第三章 ~ ぬいぐるみ? ~ (1)
私が何をしたと言うのですっ。
第三章
1
目の前の光景は絶対に夢である。
夢でなければ、思考回路が壊れているとしか言えない。
ウサギはいるのだけれど、誰かを襲おうとはしてはいない。いや、むしろウサギが被害者になる形になっていた。
コンクリート張りの小さな部屋。壁の一部が崩れて剥がれた、何もない殺風景な部屋の壁際に、二メートルは越えている大きな十字架が備えつけられており、そこにウサギが貼り付けになっていたのである。
その光景を遠くから眺めているのだけれど、言葉をかけられなかった。
なぜならば、その十字架の周りには、無数のぬいぐるみが群がっていたのである。
いろいろな色と種類のぬいぐるみが十字架の足元でうごめいている。
犬、猫、様々なぬいぐるみが集まっている。
しかも、その手には武器を持っている。銃に剣、ウサギが持っていた鎌やナイフを手にしていた奴もいる。
今にも襲いかかりそうに、振り回している。まるでウサギを“標的”としているように見えていた。
一匹のサルのぬいぐるみが槍を持っており、軽くウサギを突いた。すると、眠っていたのか、ウサギが顔を上げる。
「なっ、なんなのだ、これは。私が何をしたと言うのだっ」
「黙れっ。お前はミスをしたのだ。その責任を取れっ」
はて? 流暢に喋るぬいぐるみというのは、当たり前なのだろうか。と疑問を置き去りされるなか、槍を持ったサルがウサギを責める。
「わかっているのかっ。我々は現実に影響を与えてはいけないのだぞ。協力者以外の者にバレてどうするっ」
サルに同調した周りのぬいぐるみが「そうだっ」と叫んでいる。
「ぬぬっ。確かに木のことは…… だが、私とてミスばかりではない。ちゃんと手がかりも掴んだ。ちゃんと“尻尾”は掴んだのだから。だから、ここは見逃してほしいものである」
首を左右に振りながら、必死に訴える姿に、疑念が芽生えてしまう。
……尻尾。何を言っているのか……。
「そもそも、なんだ、あの絵はっ。芸術性も品もないあの絵はっ。あれは私への当てつけかっ。もしかして、クソ牛の仕業なのかっ。ならば許さんぞ」
「何を言っている。騒ぐのもいい加減にしろっ」
わめくウサギに、周りのぬいぐるみが輪をかけて怒鳴った。それでもウサギは黙らず、叫び続けていた。
「そうだ、少年。今もどこかにいるのであろう。今ですぞ、私を助けられるのは。さぁ早く助けたまえ」
そこで何を血迷ったのか、助けを求めてきた。
ウサギは途方のない方向を見て叫んでいる。周りのぬいぐるみもざわめくばかりで、こちらを見ることはない。
どうやらこちらの姿は誰にも見えていないらしい。
「さぁ、早く、早く助けるのだ」
巻き込まれずに安堵していたけれど、ウサギの声が耳障りになり、眉をひそめてしまう。
きっと、叫んでも気づかれないだろうけど、我慢できなくなる。
「黙れっ、バカウサギ」
……叫んでしまった。
さぁ少年、助けたまえっ。




