第一章6話 結 私ってば力持ち?!
ギルバートの案内で、城門の前まで行くと3台の馬車と数人の武装された騎士。
そして、デルとディッシュの2人が待っていた。
「遅い、ちんたら歩いて日が暮れるかと思ったよ。僕を待たせるなんていい度胸してるじゃないか。」
「わたくしは良いですよ、ゆったり、まったり、のんびりと旅を楽しみましょう。ふふふ。」
「デル殿、ディッシュ副団長待たせてしまい申し訳ない。私が同行できるのはここまでですが、後の事は頼みましたよ。」
「ふん、僕に任せれば問題ないさ、さっさと乗りな。早く終わらせるよ」
周辺を馬に乗った騎士達が取り囲み
先頭にディッシュ、中央に結達と御者にデル、後方に食糧や武器、旅路に必要な物を乗せていく。
『終焉の地』迄はおよそ2週間で着く予定であり、途中途中で街や村に立ち寄る予定である。
「それでは、私の安心、安全、安泰な運転で目的地までお送り致しますよ、ふふふ。」
「お、お願いします!」
ギルバートに見送られながらネクトドス王国が遠ざかっていく。
「これが馬車なのね!私初めて乗るわ!」
「日本で馬車にのる事なんかないからな。結構良い馬車なんじゃないか?広いし揺れも少ないし。ん?足元に何かあるぞ。」
「あぁ伝え忘れていました。座席の下に収納スペースがあり、私が事前にギルバート殿から勇者様一同の職業をお聞きし勝手に、好きに、気ままに武器を用意させて頂きました。ふふっ」
デルが手綱を引きながら軽く後ろを振り返り答えてくれた。
「ぶ、武器?!やべぇテンション上がってきたー!」
そこには、片手剣と盾、籠手、大きな杖、聖書等各々にあった武器が置かれていた。
-私は細身の剣だ、剣っていうから重いのかなって思ってたけど意外と軽いのね。
「結の剣は細いのね!ねぇ持ってみてもいい?」
朱里は聖書であり、武器らしい武器ではなかった為なのか結の剣に興味深々である。
「いいよ、結構軽いよ。」
「へぇー、そうなのねっておっっっも!!?!何これ!ちょ、ちょっと結助けて!」
「へ?!ま、待ってね朱里ちゃん。今持つから!」
「はぁ、はぁ、はぁ...あ、あんたよくこんなの持てるわね。何キロあるのよこれ。」
「ふふふ。それもそのはずでしょう、朱里さんと結さんでは能力値が大きく異なっているんですから。」
「能力値?」
「えぇ、ステータスにある攻撃能力値とは筋力にも直結しています。朱里さんは魔法能力に特化していますし結さんは規格外で、尋常ではない、桁外れな能力を保有していますからねぇ」
「え、って事は魔法能力の低い僕は知能が低いという事ですか?!」
亮が珍しく慌てふためている。
「いえいえ、魔法能力は所謂魔法への親和性の高さを意味しているのですよ。ステータスで表示される数値はあくまでもその者の身体的能力を体現して、具現して、表しているのですよ。ふふっ。」
デルはそれぞれの能力値について説明を行った。
攻撃能力:筋力
防御能力:頑丈さ
魔法能力:魔法への親和性
抵抗能力:魔法への免疫力
技巧能力:器用さ
速度能力:素早さ
この数値はレベルアップだけでなく、訓練でも数値を高める事ができる。
但し、レベルアップより上り幅は少なく一朝一夕で上げられる訳ではないという。
「要は強くなりたきゃ、魔物と戦ってレベルを上げろって事だな!」
「成程ね、流石ゲームの知識量だけは多いわね。」
「「は」って何だよ「は」って!非力な大司祭様は一生結の剣は持てない事が分かって良かったな!!」
「何よ!文句あるなら言いなさいよ!」
「あーはいはい、言ってやりますよ非力で、脆くて、か弱い大・司・祭さん!」
「あんたデルさんの真似して!キッー許さないんだから!」
いつもの2人のやり取りにすっかり慣れてしまった結は止める事はなく、静かに自分の剣に視線を落とす。
-魔物とはいえ、生きているものを倒すなんて私に本当に出来るのかな?
じっと手元の剣を見つめていると鞘の根元の部分に何か凹凸の触感が手に伝わる。
-あれ?何だろうこれ?
指をどけるとそこにはとても綺麗な青い花がイルカに巻き付きその背景には三日月が描かれていた。
よく見ると鞘だけでなく、剣の柄頭の部分にも同様の紋章が描かれている。
周りを見渡すとどの武器にもこの紋章は描かれていた。
「ねぇデルさんこの紋章は何でしょうか?デルさんのマークか何かですか?」
つい気になって訪ねてみると先程までのニヤニヤした表情は消え、真剣な眼差しで遠くを見つめる。
「それは、私の生きる理由です...」
消えそうな程微かな声で呟き、いつもの口癖や不適な笑みが消え、それはまるで別人のようであった。
しかし、その表情はほんの一瞬でいつもの下手くそな笑みを浮かびあげた。
「ふふっ。どうでしょう、旅はまだ始まったばかりで道のりは長いです。座興として、余興として、暇潰しにここで一つあるおとぎ話なんて如何ですか?」
「おとぎ話?何だか楽しそう!あんた達も興味あるわよね?聴きましょ!」
デルはニヤリと笑みを浮かべ昔話を語り始めた。




