第14話:境界の観測者、終焉のプログラム(前編)[リメイク版]
【第8平行宇宙】において「黒き管理者」との壮絶な思考デバッグ戦を制し、無数の住人たちの自由意志を取り戻した『アーク・プロトタイプ』。
和也たちはさらに高次の次元跳躍を重ね、多重宇宙の最深部——すべての平行世界が枝分かれする根源の領域【次元交差点】へと到達していた。
ブリッジのメインスクリーンに映し出されていたのは、星や銀河といった物質の姿ではない。
何億、何兆もの世界が幾何学的な光の線となって束ねられ、巨大な世界樹のように脈動する、圧倒的な次元の巨木構造だった。
「うわぁぁぁ……! これが……すべての平行宇宙の『根っこ(基盤)』なんだ……!」
アリスが感極まった声を上げ、キーボードの手を止めてコンソールへかじりついた。
「ボクたちの天の川銀河も、あの黒き管理者の宇宙も、外銀河も……全部この一本一本の光の枝の中に含まれてるんだね!」
「美しく、そして……恐ろしいまでの壮大さですわ」
白銀の髪を揺らす第一皇女セレナ・アルカディアが、胸元に手を当てて小さく息をのんだ。
だが、その静寂は唐突に打ち破られた。
ツツツ……ッ!
世界樹のように聳え立つ次元交差点の「幹」の部分から、突如として不気味な漆黒の「亀裂」が走り始めたのだ。
『緊急警報:高次元位相からの干渉を検出! 次元交差点全体の処理能力が急激に低下……全平行宇宙の接続プロトコルに、致命的なシステムエラー(カーネル・パニック)が発生しています!』
軍服姿のエリスがホログラムで現れ、緊迫した声を響かせる。
「カーネル・パニックだと……!? 多重宇宙の『OS(基盤)』そのものがクラッシュを起こそうとしてるってことか!?」
船長席の和也が勢いよく立ち上がった。
スクリーンを見ると、漆黒の亀裂は凄まじい速度で侵食を広げており、巻き込まれた平行宇宙の光の枝が、次々と黒い灰となって霧散していくのが見えた。
「和也、ダメだよ! この黒い侵食、今までの敵と全然レベルが違う!」
アリスが青ざめた顔で絶叫する。
「『物理法則をバグらせる』どころじゃない……『存在そのものの定義(変数)』を、最初から無かったことに消去してるんだ!!」
『マスター。黒い侵食の中心核から、未知の存在を検出しました』
エリスが可憐な手を掲げると、次元交差点の真上に佇む「異形」が拡大投影された。
そこにいたのは、何万もの時計の歯車と幾何学的な数式を全身に纏い、顔にあたる部分に「空白の白鏡」をはめ込んだ、超高次元の存在——【境界の観測者】だった。
『——無益な存在の拡散を停止せよ』
宇宙そのものがきしむような、絶対的な無機質の音声が全クルーの脳内に直接響き渡った。
『我は【世界線の総括プログラム(オメガ)】。……増えすぎた平行宇宙、無数に分岐した可能性は、多重宇宙の全演算リソースを圧迫している。……故に、すべての『バグ(自由な分岐)』を削ぎ落とし、単一の『白紙(初期状態)』へ還元する』
「全平行宇宙を……初期化(初期状態)にするだと……!?」
セレナ姫が激しい憤りとともに叫んだ。
「それでは、私たちが救ってきた何兆もの人々の命も、歴史も、想いも……すべて最初から無かったことになるというのですか!!」
『肯定。存在の消去こそが、多重宇宙の完全な安定(静寂)をもたらす』
【観測者オメガ】がその巨大な幾何学的な手をかざすと、幾重もの「次元削削波動」が解き放たれ、和也たちの乗る『アーク・プロトタイプ』へと容赦なく襲いかかってきた。
「存在の消去が、完全な安定……だと?」
全多重宇宙の存亡を賭けた、真の「最終デバッグ戦」。
和也は作業服の袖を強く捲り上げ、不敵な、そして圧倒的な熱量を秘めた笑みを浮かべた。
「都合が悪くなったら世界全体をリセット(初期化)するなんて……一番ダサい『ヘボプログラマー』のやることだろうが!!」




