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第21話 聖女は王子の愛に戸惑う

 エリーゼが目を覚ますと、知らない部屋のベッドの上に寝かされていた。


(あれ……私、どうしたんだっけ……ここは……?)


 壁も床も天井も、そしてベッドすらも全てが純白で眩しい。そこはエリーゼが帰りたいデヴィール国の『黒』とは正反対の色だった。

 という事は、ここはウィリアム国の王城。気を失っていたので経緯は分からないが、アゼルがエリーゼの奪還に失敗したのだと分かる。

 ふと横を見ると、銀髪の美しい王子の寝顔が視界の全面に飛び込んだ。しかも至近距離で。


「え!? ちょ!? ちょっと、カイン様!?」


 エリーゼの隣ではカインが添い寝をしていた。エリーゼは反射的に起き上がると、まず自分の服を確認する。


(服は……着てる! 何も……されてない!?)


 服は国境に出かけた時のままの白いドレスで乱れてはいない。アゼルの例もあるので、また寝ている間に『やられて』しまったのかと危惧した。

 ふと視線を下げてベッドの上を見ると、エリーゼの叫び声にも反応せずにカインは未だに寝息を立てて眠っている。


(なんなの、この人、何考えてるの!?)


 今すぐにベッドから蹴り落としてやろうと思ったが、どうもカインの様子がおかしい。安らかに眠っているかと思ったら、眉をしかめて唇を噛み締めて辛そうな顔をしている。

 悪夢でも見ているのか、銀色の髪の隙間から見える額には汗が滲んでいる。そして固く閉ざされた唇を少しだけ開けて声を絞り出す。


「エリーゼ……様……」


 自分の名を呼ぶカインの声が、単なる寝言ではないと感じ取ったエリーゼの瞳と心が激しく揺れ動く。


(カイン様……前世の夢を見ているのね)


 直感で確信したエリーゼは、カインの触れてはいけない心の奥底を垣間見た罪悪感に胸が痛む。そしてカインが、こんなにも苦しそうにしている理由にも。

 エリーゼは重大な思い違いに気付いた。前世のカインは本気でエリーゼを愛していたのだと。

 カインは今、愛する人に殺された、その残酷な過去の最期のシーンを夢で見ている。それはカインが何度でも繰り返し見る夢であり苦しみで、永遠に終わらない悪夢なのだと知った。


「カイン様、起きて」


 その悪夢を断ち切ろうとして、エリーゼは優しい声色でカインの体を揺する。悪夢から目覚めたカインは一気に目を見開く。

 呼吸を荒くしながら虚ろな銀の瞳の焦点を目の前にエリーゼに合わせる。すると突然、ふわっとした温かさに包まれた。

 エリーゼがカインの背中に腕を回して、包み込むように優しく抱きしめている。


「エリーゼ……様……? ここは……僕は……」

「大丈夫、それは夢よ。カイン様はちゃんと生きてるから安心して」


 夢の内容を見透かされたカインは、驚きよりもエリーゼの温かさに安堵して呼吸が落ち着いていく。

 逆にエリーゼは、カインの深層心理を知って今後の不安が胸を襲う。


(もし、カイン様が前世の記憶を取り戻したら……)


 そうなればカインは『本気で』エリーゼを愛するのかもしれない。しかしエリーゼはカインに愛されるのが怖いと思う。

 前世と同じ運命を辿るかのように、現世でもエリーゼはアゼルを愛し、カインがアゼルと敵対した。それでもエリーゼは前世と同じ悲劇を繰り返したくはない。

 エリーゼに身を任せたままのカインは、呼吸を整えながら弱々しく微笑んだ。


「ふふ、エリーゼ様の寝顔が可愛くてさ。つい僕も一緒に昼寝しちゃったよ」

「よく言うわね、しっかり寝間着を着てるくせに」


 エリーゼのツッコミは叱るような厳しさではなく優しさを含んでいる。カインは真っ白なシルクの寝間着を着ているが、銀髪・銀眼の美しい容姿と似合いすぎて笑えない。

 そして問い詰めなくても分かる。カインは純粋な添い寝だけで、それ以上は何もしていないと。

 エリーゼはカインから腕を解くと、ベッドの上に座ったままで正面から向かい合う。


「ねぇ、なんで私はここにいるの? あれからどうなったの?」

「アゼル様がセレンを連れて行ったからさ、僕はエリーゼ様を連れ帰ったよ」

「……は? 何それ?」


 なぜ人質の交換みたいになっているのか、エリーゼは訳が分からない。エリーゼを溺愛しているアゼルが、聖女の能力や下心が目的でセレンを連れ去る事は考えられない。

 エリーゼは気を失う前の状況を思い出してみる。あの時は聖女の能力が暴走した光で視界が悪かった。


(まさかアゼル、私とセレンを間違えて連れ帰ったとか?)


 いや、いくらなんでも、それは……と脳内で否定するよりも納得が先に出てしまった。


(……バカなアゼルなら、ありえるわね)


 それでも怒りや不安や焦りを感じないのは、アゼルがセレンに手を出す事は絶対にないと分かっているから。こんな時だけは、二人が共有する『溺愛の呪い』の安心感に感謝してしまう。

 バカで助かったり、困ったり……アゼルはどこまでもエリーゼを翻弄するが、そんなバカなところさえも今は愛しいと思う。

 すっかり目が覚めて調子が戻ったカインは、唐突にエリーゼの両手を握る。


「エリーゼ様は本物の最強の聖女だったんだね! 今、治癒の能力使ったでしょ!? 僕、すごく元気が出たよ!」

「…………」


(え……カイン様もバカだったの……?)


 もはやエリーゼは遠い目をしている。能力なんて使っていない。エリーゼに抱きしめられて心身が癒されただけなのに、能力で治癒されたと勘違いしてしまった。

 エリーゼが突っ込む間もなく、テンションが上がったカインは次々と言葉を畳み掛ける。


「偽物だって疑ってごめんね。やっぱり僕はエリーゼ様と結婚するよ!」

「え……ちょっと待って! セレンはどうするの、婚約者でしょ。きっと人質にされてるわよ」

「セレンよりもエリーゼ様の能力の方が強かった。取り返す必要もないし都合がいい。このままでいいや」

「よくないわ!!」


 今度は豪快にツッコミを入れるエリーゼだが、このままではまずい。カインはデヴィール国に囚われたセレンをエリーゼと交換する気がない。

 カインには前世の記憶がないとはいえ、前世で愛したエリーゼを選ぶのは当然であった。しかも最強の聖女だと認められてしまったので簡単には手放さないだろう。


「ふふ、エリーゼ様。愛してるよ。幸せになろうね」


 カインは満面の笑顔でエリーゼの腰を引き寄せて抱きしめてくる。

 一方的に愛を注いでくるカインは以前の冷酷なイメージから一変した。カインは恋愛に関して思った以上にピュアだった。純粋な気持ちで添い寝をするほどに。

 不覚にもエリーゼの母性や乙女心をこれでもかと刺激してくる。アゼルに対する溺愛の呪いが浄化されてしまいそうな勢いだった。


(あぁ……どうしたらいいの、アゼル……)


 カインに前世の記憶が蘇った訳ではなく、カインがエリーゼと接する事によって潜在意識と愛が蘇ってきている。このままカインの側に居たら危険だ。

 冷酷な王子であった方が敵対しても憎めたのに、やりにくい。思わぬカインの変化にエリーゼは戸惑う。

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