第七十六話 幻想的な男③
感想等ありがとうございます。
相変わらず他サイト用作品を書きためているので返信まで及んでおりませんが、とても嬉しいです。
次回土曜日更新予定です。
普段以上にラフな格好をしたアドルがミゼルの背後に立つ。
いつの間にか馬車は別の場所に移動していたようだ。
「……?」
訝し気にミゼルをじっと見つめる。
身長は少しだけアドルの方が高い。
見下ろすような視線に応えるかのように、ミゼルの体はわなわなと震えた。
「ふ、ふふ……ふふふ。なるほど……。田舎だと侮っていたが、おれの美しさには及ばずともなかなかイイ線ではないか。認めよう。君も、おれの好敵手だと!!」
「ええ……?」
『どうして……』
メナールと会う前から、どうやら好敵手がまた一人増えたらしい。
確かにアドルもミゼルとはまた雰囲気の異なる美形。だが、それだけで好敵手宣言はあまりに一方的過ぎる。
「はあ? んだコイツ。バカ?」
「ばっ、バカとはなんだ! バカとは!」
「うぜぇ。知り合いか?」
「俺も何と言えばいいやら……」
メナール同様、後輩と言えば後輩だが。ランクは上だし、相変わらず躍進した後輩たちと関わると俺の立ち位置が行方不明だ。
「えっと、冒険者の知り合い……?」
「『幻槍』、と聞けば分かるだろう?」
「いや? 知らねぇ」
「なっ──!?」
「ミゼルマイドさんのプライドが粉々になる音が聞こえる……」
王都と勝手が違い過ぎるせいか、ミゼルの自信に満ちた表情が徐々に仮面のように剝がれていくようだ。
「つか、美しさって何だ? それで好敵手? ワケわかんねぇ」
「ふ、ふっ! 君は知らないのかもしれないが、おれは王都で最も強く、美しい男と言われているのだよ!! それはつまり、ベレゼン王国でもっとも──」
「へー。あっそ」
「ぐぬぬっ……!」
まるで興味のなさそうなアドル。
いや、気持ちはよく分かる。
『(また天敵が現れやしたねぃ)』
「(だな)」
「(正直助かります)」
俺たちはこそこそと次々現れるミゼルの天敵に感謝を述べる。
「いや、冒険者なら腕磨けよ。美しさなんて二の次だろ」
「今! この瞬間において! 正論は不要! 必要なのは、己の誇りをかけた熱き闘い!」
「やっぱコイツ、バカ?」
「正論って分かってるのウケるんですけど……」
「リシト!! 王都にいた君なら、おれの美しさは分かるだろう!?」
「え?」
美しさかぁ。うーむ。
確かに顔立ちはかなり整っているし、お金の掛かった装備や綺麗な肌を見るに、見た目に気を遣っているのもよく分かる。女性に大人気なのももちろん知っている。
ただ、王都にいた頃は自分とパーティのことで頭が一杯で美に対する意識も薄かった。
しかもこっちに来てメナールやアドルに見慣れてしまった以上、どうしても反応は薄くなる。
「えーっと、……皆、かっこいいよな。うん」
「相変わらず君は……!」
「おっさん、気遣わなくていいぞ」
気は遣ってないんだが、こう、上手い言い方が分からん……!
「──アドル殿? 入り口で止まって一体何が……」
「『あ』」
更にまずい展開。
今この場において、最も登場してはいけない人物が──!
「メナールさん!」
「!? メナール……アイレ!!」
「あーー……魔法剣、とりあえず家帰れ」
「?」
未だアドルによりミゼルの姿が確認できないメナールは、事態を飲み込めていない。
「ふっ、ようやく来たか! 待っていたぞ!!」
声高らかにミゼルが言えば、メナールも異変を察知した。
「その声は……」
「君の永遠のライバル──『幻槍』のミゼルマイド、来たれり!!」
「……」
デジャヴだ。
アドルの横から店内を覗き込むと、メナールはベルメラと全く同じ表情になった。
「魔法剣も大変だな。アホに付きまとわれて」
「誰がアホだ!」
「メナールさん、帰った方がいいですよ」
「ふん! そうはさせないぞ」
「はぁ……」
メナールの悩みの種が一つ増える瞬間を目撃してしまった。
……ん?
「あ」
「『?』」
「いや、全然大したことじゃないんだけど」
本当に大したことではないが、俺は気付いてしまった。
「メナール、アドル、ミゼル。三人とも、名前の三つ目に『ル』って付くん、だなぁ……って……ごめん……」
「「「…………」」」
イヤそう。すっっごいイヤそう。
特にあっちの二人がもの凄い拒絶反応を示してる。
せっかくの綺麗なお顔が台無しだよ君たち。軽い気持ちで言って誠に申し訳ない。
「リシト、忘れてはいけない。おれの名前はミゼルマイド……どうだ、彼らと比べ麗しい響きの名だろう?」
「お、おう」
「麗しい名というのは、自ら名乗らねば認知されないのだろうか?」
「……君とはやはり決着をつけなければならないようだ、メナール・アイレ」
「私は特に必要性は感じない」
「名前がどうあれ、本人がアホじゃあなぁ」
「ぐぎぎぎぎッッ」
ミゼルという存在のおかげで、どこかメナールとアドルの仲が縮まっているように感じる。ある意味、ミゼルが来てくれたのはいい機会だったのかもな……。
「なんか……裏表がないからって、変な人もいるんだな……勉強になる……」
『メナールも罪な男ですねぃ』
「やはり必要なのは己の誇りをかけた熱き闘い……! 言葉は不要、メナール・アイレ──勝負だ!!」
「……はぁ」
「いや、いきなり押し掛けといてアホか。言葉は必要だろ」
強さの勝負はともかく、美しさの勝負もあるんだろうか?
「ふん。君はいいよな。家柄もスキルもあれば──それだけで、人々に認めてもらえるのだからな。確かに他人との勝負は必要ないだろうよ」
「……」
「こら、ミゼル。そういう言い方をしたら──」
「君も君だよリシト。いきなりメナールなぞと組んで、知名度でも上げようとしたのか? 身の丈に合わないことは止めたまえ」
「……!」
「え? いや、知名度なんて全然ないが……」
「知らないのか? 王都のギルドでは話題に挙がっているようだぞ」
「ええ!? なんで……」
あれか。メナールがさっくり倒してしまったから忘れがちだが、やっぱり獄炎鳥なのか……!?
「アドル殿」
「あ?」
「一時休戦といこう」
「奇遇だなぁ、オレもそう思ってたところだ」
「見えないものに振り回されるのが、……自分だけとは限らないのか」
「そりゃ、な」
「だったら──」
メナールは一歩前に出、何かを決心した様子で言う。
「お受けしよう。この剣は、善にして敬虔なる目的のために」




