第七十三話 ツークの従魔道~必殺技~
「──ただいま、ハンナさん」
「おや! お帰りリシト、ツーク。それからメナールも。無事でなによりだよ」
『戻りやしたぁ!』
「……」
宿に戻れば、作業中のハンナさんが廊下の奥からひょこっと顔を出して出迎えてくれた。
メナールは軽く頭を下げると、どこか上の空で食堂に入ろうとする。
「食べていくか?」
「……え!? あ、え。……きょ、今日は、帰ろうかと」
「そうか?」
自然と食堂に入ったから、てっきり夕飯食べていくかと思ったが。
剣術大会、そんなに出るか迷っているのか?
「俺はいい機会だと思ったが、決めるのはメナールだからな。無理はしないでくれよ」
「! はい、もちろん……そのつもりです。では、また」
『お疲れッス~』
深く一礼した後、食堂の方から外へと出たメナール。
「メナール、真面目だからなぁ」
『ッスねぇ』
もしかすれば兄との確執もそうだが、自分の剣技を他人の前で披露するというのにどこか抵抗があるのかもしれないな。
「まぁ、メナールは他人にどう思われても……自分の信念は揺るがない強者だ。あとの判断は彼に任せよう」
『ウイッス!』
俺やアドル的にはメナールの剣技が優れていることを他人に分かってもらいたいという想いがあるものの。
メナールからすれば、それは必要のない賛辞なのかもしれないな。
「うーん、これもお節介なんだろうか……」
サポートに徹している状況でなくとも、他人のことばかり考えてしまう。
せめて『おっさんは邪魔だ』なんて思われないようにしないとだな。
◆
『──アニキ。折り入って、頼みがありやす』
「うわ。またずいぶんと神妙な……」
一夜明け、念のため食堂は休みとしていたためにベッドの上で微睡んでいると俺の胸元にやってきたツーク。
まるで重大な秘密を打ち明ける時のような、凄んだ顔をしている。
ただツークの場合、こういうのは大体【収納】内の食べ物を勝手に食べたことを申し出る時なんだよな……。
『オレっちに──修行をつけてくだせぇ!!』
「修行?」
意外な申し出には正直驚いた。
『ほら、今後食堂に村の外から冒険者たちが来るとなると、アニキの人望に嫉妬した奴らとトラブルになると思うんですよねぃ』
「すごい突飛な妄想だな、ツーク」
確かに今よりも多くの冒険者が再び村を訪れることになれば、自ずとトラブルは増えるだろう。
冒険者向けの食堂がここにしかないなら、なおさらだ。
だが、高ランク冒険者の知り合いが増えたとはいえ、さすがに俺の人望に嫉妬というのは心配し過ぎな気が……。
『つまりオレっち──、アニキ専属用心棒デビューを目指そうかと!!』
「おー……」
一応、その意気込みに気圧され拍手を送ったものの。
またツークが変なことを言いだしたぞ。
あれか? 今回の依頼で見たメナールやアドルの姿に触発されたか?
「いきなりどうしたんだ?」
とりあえず寝ながら聞く話でもなさそうなので上体を起こすと、ツークはテーブルまで飛んでいき改めて神妙な面持ちで語った。
『いえいえ、以前から考えておりやしたとも』
「そ、そうか」
ビシッと俺に小さな手を向けて語るツーク。
アツい男なのは知っていたが、まさかここまでとは……。
『ほら、人には剣術大会だのなんだの、実力を示す機会がありやすよねぃ?』
「ああ」
『でも、従魔にはありやせんから!』
「ま、まあな」
つまり、従魔の実力を披露する場がないから、食堂のマスコットならぬ用心棒を目指すと……。分からん。ツークの目指す先が、分からん!
俺の相棒はいったいどこへ行こうとしているんだ。
「だったら俺じゃなくてメナールとかアドルの方が……」
『いえいえ、アニキ。奴らには剣という武器がありやすが、オレっちには何もありやせん』
「そ、そうだな」
『つまり──己の肉体だけで勝負!!!!』
「……?」
理屈はその通りだが、……それで俺から何を学ぶんだ?
『補助魔法、オレっちにも掛けてくだせぇ!!』
「! ああ、そういう」
そう言われると強化の掛かった飯を一緒に食べることはあるが、直接的に掛けたことはなかったか。
「転移があるから、素早さは必要ないだろうけどな」
『ッスねぇ! オレっち、一個必殺技考えたんでさぁ!』
「必殺技~?」
なんだろう。転移で急襲するとか?
『フフンッ♪』
「?」
ものすごく得意げなツークの顔。
振り返って背中側を俺に晒すと、ご機嫌なのか尻尾が揺れた。
「……なんだ?」
『オレっちの華麗なる尻尾さばき!! これに【力】が加われば、向かうところ敵なしッス!!』
「あ~、尻尾か」
転移や空間魔法を用いた方が、よほど『必殺技』っぽいが……まぁ付き合うか。
「で? 俺はどうすればいいんだ?」
『ひとまず薪割りやってみやす!!』
「それはいい」
ハンナさんの手伝いにもなるし、丁度いいな。
「んじゃ中庭行くか」
『ッシャア!!』
気合い充分なツークを伴い、朝飯も食べずに庭へと出た。
『テイルアタァーーーーーック!!』
「!」
その衝撃に音をつけるならば──もふん。
いくら振り下ろす力を魔法で底上げしても、攻撃の要である尻尾自体がふわっふわ過ぎて力が分散されるようだ。
『ソンナ……』
ずーんと肩を沈ませ地面にうずくまるツーク。
側には縦に割れることなく、ただ吹っ飛ばされただけの木。
「あ、えーっと……【黒の鎧】を尻尾に掛けたらなんとか……」
『いいんです……慰めなんていらねぇッス……』
「その、ふわふわには、きっとみんな癒されると思うぞ」
自分でもよく分からないフォローを入れる。
『どうせオレっちなんて……兄さん方の足元にも及ばねぇッス……』
「ほら、ツークには空間魔法があるだろ。急にどうしたんだ? メナールやアドルに憧れたのか?」
『ウッウッ、オレっち……何もお役に立てなかったもので……』
「いやいや、充分助けられてるじゃないか」
いかん。たまに訪れるツークの自問自答期。
普段がアツい分、落ち込むと一気に落ち込むんだよな。
ルーエ山地で活躍できなかったことにしょげているらしい。
「あー、ツークがいなかったら、報酬も上乗せされてたか怪しかったなぁ~」
『……』
「野営セット持ち歩かなくて、いつも助かるなぁ~」
『……!』
「マーカスさんも、危なくなったらすぐ転移してもらえるって分かって、安心しただろうなぁ~」
『……!!』
よしよし、目に力強さが宿ってきたぞ。
「ツークにしか出来ないこと、沢山あるなぁ~」
『…………!!!!』
スッと立ち上がり、いつものドヤ顔で腰に手を当てる。
復活のツーク様だ。
『オレっちにしか……出来ないこと!!』
「そうだぞ。別に必殺技なんかなくても、いっぱいあるじゃないか」
『ウオオオオオオ!!!!』
「その意気だぞツーク」
漲らせた闘志がどこに向かうかは分からないが、ひとまず気落ちしたツークを復活させることには成功したようだ。
次回は木曜に1話更新予定です。




