第九十一話 ハイケア祭・前日~救いの手~
更新大変お待たせいたしました……!
10/10(木)には書籍二巻も発売されますので、特に今月は多く更新できるように頑張ります。
TOブックス様の公式Xでは、二巻で描いていただいたキャラクターデザインが公開されていますので、ぜひそちらもチェックしてみてください!
「……なにか?」
男爵家のご令嬢が凛々しい眉を吊り上げて、メナールに問う。
貴族の者に直接言う勇気は無いが……やめてくれ。
この後の展開がなんとなく読めるんだ……!
「貴女には、彼が……私の従者に見えると?」
「ええ。それ以外になにか?」
「『(あわわ……)』」
徐々に沸騰するお湯のごとく、メナールの普段とは異なる低い声が言葉を紡ぐたびにどんどん大きくなる。
これ以上口論が続けばどうなるかは明白だ。
「め、メナール。落ち着いて……」
俺にできることは、せめてメナールを落ち着かせること──ッ!
「おや。ロベルタ様に、メナール殿。それに……リシトさんにツークまで。皆さま、ようこそ交易都市ハイケアへ」
「「「!!」」」
優しくも通り良い声が辺りに響くと、商業ギルド内のざわめきが一瞬にして収まる。
そうして騒ぎを覗いていた者たちも結果が目に見えたのか、それぞれの日常へと戻っていった。
「あなたは……」
「まぁ! アンバー家の」
「シグレさん!」
『姐さんの親父さん!』
声の主は青い髪を後ろに流した、柔和な表情を浮かべた男性。
セレの父親でありアンバー商会の当主だ。
以前会った時と変わりない笑みを浮かべたシグレさんは、揃った面々に目配せをするとさらに笑みを深くした。
「皆さまにも盛り立てていただけるとは、祭の成功が約束されたも同然ですね」
「ま、まぁ……わたくしたち『幻想の薔薇会』がいるのですから、当然ですわね!」
「ええ。お父上には息子も大変お世話になっております。ぜひ、ロベルタ様ご自身にも楽しんでいただけましたら幸いです」
表情や手振りで歓迎の意を示すシグレさんに、ご令嬢はすっかり気を良くしていた。
さっきまでの威勢の強さも和らいだところでシグレさんは彼女の従者に眼で合図する。
「──お嬢様、そろそろ……」
「ええ、そうですわね! わたくしたちはあなた方とは違って忙しいんですの。──失礼!」
メナールを横目でけん制しつつ、嵐のような男爵令嬢は足早に去っていった。
『こえええ……』
「い、息が、やっとできる……」
「……はぁ。シグレさん、助かりました」
メナールは状況を打破してくれたシグレさんに礼を述べる。
自分でもあのままヒートアップしていたらどうなっていたか分かっているんだろう。
「お気になさらず。たまたまギルドに用事があったものですから、見知った方々にご挨拶ができてよかったです。それで……」
俺とツーク、メナールを見回すとシグレさんは楽し気に続けた。
「皆さまも、同様に祭にご参加いただけるのですかな?」
「ええ、その手続きに来たところです」
ツークと顔を見合わせながら経緯を答えれば、シグレさんは納得して俺を見、微かな驚きを含んでメナールへと視線を移す。
「なるほど、グレッグの代わりに。……しかしメナール殿も、というのは意外ですな」
「たしかにリシトさんの手伝いという名分がなければ、参加することも無かっただろうな」
「メナールは剣術大会にも出る予定でして」
「! そうでしたか。……いやはや、今回の祭はいろいろと記念すべきものになりそうですな」
「あ! 記念といえば、シグレさん。先日はありがとうございます」
「? なんでしょう?」
今回の料理大会で使うこととなった魚──カベラ。
セレがお土産として持ってきてくれたのがヒントとなったわけだが、そもそもはシグレさんがハイケアの土産といえば……と提案してくれたらしい。
俺は料理大会に向けての村での出来事も含め簡単に説明すると、シグレさんは納得した様子で喜んでくれた。
「それはそれは……! 私の提案がお役に立てたようでなによりです」
「シグレさん……というか、アンバー商会も祭に参加するんですか?」
「もちろん。ただ、私の場合は参加……というよりは、運営側ですね。ハイケアの領主様は大変お忙しい方ですので、商業ギルドと連携して本イベントに関しては全権を委任していただいております」
「────え!?」
『領主代行……ってコトですかねぃ!?』
「さすがは大商会を束ねる方だ」
物腰の柔らかさで忘れがちだが、確かにベレゼン王国随一の大商会を束ねるシグレさん。祭の運営を任されるのも納得だ。
なんだか纏う雰囲気がルーエ村の領主さまや、シグレさんにとっての息子にあたるシグルドさんに似ていて、大物を前にした時の緊張感はあるものの威圧感のように言葉が抑え込まれるような感覚はない。
時に冷静な判断を求められる立場とはいえ、常日頃はこうして相手の意見を引き出す……というのも意識しているのだろうか? と勝手ながら思ってしまう。




