語るのも嫌だと言わんばかりに首を振る。


「ねえ!どうしよう!どうすればみんなを助けられる?!」


今にも泣きそうな顔で懇願するオルトニプスをルナを優しく撫で、とても落ち着いた声で宥めるように話す。


「安心して、初期の段階で対処すればまだ何とかなるわ。村に神父や司祭はいない?『祈り』スキルを使えば一時的に『病気耐性』『病魔耐性』を僅かだけど得られるわ。」


「僕のお父さんがそうだよ!でもそれだと、根本的に解決しないんじゃ...」


『祈り』スキルは聖職系にしか扱えないスキルであり、神に祈る事で対象の『病気耐性』『病魔耐性』のレベルを微増幅させてくれるスキルである。


「賢いわねそうよ、あくまで一時的。だけどね何度も掛け続ける事によっていずれ耐性スキルが上がるわ。一朝一夕に上がるものじゃないから長い期間必要だけど何度も祈りスキルを掛け直す事で症状も抑えられるし耐性スキルもいずれ上がるはずよ。」


「ほんとに??!...良かった...みんなを助ける事ができるんだね、ルナ!ありがとう!」


「ふふっどういたしまして。けど急いだ方がいいわ、成長した子韜晦には『祈り』だけじゃどうにもならないもの。

もしかしたら大人にも感染してるのかも...今は大人が持っている耐性スキルで症状が出ていないだけ。耐性スキルより子韜晦のレベルが高くなると危ないわよ。だからこの『祈り』は大人も子供も行うべきよ。」


「任せてよ!僕の父さんは凄いんだから!!」


オルトニプスの母親は幼い頃に病気で亡くなっており、男手一つでオルトニプスを育てあげた。

最も尊敬する父親が村のみんなの役に立てる事が何よりも嬉しかった。


「でも、僕は何で感染していないの?」


至極最もな疑問を投げかける。


「あら?『鑑定』スキル持っていないの?そっか、人間は持っている方が少ないのよね。所得条件厳しいものね。寝ている間に鑑定させて貰ったけどオルの耐性スキルのレベルもの凄いわよ。恐らくオリジナルスキル『適応力』のおかげね、こんなチートなスキル待ってたら納得だわ。」


鑑定スキルを他人に使用するのは失礼に当たる。

だが初対面の相手、幾ら子供だろうと人間には細心の注意を払うのは当然だろう。最も鑑定された事についてオルトニプスは全く気にしていない様子だが。


「そんなに凄いスキルなの?」


「自分のスキルくらい把握しないとダメよ、まぁ大方鑑定士のレベルが低かったのね。いいわ教えてあげるオルのスキルはね...」


ルナは能力の概要を伝える。


・オリジナルスキル『適応力』所持者:オルトニプス

パッシブスキル

あらゆる技能、耐性の獲得補正極大。

一度見たスキルは看破可能。


-うーん、僕にはいまいち分からないや。


ポカンとした表情でオルトニプスは固まる。

そんな様子をルナは片手を頭に当てため息をつく。


「君ねぇ、一行目に書いてある能力だけでも凄いのに二行目なんて...まぁいずれ実感する時がくるわ。まだまだお子様だものね。」


「僕は子供じゃない!立派な大人だ!」


「あら?溺れそうになりながらわんわん泣いてたのは誰かしら?」


「そ、それは...誰でも死にそうになったらそうなるだろ?」


「そうよね...死ぬのは怖いのよねきっと。」


月を見上げるその目には恐らく過去の記憶が映し出されているのであろう。遠い目をしていた。


「そうだ、岸まで送ってあげるわ。ここの海蝕洞は君の村から少し離れてるもの。」


そう言いながら海に飛び込んだルナは突如眩しい光に包まれる。やがて、光が収まるとそこには流線型の胴体をした空色の『イルカ』が現れた。


「ふふっ驚いた?どっちも本当の私よ。」


今の今まで御伽話と勘違いされる程人魚の目撃情報がなかった理由が明白になった。


「綺麗...まるで『デルフィニウム』みたい...」


「『デルフィニウム』?何よそれ」


「そっか、デルフィニウムは山岳地帯で咲くからルナは見た事ないんだ!子供の時にお父さんに連れてって貰った事があるんだ!今のルナみたいに青々として可憐でとっても綺麗なお花なんだ!僕が成人したら1人で村の外にも行けるから取ってきてあげるね!」


「...全く、よくそんな恥ずかしい言葉スラスラ言えるわね。えぇ、楽しみにしてるわ約束よ?」


真っ直ぐな褒め言葉に思わず照れてしまったルナはその恥ずかしさを隠す様に強引に約束をこぎつける。


ルナの背中にまたがり、2人は海を駆けていく。

月が彼等を優しく見守りながら今夜はいつもよりも穏やかな波がまるで彼等の帰りを手伝っているような。2人にとって忘れられない1日の幕がようやく閉じたのであった。

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