特別番外編:全宇宙の管理人と、本社のコーヒーメーカー
『銀河遺産の管理人』[完結記念あとがき&特別番外編]
全14話にわたる『銀河遺産の管理人』の本編をお読みいただき、誠にありがとうございました!
北海道の小さな下請け会社で虐げられていた冴えないエンジニア・佐藤和也が、古代銀河帝国の管理AIエリスと出会い、地球、火星、銀河系、外銀河、そして多重宇宙の構造そのものを「デバッグ」して世界を救っていく壮大なSFファンタジー、いかがでしたでしょうか。
完結を記念いたしまして、激闘を終えた和也たちの平和で少し賑やかな「その後」を描く特別番外編をお届けします!
全多重宇宙の「OS(根本プログラム)」を修復し、無数の世界線に平和と自由が訪れてから、数ヶ月。
地球・北海道神威島にある『アーク・テクノロジーズ』本社ビル。
最新の量子コンピューターと、全多重宇宙からのデータがリアルタイムで流れるメインオペレーションルームでは、全宇宙を救った英雄たちの「平和すぎる日常」が広がっていた。
「和也ぁぁぁっ! 大変! 3階の給湯室のコーヒーメーカーがまた『エラーコード:404』を出して止まっちゃったよ!!」
銀髪を揺らしたアリスが、手にマグカップを持ったまま叫びながら司令室へ飛び込んできた。
「またか……」
船長席改め、CEOデスクに腰掛けていた和也は、作業服の袖を捲り上げながら苦笑した。
「あのコーヒーメーカー、先週アリスが『抽出速度を10倍にする』とか言って、帝都アルカディアの高出力プラズマ回路を勝手に組み込んだろ?」
「だってぇ! 徹夜のハッキング作業中にコーヒーが淹れてから10秒もかかるなんて遅すぎるんだもん!」
「標準の抽出時間(10秒)にクレームをつけるなよ……」
和也が呆れ顔で頭を抱えていると、ドアが静かに開き、エプロン姿の第一皇女セレナ・アルカディアが、焼きたてのクッキーが載ったお盆を手に姿を現した。
「ふふっ、皆様、お茶の時間ですわよ。今日のクッキーは、地球の北海道産バッターと、オリオン腕の工廠惑星から届いた希少な甘味果実をブレンドして焼いてみました」
「わぁぁい! セレナ姫手作りの銀河クッキーだぁ!!」
アリスが目を見開いてテーブルへ飛びつく。かつて全銀河を率いた第一皇女はいまや、アーク・テクノロジーズの優秀な(そして料理上手な)最高顧問兼ムードメーカーだ。
『マスター。3階のコーヒーメーカーの内部ログを解析しました』
司令室の中央に可憐なホログラムとして現れたのは、軍服姿のエリスだ。
『アリス様の過度なクロックアップ改造により、豆の粉砕ユニットが時空歪曲を起こし、コーヒー豆が微細な「微細ブラックホール」へと凝縮されている状態です』
「コーヒー豆でブラックホール作るなよ!?」
和也が思わず突っ込む。
「仕方ないな……。全多重宇宙のデバッグが終わったと思ったら、一番身近なところにバグが転がってるんだから」
和也は作業服のポケットから、あの懐かしい改造スマホ——エリスの量子アクセスプロトコルを取り出し、不敵な笑みを浮かべた。
「アリス、エリス、セレナ姫。……本日の緊急ミッションだ。給湯室のコーヒーメーカーを完全に『デバッグ』するぞ!」
『御意、マスター!』
「おーっ! 美味しいコーヒーを淹れるぞぉぉっ!」
「私もお供いたします、佐藤様!」
かつて全宇宙の存在を賭けて戦った仲間たちが、いまは一台のコーヒーメーカーを囲んで笑い合っている。
冴えない下請けエンジニア佐藤和也が切り拓いた未来は、今日も平和で、少し賑やかで、あたたかな笑顔に満ち溢れているのだった。
(特別番外編・完)




