第三十九話 飽きない工夫と謎の勝負
「おーい、ツークー」
ベルメラにもらった若葉色のチーフ。
そこには紫色の糸で刺繍が施してあって、どうやらベルメラが縫ってくれたらしい。
エプロン共々探していたから、ありがたい。
『──お呼びでしょうか! アニキィッ』
しゅたっ、と手をついてベルメラたちの隣の席に転移してくる。
かと思えば俺の肩にピョンッと飛び乗った。
肩に直接転移すると俺を驚かすかもってことで、いつも飛び乗ってくるんだよな。
気遣いのできる男である。
「ベルメラが、俺たちにって」
『ほ~ん?』
ツークに見せてやると、興味深そうに身を乗り出して鼻をスンスンとさせた。
「これで料理中、ツークが丸焦げになる心配しなくていいな」
『チョッ、縁起でもねぇコト言わないでくだせぇ!?』
肩にいるとやりづらいので、目の前の机に降りてもらう。
手をついて移動していると分からないが、ツークのお腹側は真っ白なふわっふわの毛。
もふりたい衝動を必死に抑える。
チーフを三角になるよう半分にして、何が始まるのかとワクワクしているツークの首に余裕をもって巻いてやった。
『お、おおおおおぉぉ……!』
『ピピィ!』
『……わふ』
応援に駆け付けたフゥとルゥが、ツークの周りで称賛の声をあげている。
『オレっち……、レベルアップですねぃ!?』
「よかったな、ツーク。ベルメラにお礼言うんだぞ」
ツークはベルメラ側を向き、両手を前に揃えてぺこりとお辞儀をした。
「っ、に、似合っていますわ……」
「いいじゃないかツーク」
『ふふん』
得意のどや顔を披露すると、ツークはハッとした。
『あ、アニキィ。時間は大丈夫ですかい?』
「ん? あぁ、そろそろ……」
……といっても、目の前の広場を見回す限り人の往来はそう多くない。
今の時間、村人たちは農作業や砦へ働きに行っているし、他の冒険者は今のところ見当たらない。
「じゃ、じゃぁっ、わたくしたちは──」
「──待ちたまえ、ベルメラ嬢」
「「!?」」
立ち去ろうとしたベルメラを、メナールが呼び止める。
どことなく機嫌が悪そうだ。
「なっ、なんです。メナール・アイレ」
「……まだリシトさんに、言うべきことがあるのではないか?」
「!?」
「言うべきこと?」
この前のことなら、……まぁベルメラの性格上俺に直接言うのは無理ってので、エプロンをくれたんだよな。きっと。
「な、なぜ貴方にそんなこと」
「私はともかく、リシトさんには礼を尽くしてもらいたいものだな」
あ、あれか? いつもベルメラが出来ない依頼を回されてるから……。
ここぞとばかりに発散してるのか?
「……っ」
「まぁ、貴女がそのような方だとは重々承知している。……私たちは忙しい。リシトさんの料理を食べたらすぐ依頼に出発するからな。できないのであれば、早々に立ち去るといい」
「あのメナール殿が、珍しいであるなぁ」
「はぁ……なんかめんどーな予感」
珍しく突っかかるような言い方をするメナール。
「なっ、……っ」
「ほーら、ベルメラ。だから言ったじゃないか。早めに言った方が、あとが楽だって」
「リシトさん、私たちに飯バフとやらをお願いできますか? もちろんお金は払いますので」
「あ、あぁ」
メナールからはもう前金のようなものはもらってるし、それはいいんだが……。
『け、険悪ってヤツですかねぃ……』
「アハハ……」
まぁメナールもこっちにハウスを借りていたとはいえ、元々拠点にしていたわけじゃない。
ベルメラの依頼を回されてわざわざ足を運んでいたようなものだろう。
鬱憤は溜まるのかもしれないな。
「そうだ、リシトさん。ご迷惑でなければ討伐対象の肉、お持ちします」
「ん? あぁ、助かるが……」
メナールの場合、タダでくれそうだからなぁ。
「可能であれば、私たちの夕食をそちらでご用意いただけませんか?」
「お」
それなら、タダでもらってもいい……か?
「吾輩も久しぶりに酒が飲みたいのである!」
「メナールさん家には置いてないので、ハルガさんうるさいんですよ……」
「ならハンナさんに聞いてみるか」
貯蔵庫にある酒。どれが貴重だとか、正直俺じゃ分からないからな。
「…………ですわ」
「ベルメラ?」
ふつふつと底から何かが燃え上がるような声色で、ベルメラが何か言い出す。
「──わたくしも討伐依頼、受けてさしあげますわ!!」
「なんで!?」
たぶんメナールが言いたいのはそういうことじゃないんだが。
「はぁ、ベルメラ。なに言ってんだい……」
「リシト、わたくしたちにも飯バフとやらをくださいな。もちろん、お支払い致します」
「お、おう……」
だめだ。
ベルメラはやる気に満ち溢れている。
俺たちが何か言っても止まりそうもない。
なんだろう。
ベルメラは真面目なんだろうけど、ちょっと周りが見えていない節もある。
頑張り屋さんだが、頑張りすぎてて心配。そんな感じだ。
「ふんっ」
「もー、メナールさんが変なこと言うから……」
「ワッハッハ! まぁまぁ、アビー殿。村にとってはいいことである」
ハルガさんはかなりポジティブだな……。
『兄さん方はどうしやす?』
『ピィピィ』
『おん』
できる男ツークは、フゥとルゥの分をどうするか早速聞きに行った。
『セレ姐さんのちょっともらうから、気にしなくていいらしいッス!』
「じゃ、じゃぁ……五人前、作るぞ?」
なんだかよく分からないが、開店時間と同時に一気に注文が入ったようだ。
◇
「へー」
「うむ、素晴らしい応用力である!」
肉屋に行っていない以上、メインで提供するのは獄炎鳥。
しかしメナールたちには一度ガーリックステーキを作ってやった。
ので、今日は味変。
最初は同じ。塩胡椒で下味をつけ、皮を叩いて伸ばす。
今日はバターではなくオリーブオイルを温めて皮目から焼き、ひっくり返して──
「トマトとチーズ、ですか。斬新ですね」
「さっきマリネで話してたから、ちょうどいいかって」
火が充分に通ったら、皮目の上にスライスしたトマト。
その上から割いたチーズをたっぷり乗せて、フライパンに蓋をしてから蒸し焼きにする。
トマトを乗せたのは獄炎鳥のいい脂がチーズのコクと合わさると、ちょっとくどくなりそうだったから。
マリネでも使っているからトマトの量が多い気もするが、彩もよくなるしいいだろう。
意図せずチーズもそろって、マリネと交互に食べればいい塩気のアクセントになるはず。うん、我ながら絶対うまい。
「まぁ」
「へー、リシト。ほんとうに冒険者かい?」
「むしろ冒険者だから、いろんな場所でいろんな食材と出会う。いいきっかけだったと今は思うよ」
提供前に、伸ばしたい要素。あるいは不安のある要素を聞いて、補助魔法をかけた。
それをツークが皿にタッチして、要望のあった者の前に転移する。
さすがツークだ。頼りになる。
これならしばらくは二人でやっていけそうだな。
席を見渡せば、みんな思い思いの感想を呟いておいしそうな顔をする。
さっきまで険悪だったことなど忘れてしまっているかのようだ。
『いッスね~』
「ん?」
『こーいうの、いッスね~』
「あぁ」
何が、とはうまく言えないが。
俺もそう思う。
しばらくはウー〇ーツークが頑張ります。




