第四十話① だからこそ
「何だったんだろうな」
『ッスねぇ』
メナール組とベルメラ組をそれぞれ見送って、ツークが転移してくれた皿を洗う。
最後の言葉は、
『勝負ですわ、メナール・アイレ!』
『望むところだ』
だった。
なんでそうなったんだ?
『アレじゃないッスかねぇ。お嬢が手土産持ってアニキに礼を尽くすぞってヤツ』
「お嬢? ……ベルメラか」
『ったく。世話の焼ける人たちですねぃ』
「アハハ。ツーク、一応同年代だぞ」
どこか大先輩風を吹かせるツーク。
しかし、そうだな。
メナールとベルメラを見ていて思う。
「ツークと言い争ったこともないし……。パーティでは意見を押し通すタイプでもなかった……。俺なんて、ケンカの仕方も忘れたよ」
どこか、羨ましいという気持ちもある。
ケンカというほど大したものではないが、例えばライバル。
切磋琢磨し合える関係。
若い二人がそうしているのを見ると、自分の若い頃と比べてしまう。
周りに置いて行かれないよう必死で、派手なこともなくコツコツと。
自分で考えて失敗し。落ち込んで、また繰り返す。
ある意味孤独な戦いではあったが……。
「……ま。結果はともかく、ツークが居たからいいか」
『? アニキィ、心配いりやせんぜ。もしもの時は、オレっちが面倒みて差し上げやす!』
「えぇ? さすが、男前はちがうなぁ」
『タハー』
もし、ツークがいなかったら。
この村にも来ていなかっただろうし、自暴自棄に陥っていたかもしれない。
ベルメラにも、メナールにも。
互いが互いを認め合う。
そんな関係性になってもらえたら、一番いいんだがな。
◇
『ふぃー、片付けおっけいですねぃ』
「ツークのおかげで早く終わるな。いつも助かるよ」
『オレっちにお任せぇ!』
今日も今日とて腰に手を当てムンッと胸を張る。
かわいい。
「ちょっと店番いいか? ハンナさんにお酒のこと聞いてくるよ」
『へいっ! こんなこともあろうかと~』
尻尾をピーンと伸ばして、【収納】から謎の紙を取り出した。
そこには『少々お待ちください』と書いてある。
「お、用意がいいな」
『ふふん』
……いつの間に?
「貯蔵庫にいる、なんかあったら来てくれ」
『ウイッス!』
テラス側の席でチョロチョロと動き回るツーク。
ベルメラにもらったチーフが靡いて、どこかご機嫌にも見えた。
「──あ、いたいた。ハンナさん」
「おや? リシト、どうしたんだい」
ハンナさんは裏庭で寝具を洗っているところだった。
桶に生活魔法で水を溜めて、じゃぶじゃぶと繰り返している。
「今晩メナールたちと晩飯を食べる約束をしているんだが、お酒があればと思って。もしよければだが──」
「あぁ! うちの旦那も言ってたけど、好きに使ってくんな。どうせあたしも大して量を飲まないんだし」
くいっと親指を貯蔵庫の方に向ける。
「ありがとう。その、俺だとどれが貴重な品とか分からないんだが……」
【鑑定】でどういったものかは分かるんだがな。
酒の相場はあまり詳しくない。
「そんな気にしなさんなって。……そうだねぇ、しいて言うなら……ラベルに三十年以上ものと書いてある樽やワインは、やめておいた方がいいかねぇ」
「なるほど。年代物か」
「魔物災厄でブドウ畑も荒れたし、それが四十年前だろ? 植えなおして三年くらいで実をつけ始めるから……」
ふむ。村のブドウ畑が再生して最初の収穫。
それで造られたもの……ということだろうか?
「味がどうのってより、象徴さね」
「……あぁ。確かに」
それは貴重にちがいない。
値段がどうであれ、その価値というのは値段だけでは決してないだろう。
「まっ、それ以外ならなんでも持って行ってくんな」
「お金は──」
「なーーに言ってるんだい!」
「ぃっ!?」
手を止め、エプロンで水気を拭いたハンナさんに背中をバシッと叩かれる。
「そりゃぁ、大事なもんを取っておくこともいいがね。大事なもんこそ、使ってもらいたいってのもまた真実さ。あんたにはそうしてもらいたい。それだけさ」
「……あぁ。ありがとう」
ハンナさんも宿の主人も、他人を懐の中に入れてまるで家族のように接してくれる。
宿という職業がそうさせるのか。
はたまた本人たちの気質かは分からないが……。
どこかくすぐったい。
それでいて、温かいものだな。
同時系列の別視点が二話続くので、短めにしました。




