第三章 ~ ぬいぐるみ? ~ (9)
私は責められるべきではないのである。
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どこを走っているのかはわからなかった。
わかっているのはあの“影”から必死に逃げているのと、けたたましく蹴っている地面の足音だけ。
暗闇のなかを走っている、というのが明確な表現なのかもしれない。ずっと光を求めて。
光を見つけないと“影”に追いつかれそうで、必死になっていた。
誰かに足を掴まれた感覚で、もつれて倒れてしまいそうになっていると、遠くに微かな光が洩れていた。
その先に行けば、影から逃げられると、より足に力を込めた。
迷っている隙もなく、光に飛び込んだ。これで影から逃げられるんだと。
光が広がり、眩しさに目が眩み、手で目元を覆う。
「はぁ?」
光に慣れ、手を下ろして辺りの光景を把握したとき、間の抜けた声が洩れた。
「ぬぅあ~。だから、なぜ、私が責められなければいけないというのだ」
驚きにまみれていると、ウサギの金切り声が霞んだ視界を晴らしてくれた。
広がった光景に、これまで体を縛っていた恐怖心が一気に散っていった。
これはウサギの夢のなか、ふざけた世界に紛れ込んでしまったのか、と疑いたくなる。
ウサギはまた十字架に貼りつけになっており、足下にはまた無数のぬいぐるみが群がっていた。
「高梨順也は私ではないぞ。私は標的を外れた者を処分するほど、バカではない。絶対にしないのだから」
「そんなことを聞いているのではないっ」
ウサギの叫びをサルのぬいぐるみが一蹴し、手にしていた槍でウサギの足を突いた。
「我々が聞きたいのはあの“マーク”だ。あれは何を意味しているっ。あのようなことをするのは、違反行為であるぞ。我々は痕跡を残してはいけないのだから」
「そうだ、お前は間違っているっ」
事情は把握できないのだけれど、サルがウサギを叱責しており、周りのぬいぐるみたちもそれに従い、ウサギに罵声を挙げ、手にした武器を掲げていた。
「私には関係のないことだっ」
“マーク”とは何を指しているのかわからず、ずっとウサギを眺めていると、ウサギも抵抗して、縛られながらももがいていた。
「あれは私を陥れるための誰かの仕業であろうっ。ならば、私を攻める前に、そのバカ者を探すのが先決ではないのか。私は潔白なのですぞ」
なかばずっとウサギが悪者として、ぬいぐるみたちに責められている。
と、声だけだと受け止められるけれど、光景を見てしまうと、ぬいぐるみたちが戯れているだけにしか見えない。
声とは裏腹に、微笑ましくなってしまうのである。
だからか、さっきまでの緊張は解れ、頬が緩んでしまう。
「頼むっ。私を助けてはくれないか。そうだ、少年。私の味方はあなたしかいないのだ。そうだ、少年よ、助けてくれたまえ。どこかにおらぬか。さぁ、今ですぞ、助けられるのはっ」
助けを求められて悪い気はしないけれど、ウサギの話を聞いていると、途中から眉をひそめてしまう。
ウサギは助けてもらう立場なのに、どこか上から目線で、助けを求めていたのである。
助ける気は急に失せてしまい、腕を組んで眺めた。このままウサギが追いつめられていくのを見届けるのも悪くない。
いや、見捨ててやる。
「助けないのか?」
口角を上げ、無様なウサギに満足していると、どこからともなく声が届く。
それは群がるぬいぐるみがウサギに向けたものではなく、僕に向けられてい。
「助けるって言ったって、これは夢だろ。だったら、助けられないだろ」
どこから聞こえるのかはわからない。ただ宙に向かって洩らした。
それでもぬいぐるみたちが反応することはない。
「さぁ、少年。早く私を助けたまえっ。さぁっ」
ウサギの懇願が耳障りなほど強く、広間に響いた。
「あのウサギがこんな状況になっているのは、お前のせいだ」
声が背中の方から責めてくる。
「お前が悪い」
さぁ、私を助けなさい、少年っ。




