第十三話 カチャパナ、完成!
「──あ、魔法かけるの忘れてたな」
『まぁまぁ。風神の槍とちがって、今日のメンバーはメナールしかいませんし』
「すこしは休むことを覚えてください」
「ハイ……」
なんだかツークとは違う、ある意味保護者のような存在が増えた感覚だ。
いくらランクが上とはいえ、俺の方が二倍長く生きているはずなんだがな……。
「ハンナさんはあとで食べるってさ」
机に並べている最中、顔を出したハンナさん。
掃除がまだ終わらないそうなので、あとで食べるそうだ。
とても助かる、と礼を言われた。
『はやくぅ~アニキィ!』
「はいはい」
とろっと溶け出したチーズが固まる前に、全員で祈りを捧げて食す。
生地にナイフを入れると、断面からは新たにチーズと肉汁で色づいた内側の生地が顔をのぞかせる。外側は澄ました顔をしているというのに、なんて奴だ。
「わっ……」
メナールも思わず感嘆の声をもらす。
『ウオオオォォウメエェェェ!』
ツークは相変わらず、フォークを持った手で押さえながら尻尾でナイフを操り、止まることなく食べている。
「遠慮せずどうぞ」
「で、ではっ。いただきます」
フォークの腹に乗せたそれらを、一気に口元へ運ぶ。
「──! んまい!」
「それはよかった」
続いて俺も食べてみる。
ふわっとした生地に歯を立てると、濃厚なチーズとスパイシーなブラウンゴート。
それから、そいつらの恵みを吸って膨らんだ生地の別の顔。
別々の存在だったそいつらが、嚙むごとに感じられるとうもろこしの甘さを引き連れて一体化しようとしている。
文句なしに、うまい!
我ながらいい出来だ。
影の功労者はタマネギ。
シャキッとした歯ごたえは、一見くどくなりそうなチーズと肉という組み合わせを飽きのこないものに仕立てあげる。
入れて正解だった。
「肉の辛さが、他の具材でうまいことマイルドになっていますね」
「だな」
『オレっちいくらでも食べられやす!』
「食べすぎはよくないぞ」
『タハー』
ツークではないが、これだけ濃厚な味わいだというのに確かにペロリといけてしまう。
このあと依頼がなければおかわりをしたいところである。
『ンマッンマッ』
「しかし、あなたの従魔……ツークでしたか。よく食べますね」
「ほんとにな。胃袋にも収納があるんじゃないかといつも思うよ」
机の上でひたすら口を動かすツーク。見守る冒険者二人。
……なんか、平和だな。
『ふぃ~~、んまかったですアニキ!』
「はいはい、どういたしまして」
「私もいただきました。ありがとうございます」
二人して綺麗に完食。
なんだか気持ちがいい。
「後片付けは私が」
「お、いいのか? 頼むよ」
『オレっちが流し台に運びまっせ~!』
「ツークが皿を転移させるってさ」
「なんと」
空間魔法のスペシャリスト、ツーク様。
……といっても、なんでもかんでも出来るわけでもなく。
視界に入っている物に触れることによって、同じ視界に映る場所に転移させることが可能だ。もちろん自分自身もできるらしい。
まぁ遠くに行けるわけではないので、あんまり使う機会もないようだが。
『よっ、ほっ』
次々に皿に触れ、流し台へと移動させる。
「働き者ですね」
「いい子だろ」
『! ウオオオオォォ!』
「叫んでも効果は変わらんぞ」
『エヘヘ』
いつもの独特なステップで、ご機嫌なのがわかる。
口調はあれだが、こういうところはかわいいんだよな。
「ハンナさんの分は別にしておこうか」
『うっす』
分かりやすいように別のテーブルにマットを敷いて置いておく。
「……ん?」
ふと人の気配を感じて、外を見る。
……だが、誰もいない。
「?」
「どうかされましたか?」
「あ、いや。気のせいみたいだ」
まぁ、村人が通りがかりに様子を見ていただけか?
声をかけてこないってことは、料理人である主人が不在であると知っているんだろうし。
「さて、……では」
「あぁ。いよいよ出発だな」
「正直に申し上げると、くわしい生態に関してはあなたのスキルで見ていただいた方が一番確実かと。注意すべき点だけ道中お伝えします」
「それもそうだな」
以前組んだ時にスキルのことは伝えていたが……、よく覚えているものだ。
「目撃場所は騎士団の砦にほど近い岩場。渡り鳥と同じく、一か所に長くは留まらないタイプの魔物とのことです。最近こちらに居を移したのでしょう」
「ふむ」
「周辺が森ですから、獄炎鳥が狩りをすると木々が燃えてしまうので……。騎士団の水魔法の使い手も、相当警戒しているようです」
「なるほどなぁ」
それは確かに緊急性が高い依頼だな。
メナールに回されるのも納得だ。
「部屋で簡単に荷物の整理をしてきてもいいか?」
特に追加するものはないが、今ツークの【収納】にどれだけの物が入っているかだけでも把握しておかないと。
今回は回復術師がいないので、特にポーション関連は在庫を確認しておかねば。
「はい。私はこちらでお待ちしております」
「わるいな。すぐ戻るよ」
ツークが肩にひょいっと乗ったのを見計らって、急いで部屋へと戻った。
◆
「お待たせ」
「いえ」
ポーションは十分に備蓄があったから問題ないだろう。
一応、自分の剣の状態も確認して刃こぼれはなかった。
……よし。
Aランクの依頼にどこまで食らいつけるかは分からないが……。
なにはともあれ、メナールがいるんだ。
今度は俺が、彼を頼りにする番。
いつの間にか立場が逆転してしまったな。
「では、行きましょう」
「案内頼むよ」
『しゅっぱーーつ!』
すっかりメナールへの苦手意識もなくなったツークは、元気が有り余っている。
俺たちは村の外へと続く道、獄炎鳥が最近住み着いたという岩場を目指して歩いた。




