倒れていた女の子
リエカを出てから、三日が経ったある日。
『倒れた女 発見』
「ん? 倒れた女?」
『あそこ』
ミステが指差したところに、女の子が一人倒れていた。
「なんであんな道端に」
『もしかしたら 同じ境遇かも』
「ミステと? いやいや、それは無いだろ」
また記憶喪失の女の子ってのはさすがに勘弁してほしい。
「それに、ミステさんと違って近くに街がありますしね」
「近くに街があるんじゃあ、迷子ってことでは無さそうだな」
面倒だからスルーしてさっさと行こう。
そう思い、俺は女の子には話しかけずに通り過ぎることにした。
「ちょーっと待った!!!!」
倒れていた女の子は、突然立ち上がると大声で叫んだ。
「こんなところで倒れている可愛い女の子を見捨てるとは、正気かい?」
な、なんだこいつ……。
間違いなく関わると面倒なタイプだ、さっさと逃げよう。
「俺達ちょっと急いでるんだ。じゃあな」
早歩きでその場から逃れる。
「ま、待って! ほんとに待って! いや、ちょ、待って!!」
女の子は、必死で俺達を呼び止めようとしている。
「お兄ちゃん、待ってあげた方がいいんじゃ」
「いや、ダメだ。あれはな、近づいた瞬間身ぐるみを剥ぐ盗賊だ。ああやって人を自分の方へ引き寄せて一瞬で奪うんだ」
「そうだったの!? 危ない、わたし騙されるところだったよ……」
なんでも信じてしまう妹、なんて扱いやすいんだ。
「ちっがーーーう!! 盗賊じゃない! 私良い子! オーケー?」
「萌衣、ああいうのは全部カモを釣るための嘘だ。ああいうのに騙されちゃダメだぞ?」
「うん! 絶対騙されないよ!!」
「ちょっ、ほんとに! ほんとに放っておかないで! お願いだか……」
バタッ。
☆
「うっはーー! 久しぶりのまともな食事! 超美味い! 最高!!」
ガツガツガツと、女の子は美味しそうにご飯を口に運んでいる。
「おかわり!!」
さっき注文したばかりのものをあっという間に平らげ、女の子は元気よくそう叫んだ。
「おい、今何杯目だよこいつ」
「今、三十杯目ですね」
「三十……」
タダで食べさせてもらって、ここまで食べまくるってのはどうなんだ。普通遠慮とかするもんじゃないの? いや、まあお金ならいくらでもあるから良いんだけどね。
俺達は今、近くの街にあるレストランに来ていた。
突然俺達に構ってきた倒れていた女の子は、ここ最近ずっとまともな食事をしていなくて、空腹で死にそうだったらしい。
その割には、俺達に話しかけてきた時元気そうに見えたが、あれは最後の元気だったようで、途中で限界が来て倒れてしまったのだとか。
「で、なんでお前は空腹で倒れてたんだ?」
「いやー、私全然お金が無くてね……。その辺に生えてる草とか食べてたんだけど、無理だった」
「そりゃ、その辺に生えてる草は無理だろうな」
どんなに空腹でも、普通その辺に生えてる草は食べないと思う。
「最初はお金持ってたんだよ? でも、お金とか私の持ち物が全部入っいたカバンをどこかに無くしてしまって、今は何も持っていない!」
「いや、そんな自信満々に言われてもな」
普通もっと悲しそうに言う話だろ、それ。
「こんなことなら街を出るんじゃなかったかなぁ。いやでも、街を出なければいつまでも飛べるようにはならないし」
「飛ぶ? 飛ぶってなんだ?」
「実は私、トーブ一族なんだよね」
「トーブ一族?」
聞いた事が無い一族だ。
「トーブ一族は、この世界で唯一飛ぶことが出来る人達ですよ」
トーブ一族を知らなかった俺に、カリバが教えてくれた。
「この世で唯一?天使とかいるじゃん?」
トタースにだって天使いたし、イオキィで会ったツヨジョだって天使だったし。
「天使は飛べません」
「え?」
今なんて?
「天使は飛べませんよ」
「天使が飛べない? だって、羽生えてるじゃん、天使」
「あの羽では空は飛べません」
「じゃ、じゃあ、なんのために生えてるんだよ、あれ」
「さぁ?」
「さぁって」
天使、飛べないのか……。
天使って普通飛べるもんだと思ってた。
「でも確か、トーブ一族ってこの辺には住んでいませんよね?」
「そうなのか?」
「はい。私の記憶だと、ここより遥か北の方角に住んでいたはずです」
「じゃあ、旅してんのか、この子」
まだ若そうなのに一人旅とは。大した女の子だ。
「えーと、私がしてるのは、旅っていうか、修行っていうか」
「修行?」
体でも鍛えているのか? 見るからに貧弱そうだが。
「実は私、トーブ一族なのに全然空飛べないんだよね」
「それで、飛ぶための修行ってことか?」
「そういうこと」
「修行したら飛べるようになれるのか? そもそも、そのトーブ一族ってのは、どうやって飛べるようになるんだ?」
「本来、トーブ一族は人が歩くのと同じくらい当たり前に、飛ぶことも出来るはずなんだ。だから、一族の中で飛べないのは私だけ」
「そっか」
周りが簡単に出来ていることなのに、自分だけは出来ない。
彼女はきっと、俺が想像できないくらい辛かったはずだ。
彼女がトーブ一族を出てここに一人でいる本当の理由は、修行なんかじゃなくて、劣等感から逃れたかったからなのかもしれない。
「実はトーブ一族では無い、とか?」
「そんなはずは無いよ! 私は絶対トーブ一族なんだよ!!」
醜いアヒルの子のような話では無いってことか。
「あの」
「ん? どうしたミステ」
さっきまで全く口を開かなかったミステが、突如口を開いた。
『ずっと言いたいことあった 言っていい?』
「うおっ! なんだこれ! 文字?」
「それはこの小っちゃい女の子の魔法だ」
そう言って、俺はミステを指差す。
「じゃあ君が、私に言いたいことがあるの? いいよ、なんでも言って!」
少しお姉さんぶって、女の子はミステに言った。
さて、ミステは何を言うのか。ミステは普段俺以外とはあまり話さないから、これから一体何を言うのか全く予想がつかない。
皆の視線が注がれた中、ミステは口を開いた。
「あなた、くさい」
「……え?」
予想外の一言が、ミステの口から出てきた。
「凄くくさい。鼻敏感だから、キツい」
「な、なにそれ! 私のどこが臭いっていうのさ!!」
「全身」
「な、なんなのこの子! 生意気!!」
ミステが嘘をつくとは思えない。じゃあ、この子は本当に臭いのか?
クンクンと、女の子の臭いを嗅いでみた。
「ほんとだ。結構臭うかも」
ミステの言う通り、確かに臭い。
「あなたまで!」
いやだって、本当に臭いし。
「私、実はずっと臭いを我慢していました。すごい臭いです」
俺の言葉に、カリバが続く。
「皆してなんなのさ! 酷い! 女の子なんだよ!!」
女の子は、ほっぺをプクッと膨らませて、怒ったことをアピールした。ちなみに全然怖くない。
「あのさ、一応聞きたいんだけどさ。お前、最後に風呂入ったのいつよ」
多分だけど、これはお風呂に入っていないとする臭いだ。
「お風呂? うーん、もう覚えてないや」
「覚えてない!? 風呂入った日を覚えてないのか?」
「もう随分前だし。それがどうしたっていうのよ!!」
「どうしたもこうしたもない! 今からお前を風呂に連れていく! カリバ、この街で家族風呂をやっているところを探せ」
「了解です」
「え? なに突然! それに家族風呂って! え!?」
次話はまるまる一話お風呂の予定です




