第九十話 ハイケア祭・前日~嵐の予感~
しばらく家を空けていたので更新遅くなりましたm(_ _)m
書籍一巻をお手に取っていただいた皆様、改めてありがとうございます。
本編前に少し告知させてください。
先日TOブックス様より、書籍第二巻の発売日と表紙イラストが公開になりました!
10/10(木)発売です!大感謝!
TOブックス様公式サイトをはじめ、各サイトご予約も始まっております。
ご購入いただけるともちろん嬉しいのですが、まずは三登いつき先生の素敵な表紙イラストをぜひご覧ください!!本当に毎回最高のキャラクターを描いていただいて幸せです。
webをお読みいただいている皆さまなら、「表紙はきっとあのシーン辺りかな……?」と予想して頂けると思います。ドジっ子ツークがとても可愛いです。
そして今回も共通の書き下ろしと、TOブックス様公式サイト・電子書籍特典SSがございます。
大まかな内容をまとめましたので、ご購入検討の際にはぜひ参考にしていただけますと嬉しいです。
【共通書き下ろし】
「リシトのレシピノート~トマトの海に浮かぶ島~」
二巻メインメンバーでわいわいやってます。
【TOブックスオンラインストア限定特典SS】
メナールとアドルがお好きな方にオススメです。
何だかんだ言いながらメナールがアドルを(ケンカしつつ)受け入れているのはこの一幕があったから……という一場面を書きました。
メナールにとって人と関係を築く時に大切なことは何か、がテーマです。
9月8日(日)までにご予約いただけると、発売日のご到着になるみたいです。
【電子書籍限定特典SS】
ツークがカワイイお話です。
リシトとツークの普段の掛け合いがお好きな方にオススメです。ただただカワイイ。
また発売日が近づきましたら再度告知させてください。
では本編へどうぞ!
「──あ、おぢさん!!」
『!』
「!?」
「! ……あ、えっと──ミリィ!」
以前、村でベルメラに作ってもらったというドレスを披露してくれた少女。
今日もそのドレスを身に纏い、ご機嫌な様子で駆け寄ってくると俺を見上げてくる。
「先日はどうも」
「こちらこそ。屋台、頑張ってくださいね」
ミリィの母親であるリリィさんも遅れてやってきた。
どうやらミリィの父親……リリィさんの旦那さんが、収穫した野菜などを今回祭で売るみたいだ。その手伝いと、ベルメラをはじめ村の女性陣が作った工芸品を売るスペース、その両方に参加するらしい。
大忙しだがミリィの誕生日のお出かけも兼ねているため、比較的自由にさせてもらっているみたいだ。
「──リスちゃんもバイバ~イ」
『ッス~~』
軽く挨拶を交わして二人と別れる。
ツークは尻尾を振ってミリィに別れを告げた。
終始じっと黙って一歩引いていたメナールの方を横目で見てみると、なにやら悔しそうだ。なんで?
『怒るに怒れないんじゃないですかねぃ?』
「怒る?」
『お嬢がそう言った時はすぐに訂正を求めやしたからねぇ~』
「ベルメラが……?」
最近はそうでもないが、メナールとベルメラが顔を合わせると大体いつもそんな感じだ。
何の事だったかと思い出していると、メナールが咳払いをして先を促す。
「そっ、そろそろ行きましょうか、リシトさん」
「ん? ああ、そうだな」
『受付したら昼食の時間ですぜアニキィ!!』
「はいはい」
広場の市を一通り見終え、当初の目的地である商業ギルドを目指した。
『きもちいーッスねぃ~』
「ほんとにな」
港と市街地とを隔てるかのように建つ高い壁。恐らく風避けなんだろう。
そこをくり抜いたかのようなアーチをくぐれば、涼しさと生暖かさ。両方を感じる潮風が吹き抜けた。
ツークは俺の肩でぐいーっと体を反らして、風を体で捕まえるかのように海辺の街というものを感じている。
「……」
「どうしたメナール?」
「いえ。その」
隣を見ると、煌めく海を呆けた様子で見つめるメナールの姿が。
なんだかハイケアに来てからは表情豊かになった気がする。
「依頼を伴わない移動というのは、滅多にないもので……。ここの海は、こんなに美しかったのかと」
「なるほどな」
それは俺にも覚えのある感覚だ。
たとえば初めてルーエ村を訪れた時。
これから始まる生活への不安や期待もあったが、何より依頼を受けて訪れたわけでもない新しい土地は、どこかいつも来訪する土地とは違って見えた。
それが忙しさの中のつかの間の休息としてのものなのか。
はたまた、『冒険者』としてではなく、一人の人間として訪れたことで違って映ったのか。
それは分からないが……メナールの気持ちはよく分かる。
いつも何となく見えていた海が、今はより輝いて見えることだろう。
「心の在りようで変わるなんて不思議だよな。同じものなのに」
「……そうですね」
ハイケアは美しい街だ。それは間違いない。
ただ、ベレゼン王国の他の土地だってそれぞれに根付く人々がいて、美しい景観があって、祭のような風習だってある。
冒険者として訪れた俺たちがそれを、どう捉えていたかの違いだ。
仕事中は緊張していたのかもしれない。
パーティメンバーに気を遣って余裕がなかったのかもしれない。
目的のために集中していたのかもしれない。
とにもかくにも、それらは他人事であった。
今は、ルーエ村の一員として祭に参加するために来た。
『暮らす』というのは、そういうことだ。
俺でさえそうだったんだ。
Aランク冒険者であるメナールの心境は計り知れない。
今回祭に参加することが、メナールにとって良い息抜きとなればいいな。
『普段からお店がたくさんなんですねぃ』
ツークの言うように港側も道に沿って建物が並んでいて、飲食店が多いようだ。
「ご飯はもう少し後だぞ」
『わっ、分かってやすって!』
こちらでも同じく祭の準備をしていた商業ギルドの者に場所を聞き、海沿いの道をひたすら歩いた。
◇◆◇
「『(うわぁ……)』」
「──あーら! メナール・アイレ様! 冒険者であるあなたが、商業ギルドにいったいどんな御用があるというのかしら?」
「……」
デジャヴ。
まるでベルメラとメナールのやり取りを見ているかのようだ。
目的地に着いた俺たちは、ハイケアの冒険者ギルド同様立派な建物に驚きつつも、中に入ろうとした。……ら、上品な身なりをした女性と鉢合わせてしまい、現在に至る。
「……」
『(む、無言を貫いてやすね……)』
「(ベルメラとはまた違った反応だな)」
メナールはベルメラに対してはもう少し感情的だ。
だが、今はどちらかと言えば無表情。
相手にしない、という感じだ。
街中を歩いた時に向けられた視線への対応とよく似ている。
身なりと供の者がいることから察するに、相手は貴族のご令嬢だと思うんだが……大丈夫だろうか。
「……はぁ」
「あらまぁ、ため息だなんて。いったい何が貴方をそうさせるのかしら?」
「『(貴女でしょうね……)』」
ゆったりと話す落ち着いた雰囲気と、どこか棘を含んだ言い方のギャップが怖い。
やはり貴族というのは俺たちとは違う気がする……!
ツークは久しぶりの余所行きモード。俺の肩でピシッと石像のように固まって動かない。
「リューベンス男爵令嬢、道を譲ってはいただけないだろうか」
おお……やっぱり貴族のご令嬢か。
男爵家のお嬢様なら、メナールとは同等の家格といえるんだろうか。
「ええ、もちろんですわメナール様。でもその前に教えてくださる? ──貴方の来訪の意を」
そう言うと、扇子で自分の口元を隠して俺の方をチラリと見る。
こ、こわい……!
『っ』
「っ」
ルーエ領の領主さまはその身分に関わらずものすごく気さくな人だった。
だから緊張しつつも口を開くことに躊躇いはなかったが……。
こう、本当の意味での貴族というのを垣間見た気がする。
そもそも俺の存在は、この場において彼女に認められていない。
そんな風に感じてしまう。
ツーク同様、俺の身体も石像のように動けなくなってしまう。
「もちろんだ。恐らく貴女と同じ理由──ハイケア祭に参加するために来た」
「! わたくしと、同じ……? 剣術大会……ではなく?」
考え込むような仕草を見せるご令嬢。
商業ギルドの入り口で高貴な者とAランク冒険者が言い争っていれば、そりゃぁ人の目につく。
徐々に周辺が騒がしくなってきた。
「わたくしの記憶が正しければ、貴方はAランク冒険者。そうですわよね?」
「ああ、そのとおりだ」
「そのような方がお受けになる依頼……、わたくし興味がありますわ」
「いや。依頼ではない」
「?」
「これは私個人の理由で参加を決めたこと」
「!! なんですって……!?」
ちょ、俺の預かり知らないところで話がどんどん壮大に……!
そもそもメナールは俺の手伝いよりも剣術大会の方がメインだろうに!
「……ふっ。やはり貴方は、ミゼル様の永遠のライバルにして最大の障害ですのね」
「『!?』」
その口ぶり……まさか!!
「いいでしょう! このロベルタ・リューベンス。貴方の挑戦、受けて立ちますわ!!」
「私がいつ挑戦を申し込んだんだ……」
俺とツークも密かにメナールに同意するよう頷く。
「ミゼル様に百本の薔薇を捧げるがごとく、100パーセントの愛を尽くす。それがわたくしたち『幻想の薔薇会』の使命! 王都以外で貴方とミゼル様の戦いを見届けることになったのも驚きでしたが、まさか我々会員と店でも争うことになるとは……」
「私はあくまで世話になった者の店を手伝うに過ぎない。勝手な物言いは控えて欲しい」
「あら」
「っ!」
先ほどまで道端の小石を見るような、大したものを見るような目ではなかった。
だが、メナールの話を受け、俺に注ぐ視線はまるで真の敵を見付けたかのような鋭いものへと変わる。
「……ふっ。わたくしたち『幻想の薔薇会』の店は、昨年の料理大会、物販の両方で多くの者に支持されましたの。ミゼル様本人はお忙しいですから。その名を轟かせるために、地方へはわたくしたちのような会員が赴く他ありませんもの。花の都と謳われるユルゲン領産の花々を用いた逸品、そう容易く超えることはできないとお思いなさい!!」
「…………はぁ」
メナールのため息の理由が分かった気がする。
ベルメラもそうだった。
使命とやらは立派だと思うんだが、その熱量が凄すぎるせいか対話がまるで成り立たない……!
村でミゼルと会った時のメナールは、きっとミゼル本人との思い出の他に、彼女ら『幻想の薔薇会』とのイザコザも頭を過ったことだろう。
たしかに王都では大変だっただろうな……。
というか、ミゼル本人は王都以外での知名度は低いと思っているようだったが、彼女らのおかげで意外と名は知れ渡っていたりするんじゃないだろうか?
「勝負ですわ! メナール・アイレ様と、──その従者!!」
「…………待ちたまえ。従者、だと?」
「『!?』」
その言葉にピクリと反応したメナール。
まずい。今度は別の意味で荒れそうな気がする。
頼むから気のせいであってくれ。




