第七十五話 幻想的な男②
入り口付近で話し込んでいた俺たち。
一斉に声のする方へと視線を送ると、そこにはベルメラの姿が。
「ベルメラ!」
「! これはこれは……。おれの知らない可憐な花が咲いているとは、辺境も捨てたものではないな。はじめまして、おれすらも霞むほど美しい方。おれはミゼルマイド。『幻槍』、と聞けば思い当たって頂けるだろうか?」
「はい? 全く知りませんけれど」
「っな──!?」
さ、さすがベルメラ。よその男に容赦がない……。
よそのギルドにもそう多くは行ってないだろうし、ルーエ村でミゼルの話題を挙げるような若い女性も少ないだろう。ベルメラが知らないのも無理はない。
「ふ、ふっ。大方、おれのあまりの美しさに慄いているのだろう。どうか気を楽に」
「? 訳の分からないことを言っていないで、さっさと退いてくださいます?」
辛辣だ……そしてミゼルもめげない。
「ある意味彼の天敵ですね……」
「そうだな。こんなにベルメラが頼もしく見えるとは……」
『お嬢、さすがッス!』
ミゼルの雰囲気に飲み込まれていた俺たちは、ベルメラを妙に頼もしく思った。
「とりあえず……な、中に入ったらどうだ……?」
入り口であーだこーだ言うよりは、ひとまず着席してもらった方が落ち着くのではないか。そう考えた俺はテーブルを指し示して席に着くよう促した。
「待て、リシト」
「え?」
俺にビシッと掌を向け制すると、ミゼルは自信ありげな表情を見せおもむろにスキルを発動した。
「「──!」」
初めて見るアビーとベルメラは驚いた。
それもそのはず。今目の前には、ミゼルが二人いるからだ。
「儚くも美しい夢、希望……幻。それらは人知れず泡沫のように消えゆくもの……しかし、何があろうとおれは決して消えはしない。そう──おれだからだ!!!!」
「大仰な口上ですね……」
ベルメラを間に挟むように側に寄る二人のミゼル。
側に寄られたベルメラの表情は、正直に心境を物語っている。
「美しい男が二人……これがどういうことか分かるかな?」
「『さ、さあ』」
「強さも美しさも──二倍ということさ!!」
「『(単純──!?)』」
ミゼルのスキル、【有幻】。
魔力で作り出した幻は、実体のあるなしを自由に使い分けることができる。
それは自分の分身に限らないのだが、いかに先天魔法といえど魔力の消費が激しいらしく、よくて数分もてばいい方。
精密さを要求されるため、自分以外の生物を模ることはできないらしい。
いつも気合いを入れる時……まあ、十中八九女性を相手にする時には、スキルで胸元に薔薇の花を添えるようだ。
「はい? よく分かりませんが、わたくし暇ではありませんの」
「っ!?」
「ベルメラさんに全然響いてない……」
「今日はどうしたんだ? 開店はもう少し後だが」
「忘れるところでしたわ。メナール・アイレはおりませんの?」
「いや、今日はまだ見ていないな」
「あら、そうですの。モリクに、メナール・アイレがわたくしを探していると聞いたものですから」
「へえ?」
先日の一件でずいぶん打ち解けたんだな。いいことだ。
「メナール・アイレ!? あなたも、彼を探して……?」
「も? ……あなたまさか、この村で何かする気ですの?」
冒険者らしいド派手で不可解な男が、Aランク冒険者であるメナールを探す……。確かに、ミゼルを知らない者からすれば怪しく映るな。
ただでさえベルメラが毛嫌いする条件の揃ったミゼルは、更に鋭い目つきを向けられた。
「い、いやっ。た、ただの交流! そう、交流だとも!」
「ふうん……? まあいいですわ。もしこの村で何か事件を起こそうものならば……わたくしが容赦しませんことよ」
『(こ、こえええー!?)』
「お、俺たちも変なことしないか見張っとくよ」
「ええ。是非そうしてくださいな。……では、ごきげんよう」
「どもー」
本当にメナールを探しに来ただけらしいベルメラは、颯爽と去って行った。
「なんか、いつもよりトゲトゲしくないな」
『イイことでもありやしたかねぇ』
「ま、嵐のようではありましたが」
アビーはやれやれと首を振りミゼルを見ると、ぎょっとした。
「どうした?」
「え? い、いえ。前向きな方だなと……」
「? 確かにな」
俺は後ろ向きな思考というほどでもないが、どうしてもリスクを恐れて慎重になる節がある。
だが、ミゼルは自分に絶対の自信を持っていて何事にも物怖じしない。
その絶対の自信というのには実は根拠があるのだが……ミゼルを深く知らない者からすれば、ただ前向きで自信家な男に見えるだろうな。
「ふむ」
「どうした?」
「いや。王都以外の地でおれの名声を轟かせるにはどうしたものかと思ってな……」
「メナールさんと競うのはどうでも良くなってる……」
真剣に悩み始めるミゼル。
その背後から、さらに別の人影が現れた。
「おっさん、邪魔するぞ──ん?」
「『あ』」
「む?」
まずい。メナールとの組み合わせもそうだったが、恐らくこの組み合わせも相当まずい。




