第11話 僕と負の感情
「えっと。じゃあ、この村を魔物から守ってくれた事に対して……」
神様はにっこり微笑んで続ける。
「お前に祝福を与えよう! これは大いなる選択。後戻りは出来ぬ!」
神様は両手を振り上げて、3つの選択肢を並べた。
「ひとつは調停。お前はすべての人々の様々な感情を聞き届け、収める事が出来る」
「ふたつは共感。お前はすべての人々の様々な感情を受け入れ、理解するだろう」
「みっつは圧政。お前はすべての人々の様々な感情の犠牲の上に、力を得よう」
わかりづらい! 今までで一番わかりづらい!!
神様は、青い玉って、良くない感情のエネルギーだと言っていた。それをどうするのが1番良いか、だよな。
「ごめんね。キミにあげたい祝福が強力すぎて、他の2つを、思ったほど自由に選べなかったんだよ」
申し訳なさそうに神様が言った。
じゃ、せめて助言を下さい! わかりやすいやつを!
『愚か者め。わかりやすい助言などしたら、折角の祝福が、全部消えてしまうだろう。前回の助言などは、むしろ消えなかったのが不思議なくらいだ』
「うん。あれはさすがにね。ルール違反スレスレだよ。危ない危ない」
祝福がルール違反で消えちゃったら、もしかして、その3つは永遠に手に入らないの?
『当たり前だ。お前のその頭には、脳みそは入っておらんのだな』
ひでぇ言われようだな……
でも、ある程度の助言なら貰えるんですよね。
「……そうだね。でも、今回はキミに何を言っても、混乱させるだけのような気がするんだ」
『今回の3択は、危ういな。下手に助言すると、祝福が消えそうだ。よく考えて、自分で選ぶのだな』
ええー! ムズいよ! どうしよう。
「あ、そうだ。あまり時間をかけても、時間切れで祝福が消えちゃうよ。急いで!」
ちょ! そういう事はもっと早く言って下さいよ!
……ええい。こうなったら消去法だ。
まず、ハズレは3のような気がする。なんとなく人々を犠牲にするっていう響きがイヤだ。
次に1は、喧嘩とかの仲裁をする能力だよな。今回の青い玉とは関係ない気がする。ならば、正解は……
「決まったかい? さあ、どれを選ぶ?」
『よく考えたか? 本当にそれで良いのだな?』
ええい! 大丈夫だ! 2の〝共感〟を下さい!
「……やっぱり。そんな気がしたんだよね」
神様は、申し訳なさそうな表情で、儀式を始めた。
え? え? どうしたの?
「竹脇延年に祝福を! 汝、共感と共にあれ!」
また僕の中に、何かが入り込んできた。
『竹脇延年……お前が選んだのはハズレだ』
ええ?! ハズレ? 〝共感〟がなぜ駄目なんだ?!
そう思った瞬間、目の前の青い球が、僕の方に近付いてきた。なになに? どうなってるの?
「ごめんよ。キミが祝福を選んでしまったからには、僕は必ず与えなくちゃならないんだ」
すごいスピードで僕の側頭部にへばりつく青い球。すごく気持ち悪い!
「ノブトシ。〝共感〟を得てしまったキミは、その青い負のエネルギーに共感して、同じ苦しみや悲しみ、怒りなどを味わうことになる」
青い球は、僕の頭の中に入ってきた。怒り、憎しみ、悲しみ、恐れ、その他、ありとあらゆる負の感情が、僕の中に流れ込んで来る。あ、これ、駄目なやつだ。
『お前を守る〝精神の壁〟が無くなり、他人の感情がお前の心に、直接、混ざろうとする。それが〝共感〟だ。自分を見失うな。帰ってこれなくなるぞ!』
あああああああっ?! うわっ! わあぁああっあああ!!!
し……知らない人達の心が、勝手に僕の気持ちを書き換えていく!
なんで殺した!
あいつを殺したい!
僕は殺されたくない!
なんで僕を殺した!
いや、僕は死んでないぞ?
ならもう死にたい。
いやだ生きたい!
駄目だ死ね!
怖い!
憎い!
逃げたい!
逃がさない!
うるさい!
怒鳴らないで!
暑い!
寒い!
痛い!
気持ち悪い!
何だ、どうなってるんだ! どうにかなってしまう!
助けて!
助けは来ない!
なんで助けてくれない!
お前のせいだ!
僕のせいだ!
いや、アイツのせいだ!
だから殺す!
お前を殺す!
うあ! うぁあああっ! ああああああ??!!!!!
「ノブトシ! しっかり!」
『竹脇延年……! お前はこの世界を救うんじゃないのか!』
うあああああ!
……そ、そんな事言われても!
このとめどなく押し寄せる最悪の感情は、僕の表層の意識をすり抜けて、直接、心を切り刻んでいく。
イヤだ、もう嫌だ。うあああああっ! いやだああああああああ!!!
「……っさん」
……なにか、聞こえる。あれ? なんだか、ちょっと楽になったぞ?
「のっさん、聞こえる?」
誰? 僕を呼ぶのは誰だ?
しかし〝のっさん〟って。また、懐かしい呼び方だな。
「僕だよ。わかる?」
……ああ、なるほど。
神様候補の〝カジュアル・リキシ〟って、お前だったのか。
「力士? 何それ? ヒドいなあ。原型とどめてないじゃない」
はは。確かに。響きだけだよな。
それにしても久しぶりだな!
お前のおかげで、なんとか死なずにいたけど、今、ちょっとピンチだ。
「うん。そうみたいだね。だから、僕も手助けに来たんだ」
マジか! 有り難いよ。でもこれ、なんとかなるの?
「次の3択を、間違えなければ、ね」
また3択か。ハズレでも祝福は祝福とか言ってたのに、いざハズレ引いたら、途端にこんな感じだし、怖いよなぁ。




