世界一強いモンスター
カリバの調べで腐死姫の居場所が分かり、俺達はそいつがいるという噂の森に来ていた。
「この森の奥に、腐死姫はいるはずです」
「よし」
結局俺は、腐死姫を倒すことにした。こいつを倒すことができれば、世界征服への道を一気に進むことが出来る。
「なんか、不気味な森」
辺りを見回しながら、萌衣がそう小さく呟いた。
「まあ、強いモンスターがいる場所なんだしそういうもんだろ」
「そうなんだけどさあ。うぅ、帰りたい」
萌衣には悪いが、ここまで来て帰るのはごめんだ。
暗く薄気味悪い森を、奥へ奥へと歩いていく。道中には植物型のモンスターなどが多数現れたが、全く苦戦することなく倒して、進み続けた。
やがて、森の奥まで辿り着くと、”そいつ”はいた。
「で、でけえええ……」
怪獣映画のどんな怪獣よりも大きな姿をしているゾンビが、俺達の少し遠くにいる。
「あ、あんなのお兄ちゃん倒せるの?」
心配そうにミステは聞いてくる。
「強さってのは、大きさで決まるもんじゃないってことを証明してやるよ」
と言っても、こいつは世界で最も強いらしいのだが。
『助け いる?』
「いいやいらない。お前が消してしまったらなんも意味が無くなってしまうからな」
もう大龍王みたいなことにはなりたくない。きちんと首を持ち帰る。
「ま、見てろって。ちゃちゃっと倒すから」
そう言って、俺は腐死姫の元へと近づいた。
近くに行けば行くほど大きさを実感する。こいつは、先程チカが倒したやつとは比べものにならないほどの不気味なオーラを放っている。
大龍王は戦う前にミステが消してしまったので、世界一の強さというのは果たしてどれほどのものなのか、俺には全く分からない。もしかしたら、チカほどの強さを持ったモンスターである可能性もある。油断は禁物だ。
腰にかけていた剣を構え、慎重に一歩ずつ近づく。
やがて、目と鼻の先まで来ると、腐死姫は俺の存在に気がついた。
グォォォオオオ! という耳を劈くような咆哮を轟かせた後、俺を踏みつぶそうと足を上に持ち上げる。
片足だけで立っている今は、かなりのチャンスだ。今のうちに持ち上げていない方の足に斬りかかれば、体勢を崩すことが出来る。
「うぉぉおおおおおおおお!!」
叫びながら、素早く軸足へと飛びかかった。
勢いをつけて、大きく剣を振り払う。すると、予想通り敵はバランスを崩し、ドシン! と大きな音をたてて倒れた。
倒れた瞬間、俺はそいつの頭の方へと移動した。起き上がる前に、脳に剣をぶっ刺してやろうと思ったのだ。
大きな顔に乗り上げ、剣を自らの頭上高くに持ち上げる。
あとはこれを突き刺すだけ。一撃で倒せるとは思えないが、かなりのダメージを与えられるはずだ。
これで、俺の世界征服は――前進するッ!
力を込め、勢いよく剣を突き刺した。
「グァァァアアアア!」
腐死姫は、脳に剣を突き刺された瞬間、痛みで顔を歪め、叫びながら勢いよく立ち上がった。
「チッ! そう簡単には倒れないか」
さすが世界一のモンスターだ。まだ死んでいない。
再び転ばして同じ攻撃をしようと思ったが、相手もさすがに先程の失敗で片足になるのは危険だと気付いたらしく、中々足を上げようとしない。直立不動状態だ。
「それなら!」
俺は勢いよく跳び上がった。さすがに敵の頭上を越えるほどの跳躍力は無かったが、それでも十分だ。腹部めがけて斬りかかれば、さっきの攻撃よりは少ないとはいえ、結構なダメージを与えることが出来るはずだ。
剣を前に突き出し、突進する姿勢をとる。このまま、全力でぶつかってやる!
そして、今まさに突撃しようとしたとき――
突然、腐死姫は倒れた。
「……え?」
剣は虚しく宙を掻き、俺の攻撃は空振りで終わった。
一体どういうことだ? 頭に剣を刺したのが今更になって効いてきたのか?
「いっちょあがり」
いまいち勝った実感が持てずにいると、近くで聞いたことがある声がした。
「って、チカ! なんでここに」
いつの間にか、チカが倒れた腐死姫の胴体の上に座っている。
「なんかあんたらが面白そうな話してたから、ついてきたんだけど、戦ってたから倒した」
「ついてきただと? お前みたいな面倒くさがりなやつが、こんな森の奥まで?」
「アタシが依頼されて倒したモンスターに親がいるなら、いつかその親もあの街を襲ってくるかもしれないじゃん? だからその依頼の延長みたいなもん」
「依頼の延長……」
なるほど。こいつがあの街のために行動したというのは分かった。
だが。
「お前がこいつを倒したって、さっき言ったよな?」
「そうだよ。アタシが倒した」
「なんで!!」
「なんでって言われても、アタシがやれば一瞬だから」
「くっ……」
まただ。
大龍王に引き続き、また俺は世界一の相手を倒すことが出来なかった。
なんで、なんで邪魔が入ってしまうんだ……。良い感じの戦闘が出来てたのに……。このままいけば、俺がトドメをさせたのに……。
ピクリとも動かない世界一だったモンスターを見て、俺は嘆いたのだった。




