決着、そして――
「ア、アンタ、どうして出てこれちゃったわけ!?」
最大の奥義がいとも容易く消されたことで、慌てた声でマヤが言った。
ずっと閉じ込められていたはずのミステの登場により、戦局は一気に変わる。失いかけていた希望は、再びこの手の中にある。
『私が出てこられたのは シュカのおかげ』
「シュカが?」
「そ。ミステが陸地を一つ消すたびに、マヤに陸地を一つ生み出されちゃうわけでしょ? それはつまり、ミステが消し続けている間は陸地は増えることも減ることも無いってわけ。そこで、私が瞬間移動でその増減ゼロの陸地を一つ一つここでは無いどこかに飛ばすことで――」
「陸地の増えるスピードを消すスピードが上回ったってことか!!」
「そういうこと」
移動以外にもシュカの能力にはそんな使い方もあったなんて!
「あれ? でもシュカの瞬間移動って確か」
「お察しの通り、飛ばす相手と共に私の体も瞬間移動しちゃうよ。だからつまり、皆が気づかない間に私はこのトタースの城とトタースの外とを行ったり来てたりしてたんだ」
いつの間にそんなことを。
もしシュカがその作戦を思いつかなければ、間違いなく俺達は死んでいた。シュカには感謝してもしきれない。
「キーッ! イライラするぅ!! なんで似たような能力者が二人もいるわけ!?」
似たようなって、実際は全然似てないんだけどな。ミステのあらゆるものを無にする能力とは違って、シュカのはあくまで移動だし、マヤの生み出した陸地はまだこの世界のどこかに存在している。
「こうなったら! 皆、もう一回合体技行くよ!」
「え? でもどうせまた消されちゃうから意味ないんじゃ」
「いいから!!!」
相当焦っているのだろう。アイファの発言は全くマヤの耳に届いておらず、冷静な判断が出来ていない。
「ゲンデンジュ、ナイ」
「あーそっか。さっき消されちゃったもんね。あはは……」
ミステの無にする能力によって、もうこの世界のどこにもさっきの木は存在していない。もし相手がもう一つあの木の種を持っているのなら話は別だが、伝説と呼ばれているような木の種なんて何個もあるわけないよな。
「な、何それ! じゃあマヤ達は!」
「負けってことかな……。あーあ、これで私達も奴隷にさせられちゃうのかなぁ」
アイファは完全に勝つことを諦めたようで、もう戦う意思は見えない。
「い、イヤ! マヤはあの人にとって頼もしい女であり続けるの!!」
「イヤって言ったって、もうしょうがないでしょ。あの木が無ければ合体技出来ないんだし。それとも何? あの木無しで戦うの?」
「そ、そう! まだアイファ全然傷ついてないし、いっぱい戦えるでしょ!!」
「そんな無茶な……。ウトはボロボロだし、さすがに私でもあの人数相手に一人じゃ」
「なら、赤ん坊も!」
「赤ちゃんの方、よく見てみて」
「え? ……あ!」
見れば、赤ちゃんはスヤスヤと眠ってしまっていた。まあまだ赤ちゃんだし、眠くなったら寝ちゃうよね。
「だったら、またあのちびっ子を閉じ込めて、それで何かを」
「無駄だよ」
再びミステを閉じ込めようとしたマヤに、シュカがぴしゃりと言い放つ。
「無駄って、何で!!」
「今私はミステと手を繋いでいるの。この状態なら、あなたがミステを何度閉じ込めようと、瞬間移動で簡単に別の場所に移動できちゃうんだよね」
「そ、そんな嘘を!」
「嘘じゃないよ? 試しにやってみる? 私達は一歩もここから動かないから」
シュカの言っていることは本当だ。シュカと触れている以上、ミステを拘束する方法は無い。
「ねえマヤ、もう認めようよ。私達は、負けたんだよ」
足掻こうとするマヤに、受け入れなければならない事実をアイファは伝えた。
「そんな……。マヤ達が、負けたなんて……。だって、マヤ達は最強なんだよ? そうだよね?」
マヤにそこまで自信があった気持ちも分かる。確かに彼女達は強かったし、俺達が相手で無ければ誰にも負けることはなかっただろう。
「悔しいけど、あの人達の方が強かったんだよ。さ、あの方に謝りに行こ」
「絶対怒られる! 絶対奴隷にされる!!」
泣きながら、マヤはその場から動こうとしない。
「ほんともうマヤってば。じゃあ行かない? このトタースから離れる?」
「それはもっと嫌! あの人がいない街に行ったって、マヤは何にも嬉しくない!」
「じゃ、謝りに行くしかないでしょ?」
「うぅ……」
奴隷にされるかもしれないと分かっていながら、それでも逃げ出さずに謝りに行くなんて、そのあの方とやらはよっぽど魅力的な人物であるらしい。少なくとも彼女達にとっては。
いつの間にか階段は再び現れていた。あの階段を登れば、俺達はその人物に一歩近づく。
外から見たらとても長い城ではあったものの、さすがにここより先に伝説級の四天王以上の敵はいないと思う。いや、思いたい。
「さて、皆行くぞ。カリバ、一応全員に回復頼む」
「分かりました」
俺達の全身を、緑色の光が包む。これで、俺たち全員は完全に無傷の状態で上へ進める。
コツン。コツン。コツン。
「ん? なんだ?」
上の階からゆっくりと階段を下りてくる足音が聞こえてきた。
「誰か来るみたいですね」
「だな」
四天王の皆を回収しに来た、とかそんな感じかな。
「情けない」
ぴしゃり。冷たい声音が、階段から室内全体に伝った。
「本当に情けない」
心を締め付けるようなその声に、思わず足が竦む。
「そんな無様な姿を晒すような力しか無いくせに四天王を名乗っていたとは。情けないとは思うまいか? なあ、襲撃者達よ」
「え、えーと……」
彼女は、誰だ?
真っ白い長い髪を揺らす真っ白い肌の一人の少女は、穏やかな表情で俺達を見る。
「こんな無様な彼女達には、死んでもらうべきだ。そう思わないか?」
「え?」
次の瞬間、伝説級の四天王の四人全員の体のすぐ近くに、氷の刃が刺さった。
「ふふふ、冗談だ。ボクは味方には優しいのさ。そう、味方には、ね」




