第七十七話 ミゼルとメナール
「ほう……! まさか君が素直にそう言うとは。意外だな」
ミゼルは驚きつつも、両手を広げて挑戦を受け入れたメナールを歓迎した。
「ふむ! いいだろう! ではさっそく──」
「(まずいよな……)」
「(まずいですね……)」
『(アニキ、やばいッス)』
右肩に立つツークが、震えた声で俺に耳打ちをしてくる。
先ほど俺たちはベルメラに何と言った?
……そう、『ミゼルが変なことをしないか見張っておく』と言ったばかり。
Aランク同士の私闘は、確かに興味を惹かれるものではあるが……少なくともあのベルメラはこの村で行うことを好ましく思わないだろう。
どうする。
どうすればいい──!?
「あ!」
「「?」」
ちょうどいいイベントがあるじゃないか!
「どうせなら、剣術大会で闘ったらどうだ?」
「剣術大会?」
「一か月後にハイケア祭ってのでやるんだってさ。スキル含め魔法は無しで。ミゼルもさっき言ってただろ? 王都以外で、名声を轟かせるにはどうすればいいかってさ」
「ふむ……なるほど」
「リシトさん、ですが」
メナールの言いたいことも分かる。
ミゼルの得意な武器は槍。しかも派手な。
馬車に置いてきたんだろうが、まるで騎士団が式典で使うものなんじゃないかと思うほど装飾が施されている。
剣術大会ってことは、文字通り剣技を競う大会なんだろう。
ミゼルには不利に思われる。
だが、ミゼルは舞台で騎士役を演じることが多々あり、その稽古は並みの練習量ではない。
ミゼルは自分が常に一番で在り続けるために、自分に厳しい男だからだ。
「俺が言うのもなんだが、ミゼルなら大丈夫。剣も得意なんだ」
「まあ、おれに不可能はないからな。武器はあくまでおれの強さを高める手段に過ぎない」
「なんせ、人一倍努力か──」
「っ!? リリリ、リシト!!」
「ん?」
その理由を伝えようとすれば、慌てたミゼルに左肩を掴まれ耳打ちされる。
「(ばっ、だから君はモテないんだぞ!!)」
「(ええ!? ……そういうものか?)」
「(そういうものだ!)」
なぜか叱責を受けるとミゼルは気を取り直して言った。
「ま、まあ! このおれにかかれば、剣だろうが槍だろうが関係がない。まして、魔法も禁じられた状況ならば、身体能力だけが己の刃……いいだろう!! そこが決戦の場だ!!」
「……承知した」
「魔法剣出るならオレも出るか」
「君ならば確実に勝ち上がることだろう。首を洗って待っているといい……優勝は、このおれだ!!!!」
この場にいる全ての者に宣言し終えると、「ハイケアで会おう」と言い残してミゼルは去って行った。
嵐のようだった……。
「……えーっと、なんか、ごめん」
『ッス』
ひとまず代替案で無茶振りをしたメナールに一言謝る。
「いえ! 私は構わないのですが……」
「ベルメラさんに、彼が村で変なことしないよう見張っとくって言ったばかりだったんです……」
「ああ、なるほど」
ようやくいつもの温厚な顔つきに戻ったメナールは、ベルメラの言動が容易に想像できたのか納得した。
「それにしても、そこまでミゼルに絡まれてたんだな」
王都のギルドでそう現場を目撃することは無かったが、Aランク同士、俺たちの知らないところで現場が重なることもあったんだろう。
「ええ、まあ……色々と……」
「大変だったんだな」
「だが、魔法剣と対等の剣技だと自負してんだろ? やり手なのな。見た目はアレだが」
「ああ。実力は間違いなく、Aランクでもトップクラスだ」
「あそこまで自分を信じてると、いっそ清々しいですね……」
その強烈な印象で隠れてしまいがちだが、ミゼルは間違いなく強者。
スキルはメナールほど強さに直結するものではないからだ。
ああ見えて戦闘においては計略に優れ、その上でAランクに君臨している。
いかにメナールといえど、しっかり準備しなければ大会で勝つのは難しいだろう。
「つか、その前にオレが魔法剣に勝ったらどうすんだ? アイツ」
「それはないから安心するといい」
「ハァ~~~~?」
「飛び入り参加もあるって言ってたし、当日にならないと対戦相手は分からないだろうなあ」
メナールも祭りに参加することになったし、俺も益々早めに準備しないとだ。
「そもそも俺も大会、観られるかな?」
『ワクワク』
「祭りは三日間。剣術大会は祭りの最終日、んでその頃にはもう他の店は閉める」
「お、なら見学できそうだな」
『イエーイ!』
ハイケア祭、どんな祭りなんだろう。
一波乱ありそうではあるものの、楽しみだ。
次回水曜日更新予定です。




