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ノース 4

 ノースが王宮内を歩き回って集めた情報は、前日、ララとマーリーから聞いた話と概ね一致していた。ふたりは、新しい魔法具云々が作り話だったことを認めた上で、そこに至るまでの驚くべき出来事を語ったのだった。

 晩餐会で、〈魔法封じ〉を解こうと言い出したのが、マーリーの母親だったのか、それともパウバナ大司教だったのか。女官に怪我を負わせたのが、マーリーだったのか、それとも女官長だったのか。それは、今は問題ではない。結果として〈魔法封じ〉が解かれ、女官が怪我をした、という事実が重要だった。

 晩餐会当日の女王陛下の服装は、赤地に金糸で刺繍をしたドレスだったという。それは、ララが着ていた服と同じだ。マーリーの服装も、指名手配になっているものにぴったり合う。

 ただ、ララサララ女王が無事だという一点が、ふたりの話と食い違っていた。王宮に女王がいるのなら、今ファル・ベルネのノースの家にいるララは偽者ということになる。

 ――しかし。

 昨日、一日かけてふたりの話を聞いてみて、ララがララサララであることを、ノースは七割方信じかけていた。ふたりが語った、中庭での謁見えっけんから、ファル・ベルネの町にたどり着くまでの話に破綻はなかった。加えて、ララは王宮内の些細なことまで実によく知っていた。それは、女王本人ではなくても知り得る事柄がほとんどだったが、あそこまで破綻なく話をするのは、偽者ならば驚嘆に値する。〈行幸の御証〉は、王の権力示威のために王宮の魔法使いが行う人為的な現象で、王が移動するだけで自然と起きるようなものではない。国民はそれを知らないことが多いが、ノースは当然知っていた。さらには、旅の歌い手だというマーリーも、嘘をついているとは思われなかった。

 これは一体どういうことだろうか。ファル・ベルネのララが女王本人だとすると、今度は王宮にいる女王が偽者だということになってしまう。

 ノースは〈奥の宮〉へと足を向け、女王の衣装庫の扉を叩いた。

「騎士団第八大隊長のノース・ブリューチスよ」

「はい。何でしょうか?」

 衣装庫で対応に出たのは、十五〜六歳の若い女官だった。ララと同い年ぐらいだろう。

「女王陛下のお召し物はすべてこちらに?」

「はい」

「赤地に金の刺繍の入ったドレスがあると思うのだけど」

 一瞬、女官の視線が泳いだのを、ノースは見逃さなかった。

「数日前の晩餐会で、陛下がお召しになっていたものよ。見事な刺繍だったと噂を聞いたわ。私、こう見えても刺繍に興味があるの。是非、一度拝見させてもらえないかしら」

「あ、あの……、衣装庫長を呼んで参ります」

 慌てて部屋の中へ戻ろうとする女官の腕を、ノースは素早く捕まえた。

「待って。衣装庫長なんかに訊いたら、見せてもらえるものも見せてもらえないわ。長とつく人達は形式にこだわるからね。どう? 一目で良いのよ」

 可哀想なくらい若い女官はオロオロしている。

「ええと、あのドレスは汚れてしまって……、そう! 汚れてしまって、廃棄されました」

「捨てたの?」

「はい。ですから申し訳ありません」女官は、下から上目遣いにノースを見上げた。

「それは残念ね。是非、拝見したかったわ」

 潮時と見て、ノースは衣装庫を後にした。何食わぬ顔で女官に手を振り、廊下を足早に歩く。そして、辺りに人影がないことを確認すると、立ち止まった。

 ノースは、自分の鼓動が速くなっているのを自覚した。くだんのドレスが衣装庫に戻されていないのは、ほぼ間違いない。ララが着ていたドレス、あれがおそらく本物なのだ。

 ――とすると、今王宮にいる女王は誰だ?

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