国
世界一強いと言われているモンスター腐死姫を倒してから半年が経過した。
この半年で、俺を取り巻く環境は大きく動いた。
腐死姫を倒してすぐ、カリバの案内の元、俺達は信頼できる有名な情報屋の元へと行った。
情報屋は俺達が持って帰ってきた首を見てかなり驚いた後、すぐに動いてくれた。
今まで誰にも倒されることが無かった世界で一番強いモンスターが倒されたというのは大きなニュースとなり、世界中の人を騒がせた。
そのモンスターを倒した存在、つまり俺は、世界一強い人間として認められることとなった。もはや、世界では俺の名前と強さを知らない人の方が少ないレベルだ。
世界一強い人間となった瞬間、俺の街『トタース』の傘下にして欲しいという街が続々現れた。
なんでも、どこの街にも属していない小さな街は、大きな街に度々襲われ、苦しい暮らしを送っていたのだと言う。
俺は、来た街全てを傘下に迎えた。
更に、知名度の上がったトタースには、世界一強い人間を一目見ようと多くの観光客が訪れた。俺は、観光に来た女を全てウインクを使って落とした。そして、トタースに住まわせ、トタースの人口を増やして行った。
やがてトタースはどんどん盛んな街となっていった。面積も広くしていき、今では俺が初めてトタースに来た時よりも三十倍近い広さになっている。
「なんか、凄いところまで来ちゃったな」
俺はどこまでいけるのだろう。
「なんかお兄ちゃんの言っていることが、全然絵空事って感じじゃなくなっちゃったね。もうあっという間に世界征服しちゃいそう」
ダラダラと寝転がりながら、萌衣は言う。
『世界征服後 どうする?』
「世界征服後か……」
世界征服以上に面白いことが俺にはまだ思いつかない。ただ。
「お前らと一緒にいれればいいかなって」
女には飽きた俺でも、一緒に色々な場所へ旅をしたこいつらには絶対に飽きない。女とかそんなのは関係なく、こいつらは大切な仲間だ。
「お兄ちゃん、よくそんな恥ずかしい台詞を堂々と言えるね」
「別に恥ずかしくなんかないだろ。俺にとってお前達の存在がそれだけデカいってことだ」
「その割には、わたしとはまだエッチなことしてないじゃん」
「エロいことをすればその人への想いが強いってことにはならないんだよ。第一、俺は全く好きじゃない女ですらいっぱい抱いてきたんだからな」
今の俺にとって、性行為にはそれほど特別な意味は無い。
「そんなこと言って。近親相姦に抵抗があるだけじゃないの?」
「むしろ抵抗が無いお前の方がおかしいんだけどな」
「カ、カプチーノ様! 大変です!」
突然、ドタンと扉を開けてカリバが入ってきた。
「ん? どうしたそんなに慌てて」
何かまずいことでもあったのか?
「朗報ですよ! 朗報!」
「良い話かよ、よかった」
良い話なら大変ですなんて言って入ってくるなっての。
「で、その朗報ってのは?」
「先程世界政府から文通が届いていたのですが、このトタースを、国に認定すると!」
「国?」
この異世界に、国なんてあったのか? 人が住んでいる場所は全て街か村に分類されるものだと思ってたが。
「はい。国認定なんて、とんでもないことですよ!」
「えーと、国になるってのは、どう凄いんだ?」
「では、説明いたしましょう」
ここにいる皆を見回してから、カリバは説明を始めた。
「現在、国と呼ばれる街は二つあります」
「国と呼ばれる街? それは国なのか? 街なのか?」
「国でもあり、街でもあります。国というのは、そもそも二つの街のことを指した言葉ですので」
どうやら俺達のいた世界とは、国の意味は全く違うみたいだ。
「国は、ファストという街と、ノーワという街です」
「ファストとノーワか、聞いた事が無い街だな」
「すごく有名な街ですよ! 世界の通貨、言語、法、あらゆるものが統一されているのはご存知ですよね?」
「そうなのか?」
この世界の文字や言葉は、全て頭の中で勝手に日本語に置き換わってたら気づかなかった。
「そうなんです。それはどうしてだと思いますか?」
「どうしてって、言われてもな」
「簡単です。統一してる方が、他の街へ行った時もすぐに馴染めるじゃないですか。街ごとに言語が違ったら、一々その街の言語を覚えなくてはなりませんし、街ごとに法が違えば、犯罪かどうか分からないまま悪いことをしてしまう可能性だってあります」
「あー確かに」
実際俺の元いた世界では、海外旅行しようものならある程度旅行先の言語を知らないと、文字も読めないし会話も出来ない。
「その、世界の全ての基準を決めているのが、国と呼ばれる街です。いわば、世界の中心の街ですね」
「おぉ」
世界の中心の街か。
「その国に、ここトタースもなれるんです!」
「つまり、この世界のあらゆることがらを、俺が決められるようになるってことか」
「あくまで、ファストとノーワの人と話し合って、ですけどね。国が一つではないのは、独裁的な世の中にしないようにするためなので」
「それでも、今まではそんな話し合いに参加することさえできなかったんだ。十分すぎるくらい良いことじゃないか!」
「はい、これはとんでも無いことですよ。カプチーノ様とトタースは、永遠に歴史に刻まれます」
「歴史に、刻まれる……」
「そうです。歴史に刻まれるのです」
かつての異世界転移前の俺は、今の俺を見てどう思うだろうか。
ただのアニメオタクだった俺が、歴史に名を残すほどの人間になっている。
「人生ってのは、何が起きるか分からんものだな」
誰に言うでもなく、感慨深げに俺は一人呟いた。




