たった七人の快進撃
「緊急伝令です!」
まだ十代の長い髪を束ねた少女が、二回りほど年上の女に慌てて伝えた。
「どうした!?」
少女の表情から大事であることを瞬時に理解した女は、唾を一度飲み込みと続く言葉を緊張して待った。
「……エリアC、全滅しました」
「なんだと!?」
エリアCは、少し前に何度か謎の侵入者が目撃されて以来、腕に自信のある多くの兵が待機していたエリアだ。兵の数は、おそらく百は超えている。
「あそこにはγの支部長もいたのでは無かったのか? あいつは何をしている!」
チームγ。トタースの中でも特に多くの任務を遂行する選りすぐりのエリート集団。それらを束ねている最強の女騎士が、最近Cブロックの管轄に任命された。彼女の優雅で美しい剣技は、どんな相手であろうとも絶対に太刀打ちできない。彼女がいればそこは彼女の舞台となり、彼女以外の人間は全てただの舞台装置と化す。トタースで働く者ならば誰でも知っている当たり前のことだ。
「命こそ失ってはいませんが、意識不明の重体です。現在は医療班にて緊急手術が行われています」
伝えにくいことをなんとか絞り出すように、少女は擦れた声で伝えた。
「馬鹿な……。あの女が負けた、だと?」
報告を聞いた女は、顔色を真っ青に変えた。
女は何度もγの支部長と手合わせをしたこともあり、その強さは誰よりも知っていた。だからこそ、負けたというのは信じられないことだった。だが、少女がこの事態に嘘をつくはずなど無い。女は、信じられない事を、事実だと認めざるを得なかった。
「それであの、増援をお願いしたく、ここに私が向かわされたのですが……」
「私の部隊が向かおう」
γの支部長を倒した相手と聞いて身が震えると同時に、女はその相手を見てみたくなった。それに、こんな面白そうな機会を他の部隊に譲るわけにはいかないという気持ちが、彼女の中にはあった。
「ありがとうございます。では、私はこれで――」
「ちょっと待て」
戦場へと戻ろうとした少女を、女は止めた。
「はい、なんでしょうか?」
今すぐに戻りたいという気持ちが顔に現れたままの少女に、女は訊ねた。
「敵は何人だ? 百、二百、いや、それ以上にいるのか?」
Cブロックの戦士を全滅させられるほどの人数を考えると、相当の数がいるのだろうと女は判断した。が、しかし――
「……七人です」
「七人……だと?」
あまりの少なさに、女は面食らってしまう。
「たった七人に、エリアCは壊滅させられたのか?」
「そうです。たった七人に、我がトタースの百を超える軍勢はやられたのです」
何十の味方を連れ戦場に着くなり、女は驚かざるをえなかった。
「本当に、七人しかいないのだな」
しかもよく見れば、半数以上が幼い少女ではないか。とても戦えるようには見えない。
「増援感謝いたします!」
その場で戦っていた女性の一人が女を見て敬礼した。
「ふむ。状況は?」
「見ての通り、芳しくありません。ここエリアDも、全滅は時間の問題だと」
先ほどエリアC全滅の情報を聞いたばかりなのに、もう新たなエリアがやられる。
それほどの強大な相手に、彼女は戦いを挑まねばならない。
フフフ。意識していないのに、彼女は勝手に笑いが込み上げてきた。
「あれを倒せば、私はあの方に絶対褒めてもらえる!」
ニヤニヤと笑いながら、七人の元へと迫る。
七人は、見ている間だけでも数々の兵をてこずることなく葬り続けている。特に七人の中にいる唯一の男は、剣を煌めかせ、鮮やかな手つきでいとも簡単に人を殺している。
「でも、私の敵じゃねえええええ!!!」
「ほい!」
何やら突然叫びながら飛び込んできた女を、軽く斬りつけた。
「確かにあんたの敵では無かったかもな。俺、あんたの何百倍も強いし」
トタースに突入して、二時間ほどが経過した。俺が三度も既に来ていたせいか、トタースは今までとは比べものにならないほどに大量の敵が待っていた。俺達はその敵達と、休むことなく戦い続けている。
そろそろ疲れてきたな……。一体何人来るんだ?
にしても、この調子ならトタースを攻略できる気がする。さっきから良い調子で城まで向かえているし、苦戦するほど強い敵も現れない。
なんか、意外と拍子抜けだな。まさかこんなに敵が弱いなんて……。
それとも、俺達が強すぎるだけか?
「ソリャ!」
ウトは持っていた小さな植木鉢を地面に置き、大きな長齢樹を出して戦っていた。あんな小さな植木鉢になんであの木は収まっているんだろうと最初は不思議だったが、なんでもウトはわずか握りこぶしほどの根のみで木を成長させることが可能らしい。なので、あの植木鉢からも自由に木が出せるのだ。
実は完全な戦闘タイプの人間はこちら側にはあまりいないため、彼女の存在は非常にありがたい。カリバも剣で頑張っているものの、やはりウトの殲滅力には劣る。
さて、俺もウトに負けずにまだまだ頑張らないと!!




