第三章 ~ ぬいぐるみ? ~ (8)
気になりますか?
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夜中の十二時半を時計の針が回ろうとしている。
そろそろ寝ようとベッドの上でゴロゴロしていても、バラエティー番組が面白かったので、つい見ているところである。
テレビからの笑い声が洩れていると、そこに別の音が遠くからノイズとして混じってくるものがあった。
何気に天井を眺め、耳を澄ましていると、外からのノイズが波を打って鼓膜を響かせる。
胸をざわつかせる雑音を知りたくて、テレビを消音にすると、雑音が次第に強まり、音に気づかされる。
「……消防車?」
外を通り抜けていくのは、消防車のサイレンだと気づいたとき、つい首を伸ばして窓を眺めてしまう。
またどこかで火事が起きているのか、消防車が連なっていく音が風に乗ってくる。
これまでならば、聞き流していたのだけれど、高梨のこともあるので、胸がざわめいてしまう。
じっとしてられず、窓を開いた。冷たい風が頬を撫で、心地よい。
少し雲がかかって星は見えず、空に泳ぐ月も微かに靄がかかっていた。
時間もあってか、地上の明かりは暗闇に染まっていきそうで、ところどころに闇に沈むのを拒むように明かりが点々と灯っていた。
消防車の音は、その暗闇のなかをさまようように木霊していた。
音を探すべく、視線を彷徨わせてみるけど、見つけられなかった。
周りを見る限り、火が燃えているところはここからでは確認することはできなかった。どうやら、近くではないらしい。
火事の現場を見つけられず、「大丈夫だ」と強がって頷きながら、窓を閉めた。
「お前、大丈夫なんだーー」
振り返り、ウサギを問いただそうとすると、声が詰まり、ウサギの姿に眉をひそめてしまう。
ウサギは寝ているのだけれど、それがまた憎らしかった。
テーブルの上にはウサギサイズのベッドがあり、そこで眠っている。
白いパジャマに白いとんがり帽子を被って。
憎らしい姿を眺めていると、消防車の音を聞いて頬を引きつらせていた感情が一気に消え去り、呆然としてしまう。
腹立たしくなり、手にしていたスマホを強く握った。こいつを殴ってやろうと。
拳を振りかざしたとき、ウサギの表情に手が止まってしまう。
ウサギは苦しそうにしていた。何やらうなされている。
耳を澄ましてみると、寝言なのか、寝息なのか、声が小さく洩れている。
まるで悪夢に苦しんでいるようであった。
そもそも、ぬいぐるみが夢を見るとか、眠ることが現実にあり得ないはずなのだけど、こいつが喋っているところに居合わせてしまうと、考えてしまった。
気を遣うのも悔しいのだけれど、振り上げた拳を静かに下ろした。
そのまま放っておいた。
ウサギが見ていた悪夢はなんなのか、と考えていると、自分の夢にも少なからず影響を受けてしまった。
不思議なことに、意識が鮮明になったときに、立っている場所が夢のなかなのだと変に理解してしまっていた。
場所は○△駅の入口。あの絵を見上げる形で立っていた。
どうしても足が竦んでしまう。
じっと階段を眺めていると、全身に緊張が走ってしまう。恐れていた。
あの“影”が出てきそうな不安に。
周りに人影はなく、耳を澄ませば風が貼りつきそうで苦しくなっていく。
それでも微かな音を求めてしまう。静寂は“影”の足音を強めていきそうで。
音が聞こえることはないのだけれど、心が警戒している。
早くここから逃げ出せ、と。
警告が次第に大きくなっていくと、指先が震えていく。恐怖に心臓が握り締められていると、空気が張り詰めていく痛みが走る。
圧迫されていくと、膨らんだ風船が割れたような衝撃とともに、重たい音が響いた。
ーー 来るっ。
胸のなかで、警告が爆発した。
音は階段の上からしている。静かに、それでいてこちらにゆっくりと近づいてくる。
“影”の足音が。
慌てて階段に背を向けた。
どこでもいい。逃げたかった。
逃げなければいけなかった。
近づいてきます。
……来ます。




