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街の長

 サオルを落とし、俺達はサオルの豪邸へと案内されていた。

 前回とは違い、今回は、引率者がサオル本人だ。


 カリバの言った通り、サオルは女だった。

 ウインクをした途端、俺になんでもしてあげたいと言い出して、あまりの変化に驚いたものだ。


「さてカプチーノよ、何を望む? どんな望みでも私の権力を使えば叶えられるはずだ」


 いや、俺が望んでいて辿り着こうとしているものは、サオルのちっぽけな権力では何の効果もない。


 だが、サオルの権力を利用し、その望みへのきっかけを作ることはできる。


「この街の長を決める選挙を行いたい」


「なんだと!?」

 

 やっぱり予想外だったか。

 サオルのやつ、かなりビックリしてるな。


「嫌か?」


「嫌……じゃない」


 本当は嫌に決まっている。

 自分が長じゃなくなってしまうかもしれないのだから。


「よし」


 交渉成立だ。

 女って生き物は恋愛脳ばかりで、どんなことよりも恋愛を優先してしまう。だからこそ扱いやすい。


 早速、色々とやらせていただく。


 

 まず、この街の住人の支持を得る。

 カリバがサオルのところで頑張っていた間、俺達は一通り街を巡った。

 そして、一見幸せそうなこの街には、闇があるのを知った。

 このイオキィという街、実は貧困の差がとても激しいのだ。

 帝王杯を見に来ていた連中は全員裕福そうな恰好をしていたが、あれは全住民の一割程度にすぎない。

 残りの九割のうち、三割が中流層。中流層のやつらは、ごくごく普通の生活をしている。毎月帝王杯に参加しているのはここのカーストに属する人間が多いのだとか。


 そして、残りの六割が、高い税金を払い、一割の住人を肥やしていたのだ。


 なので、俺はその六割の支持を得ることにする。


 幸い金なら余るほどある。そして、日本と違って賄賂は禁止されていない。

 わずかな金を与えれば、そいつらが俺を支持することなど容易なことだ。


 そして、住民の過半数が俺の支持者に変わった時、全住民に一票の選挙権を与え、この街の長を決める選挙を行う。


 本当はこんな回りくどいことをしなくても、サオルを俺の女にしたのだから、長の座なんて選挙をしなくても手に入れられるのだが、それでは意味が無い。


 俺は、住民によって長にならないといけないのだ。

 勝手に長になってしまっても、それでは住人が納得してくれないだろう。

 それは駄目だ。


 

 イオキィはトタースと違って、とても大きな街だ。その街の長に、選挙で住民に認められて、俺がなる。

 そう、選挙で認められて、なる。

 イオキィという大きな街の長が変われば、それは、外の街にも間違いなく伝わる。


 つまり、選挙で長になることによって「カプチーノは人に支持される力がある」ということを、世界中に証明することができる。

 

 俺の名は、実力と共に広まるのだ。



   ☆


 一カ月で、俺はイオキィの長となった。


 俺の実力は、僅かではあるが世界に広まった。


 一つ、嬉しい誤算があった。

 今回の作戦を行うにあたり、長では無くなったサオルは、俺に惚れているとはいえ不服の言葉を漏らすのではないかと思っていたので、今後サオルをどのように扱えばいいのかを悩んでいた。


 だが、なんとサオルは、不服の言葉を言うことは全く無かった。

 というか、簡単に言えば良い奴になった。


 好きな人の前では生意気でいたくないという気持ちが、サオルを変えたみたいだ。


 まず、やるべきことは自分でやるようになった。

 カリバに聞いた話だと、何もかもを他人任せな女だったらしいが、今ではとてもそうは思えない。


 まるまる街の権利を奪ってしまったのに、嫌な顔一つせず頑張っているサオル。

 俺は、そんなサオルの頑張りを素直に認め、サオルが望むままに、何度か体を重ね合わせたこともある。



『カプチーノ いつまでここにいる?』


 ここ一か月のことを色々思い出していた俺を、ミステの魔法文字が現実に引き戻す。


「そうだな。もう出発したいところなんだが、次やるべきことがいまいち分からん」


 このままどんどん大きな街を征服すればいいのだろうか?

 それとも、他に何か世界征服に繋がることがあるのか?

 

 これから先のことを、俺はまだ決めかねている。


 正直な話、ただ街をどんどん征服していくのはつまらない。

 それに、それが達成したところで俺の心は満たされるとは思えない。

 というか、それは世界征服なのか?


『ならば 今日も私 図書館 行く』


「そうか」


 イオキィには、街の外からも多くの人が訪ねてくるほどの立派な図書館がある。

 この一か月、ミステはそこでひたすら図書館で本を読んでいた。

 驚いたことにミステは読書家で、様々なジャンルの本を好いているようだ。

 

「俺も行くかな、図書館」


 読書は正直好きではない。

 この世界に来るまでは、ラノベと漫画くらいしか読まなかった。

 けれど、このまま次何をしようかとただ悩んでいるよりは、本を読んで何かヒントを得た方が良い気がする。


『じゃあ 一緒に 行く?』


「ああ」


『じゃあ 図書館以外 寄っていい?』


「図書館以外って、どこだ?」


『食事』


「食事かぁ、よし分かった。どっか食べに行くか」


 ここ最近、街のことばかりに目を向けていて、ミステとあまり交流出来ていない気がする。

 だからせっかくだし、たまにはミステに付き合ってやろうと思った。

 それで、少しでもミステについて何か分かったら、嬉しいし。

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