第12話 僕と力
神様と死神は動かない。
そして、様々な負の感情も、僕の心に入って来ていない。
「無理やり、こっちの世界に介入したんで、止まっちゃったね」
中学まで、ずっと同じクラスだった彼は〝神様候補〟だそうで。マジか。
しかし無理やり介入って……凄いな。まだ神様には、なってないんだろ?
「ちょっと、知り合い達の力も借りてるんだよ。色んなジャンルの力の合わせ技なんだ」
彼曰く、その〝知り合い達〟も、中学までの同級生のようだ。
なにそれ? ウチの中学って、ポ○ワーツだったの?
「あはは。確かに魔法使いも居るよ。僕は黒猫とホウキを連想したんだけど、のっさんはそっちかー!」
居るんだ、魔法使い。
「とにかく、ちょっと無茶なやり方だったけど、間に合ってよかったよ。あとは、祝福の選択次第だね」
……神様になってなくても〝祝福〟って与えられるものなのか?
「まあ、前借りみたいな? 今回だけの特別ルールだよ。だから、うまく選んでね!」
うう。今度こそ、絶対外せないな。
「……きっと大丈夫。なるべく、わかりやすいのを選ぶから」
頼む。明らかにこれが当たり! みたいなの、希望。
「じゃあ、えーっと、僕に対する、のっさんの〝働き〟だよね……」
僕は中学まで〝のっさん〟と呼ばれていた。今は〝たけちゃん〟とか〝竹脇〟だ。
……それより、なんかあったっけ? 僕が彼にした〝働き〟って。
「……小学6年生の修学旅行の時に、地元の中学生から僕を庇おうとしてくれた事に対して」
懐かしいな。結局、僕が逆に助けてもらったんだけど……いいのかな、そんなので。
「お前に祝福を与えよう! これは大いなる選択。後戻りは出来ぬ!」
彼は、3つの選択肢を並べた。声だけしか聞こえないけど、たぶん、両手を振り上げて。
「ひとつは暴君。お前はすべての人々の様々な感情を無視し、力を行使する事が出来る」
「ふたつは無心。お前はすべての感情を無くす事が出来るだろう」
「みっつは虚心。お前はすべての人々の様々な感情を、すべて受け入れるだろう」
……さっき、神様が出した3択は〝圧政〟が正解だったんだろう。
青い球の力を、無理やり僕の力に変える能力かな。惜しいことをしたが、とにかく今は、〝共感〟をなんとかしないと。よし、今回の3択の正解は……
〝暴君〟を選びます!
当たっててくれ……これ以上はもう耐えられない。心が壊れてしまう。
「竹脇延年に祝福を! 汝、暴君であれ!」
僕の中に〝暴君〟の祝福が入って来た。
途端に、気持ちが落ち着いていく。知らない人達の感情が、僕の感情から引き剥がされていくのがわかる。
「正解だよ、のっさん!」
やった! 助かった!
と思った途端、心の奥底から、低く、優しい口調の声が響く。
何だ? こんなの初めてだ。
『〝暴君〟は〝共感〟の力を得て〝賢帝〟となった』
僕の中で、2つの祝福が、より大きい1つの力になっていく。
祝福が合体したのか?!
『我は賢帝。お前はすべての人々の様々な感情を糧とし、強大な力を行使する事が出来る。汝、賢帝であれ!』
どうやら〝暴君〟が〝共感〟と出会うことによって、パワーアップしたらしい。
強大な力って……なんか〝圧政〟より凄くないか?
「良かった。災い転じてなんとやら、だね!」
ありがとう、本当に助かったよ!
「えへへー。どういたしまして! それじゃ、僕はこれで! ……早く帰って来れるといいね」
そう言って、彼の声は聞こえなくなった。
途端に神様と死神がしゃべり始める。
『竹脇延年、大丈夫か?』
「ノブトシ、何があったの? キミの中の〝負の感情〟、急に静かになったけど」
僕は、今起きた事を神様と死神に説明した。
「〝賢帝〟なんて祝福は聞いたことがないよ。っていうか、祝福同士が影響し合うなんて、本当にキミならではだよね!」
複数の祝福を手に入れられる僕だから起きた奇跡だ。やっぱ僕って凄くね?
『……しかし、お前の友人も凄いな。別世界に無理やり入り込んでくるとは。ましてや、祝福を与えるなど、前代未聞だ』
驚いた顔の死神。まあ、今回だけって言ってたし、かなり無理してくれたんじゃないかな。
「でも良かったよ、ノブトシ。一時はどうなることかと……」
申し訳なさそうに笑っている神様。
ごめんなさい、心配かけました。次からは、もっと考えて選びます。
『お前という奴は。祝福のせいで、あそこまでひどい状況になる事など、そうそう無いぞ』
とか言いながら、ホッとした顔の死神。
もしかして、心配してくれたの?
『……ふん。お前を殺すのは私だからな』
あはは。言うと思った。
「じゃあ、早速だけど〝賢帝〟、試してみる?」
はい。やってみます。
僕は自分の中に漂っている、負の感情を〝賢帝〟に預けた。低く優しい声が響く。
『47の感情を受け取った。憎悪と殺意は力に。恐怖と苦痛は生命力に。絶望は希望に。全ての感情は、余す所なくお前の力となる』
身体中に信じられないくらいの力が沸き立つ。うわ! 凄いぞこれ!
『パンパカパーン! HPが12上がった! 攻撃力が11上がった! 守備力が8上がった! 敏捷性が4上がった! 運が12上がった!』
ファンファーレと共に〝賢帝〟の低く優しい声がステータスアップを告げる。まさかここで崩してくるとは。
「驚いた……凄いね! 〝賢帝〟。そんなにパワーアップできるんだ!」
本当に驚いている様子の神様。数値で言われても、ちょっとよくわかんないんですけど……
『数値で表している辺りが既に尋常では無いのだがな。今回のお前の成長具合を解りやすく教えてやろう』
そう言うと、死神は黒い大きな袋、無限袋から、四角い鏡を取り出した。
『これは、慧眼鏡。あらゆる物の鑑定が出来る神器だ』
その袋、本当に便利だな。お前とその袋があれば、僕なしで話が進むんじゃないか?
『どれどれ。ほら出た。見てみろ、今回の強化がどれ程のものか、わかるだろう』
死神に慧眼鏡を手渡された。なにやら見た事のない文字が鏡に写り込んでいる。これって神様文字か何かかな? 僕には〝言葉〟の祝福があるから、どんな文字でもスラスラ読めるんだけどね。なになに?
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竹脇延年 たけわきのぶとし
HP 15
MP 0
攻撃力 12
守備力 9 + 4
敏捷性 8 - 2
運 14
祝福
言葉Lv2 遺物Lv1 賢帝Lv1
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おおー! これは面白いな! プラスマイナス表示は、きっと装備による変化だろう。
……あれ? さっき確か、HPが12上がった! とか言ってなかったっけ。という事は、僕のHPって、元はたったの3?!
攻撃力も11上がったような……パワーアップ前は1って事か! 凄く強くなってる! というか、元々のステータス、低っ!!
「ノブトシ、どうだい? 凄い変化だろう。〝賢帝〟、恐るべし! だね」
『虫47匹でこれだ。明日の討伐が楽しみだな』
……そう言えば、巣に居る目切り虫の数、2000匹とか言ってたよな。




