第十四話 岩場の出会い
「岩が……?」
メナールの案内で、地図を確認しながらそれらしい岩場に着いた。
森の入り口を入って、左に進んだ場所。
木々の中を抜けると突如大きな岩が現れ、それを中心として大小さまざまな岩が転がっていた。
だが、切り立った岩が折り重なり洞窟のようになった空間には、不自然に集められた岩が。
「これがやつの巣というわけですね」
「なるほど、燃えるからな」
周囲を見回せば、岩を遠巻きに見守る木々。
昼過ぎだというのに、どこか陰鬱とした雰囲気が漂う。
『Cランクが……ごろごろ……』
「や、やめろよツーク」
それは呪いの言葉のようだ。
「周辺に魔物の気配はありませんね。獄炎鳥が居ついたせいなのか……」
「ふう」
『お、オオオレっちは、べべべつに怖くありやせんぜ?』
「ほんとかぁ?」
なぜか強がるツーク。
脱かわいいへの意志は固いようだ。
「少し周囲を探りましょう」
「あぁ」
この場所を中心に、徐々に探索範囲を広げることにした。
「……?」
「どうした、メナール」
「しっ。人の気配が」
「!」
『人?』
冒険者だろうか。
たしかに耳を澄ませると、俺たちは歩みを止めたはずなのに小枝の折れる音と、話し声が聞こえた。
「──だからさぁ、あんな」
「!? そ、そこにいるのは誰だ!?」
「……騎士団の者か」
木々の合間からやってきたのは、恰好から見るに騎士団の者のようだ。
三人一組で、一人が後ろを警戒しながら遅れてやってきた。
「なっ、おまえは……メナール!」
「……」
さすがはAランク冒険者。
有名人だな。
「……と、見かけない顔だな?」
「リシト、Bランクの冒険者だ」
「ほう? まさか、あのメナールと組むとはな」
「……どういう意味だ?」
妙だな……。
村で聞いた感じだと、騎士団と冒険者の連携が充分にとれていると感じたが……。
少なくともメナールに対しては、いい感情を抱いているようには思えない。
「私は獄炎鳥の討伐依頼を受けている最中だ。そういった話は別の機会にしていただきたい」
「はっ! 偉くなったものだなぁ」
『ぁ、アニキィ……なんか不穏ですぜ……』
ギルドでの話が本当なら、この村においてメンツがどうだと騎士団と冒険者が対立することはないはず。
つまり、彼らの態度はメナール個人へのものだ。
「騎士団を追われた卑怯者が、冒険者として名を挙げれば許されるのか?」
「まぁ、恵まれたスキルがあれば人生どうにでもなるかぁ! ハハハ!」
卑怯者……?
「……行きましょう」
「メナール」
何かをぐっと堪えるよう、努めて冷静に振る舞う。
「お、おい! 無視かよ」
「獄炎鳥のことは、そちらも頭を悩ませているはず。早急に対処しますゆえ、私のことは気にされませんよう」
「……ちっ」
「相変わらず、態度だけはでかいな。行くぞ」
騎士団の者たちは悪態を吐きながら見回りを再開しに行った。
「……メナール、大丈夫か?」
「平気です、このくらい。それより、もう少し周辺を探してみましょう」
「あ、あぁ」
無理をしていなきゃいいんだが。
俺はなんと言葉を掛けていいかもわからず、先を行くメナールの後を着いて行くことしかできなかった。
◆
「ふぅ……、すこし休憩しないか?」
「……はい」
あれから周囲を捜索するものの、めぼしい痕跡も情報も得られなかった。
獄炎鳥は居ついたばかりだと言うし……。
周辺を飛び回っているのだろうか?
歩き回って体力も減っていることもあるが……。
なにより、メナールの表情が気にかかった。
「ツーク、椅子と机を」
『へい! …………あっ。……そ、その』
「あ」
そういえば、野営用の木の机は……。
すっかり忘れていた。
「あの岩を机にすればいいか。椅子を頼む。あ、飲み物セットも」
『お、お任せぇ!』
簡素な木の椅子は、長年愛用していて座ると同時に軋む音がする。
それがまた、いい。
「……」
いつものメナールなら、椅子を用意したことに対してすら礼を言う。
そんな律儀な彼だと思うが、今は心の余裕がないのだろう。
ぼんやりとした様子で腰かけた。
「はい」
「っ! あ、ありがとう……ございます」
ハンナさんと一緒に飲んだ、レモンとハチミツを入れたジュース。
コップを渡せば、ようやく俺の存在に気付いたかのような素振りを見せた。
「考え事か?」
「えぇ、……昔のことを。少々」
「前に、教えてくれたよな。冒険者になったのは、騎士道を見失いかけて家を出たからだって」
「……はい」
彼にとって初めての野営。
まだ新人冒険者だった彼と二人で夜間の見張りをしていた時に教えてもらった。
「あの時は言いたくなさそうだったから、詳しくは聞けなかったが……。もしよかったら、教えてくれないか? ……きっと、さっきの事とも関係があるんだろう?」
そう言えばメナールは黙り込んだ。
俺も無理して聞くつもりはない。
ただ、先ほどの出来事は、どうも俺から見たメナールの印象と随分かけ離れていた。
──卑怯者。
それは、何を指すんだろうか。
「……私は、ずっと憧れていたんです」
そう言うと、彼は胸に秘めた想いを静かに話してくれた。




