第七十二話 お祭り
「──ハイケア祭?」
拠点『尾』にて、休むには充分な部屋を提供してもらい一泊。
そうして帰り道はシグルドさんの【マッピング】を辿り、一直線。
補助魔法の効果も併せ駆け足でルーエ城を目指せば、日が落ちるよりも前には帰還することができた。
領主さまの居る部屋へと通され労いの言葉と共にもたらされた提案は、魅惑的な響きのするものだった。
「左様。昨年種を蒔いた小麦の収穫も最盛を迎えるこの時期。各領でも収穫に際した催しは行われると思うが、海にも面したハイケアでは更に盛大に祝われることとなるのだよ」
「へぇ」
『~っしゃぁ! お祭りですぜアニキぃ!』
祭りかぁ。ふつうの収穫祭よりも盛大に祝われるらしい。
王都にも祭りはあったが、収穫を祝うというよりは建国や王族の生誕に基づいた祭りが多い。
地域色の強い、一味違った催しなのだろう。
ツークもどこか目を輝かせている。
「リシトさんの村でも、収穫祭はあったのでしょうか?」
王都で生まれ育ったメナールは地方の催しが珍しいようだ。
「そうだなぁ。うちの村は小さい規模だが精霊祭だったな」
「古いしきたりを守っていらっしゃるんですね」
「土地や魔素、神の恵みへの感謝とは、ひいては精霊への感謝だろうからね」
シグルドさんや領主さまに感心される。
確かに言い換えただけであって、感謝する対象は結局のところ同様の存在だろう。
「では、食事前の祈りも精霊への祈りなのですね」
「ああ」
『オレっちはアニキへの感謝ですがねぇ!』
「はいはい、ありがとな」
食事前に捧げる祈り。
祈る対象は厳密には各々違うものの、これまた大抵は同様の存在に帰結するだろう。
「ともかく、ハイケア祭には周辺の他領も含め多くの者が参加する。と同時に多くのイベントも開催されるわけだが……そのうちの一つに、領の特産品を使った料理の人気投票もあるのだよ」
「料理の、人気投票?」
『オレっち向きのイベントですねぃ……ッ』
「メインイベントは別にあるのだがね。しかし、人が集まるところには食も集まるだろう? ハイケアには期間中、多くの出店が軒を連ねる。彼らがイベント期間中に食べた物の中で最も印象に残ったものを投票してもらい、上位三店を発表するんだ」
「へぇ~。王都じゃ店も多いから、そういうのは中々ないな」
しかし出店か……。確かにハイケアだけでなく、他領の者も集まる祭りに出店できるなら、食堂のことを周知するにはもってこいではあるが。
「その、どうやって参加すれば……」
「なに。毎年グレッグが出てくれていたからね。あとは私が商業ギルドに申請しておこう」
「え!? それじゃあ……」
「依頼を引き受けたお礼というほどでもないが。任せてくれたまえ」
『イエーイ!』
食堂を背負う以上、責任重大な気もするが……。何もやらないで待つより、集客効果はきっと大きい。そして村に訪れる冒険者が以前のようになってくれれば……!
「祭りは一か月後に予定されているからね。それまでに店で出す物を検討するといい」
「はい!」
「セレが詳しいですから、妹に聞くといいですよ」
「なるほど……!」
「ハイケア祭、ねぇ……」
「アドル」
それまで一人ソファで足を投げ出して話を聞いていたアドル。
思うところがあるのか、何だか気乗りのしない声だ。
「アドルはどうするんだい?」
「え? アドルも料理を……」
「アホかおっさん。剣術大会だよ、剣・術・大・会」
『イベントの一つですかねぃ?』
確かに王都の祭りでも、騎士団内の模擬戦の一般公開や、参加者を募った武術大会までいろいろある。
こういう祭りには定番のイベントだ。
「魔法剣は?」
「私?」
「確かに。メナール殿も、よい機会であると思うが」
「え、ええと」
顔を伏せて考え込んだメナール。
確かに王都の大会も、出ている様子はなかったな。
恐らく騎士団からの余計な反感を買いたくないが為だろう。
大体いつも別の冒険者が話題を持っていくんだよな……。
「王都じゃないし、確かにいい機会かもな」
「リシトさん」
「オマエが出るなら出るけど」
「……そう、ですね。少し、検討します」
「剣術大会は当日飛び込みもありだからね。焦ることはない。決めたら、モリクに言うといい。私から話は伝えておこう」
「お、恐れ入ります」
あれよあれよと領主さまは使用人を呼び出して諸々を手配してくれる。
さすがだ……。
『アニキは剣術大会、出ないんですかい?』
「なっなんてこと言うんだツーク……!」
「残念だったな、おっさん。ハイケアのやつはスキル含め魔法禁止だぞ」
無理だ。そんなところに放り込まれたら、屈強な男たちの格好の餌食だ。
「ただでさえ剣を振る機会が少ないから、腕が痛くなるだろうな……」
「ハッ、歳だな」
「リシトさんも、よろしければお時間合う際に手合わせお願いいたします」
「え、えぇっと……じっ、時間が合えば、な……アハハ」
しまった。まさかこの年になって、『若い頃から継続しておけばよかった』と思うなんて。
村ではたまに男衆で剣の打ち合いはしていたが。
冒険者となってからは、ほとんど魔法頼りだったからなぁ。
「申し訳ないが、報酬は上乗せ分の精査が終わってからで構わないかな?」
「も、もちろんです」
「後日アドルに持たせるとしよう」
「オレは何でも屋じゃねーぞ」
俺たちが【収納】のおかげで予想以上の魔物の遺骸を持ち込んだために、元々用意されていた報酬に上乗せがされるようだ。
「残りの報告はシグルドとアドルから聞いておこう。二人とも、ご苦労だったね。まずはゆっくり休んでくれ」
人の良さそうな笑顔で領主さまが言うと、俺とメナールは頭を下げ部屋を後にした。




