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第20話 将軍は軍隊長に恋をする

 レミアルは気を失っていて、石の床に伏せて倒れている。甲冑は全て脱がされていて、身に着けているのは白い下着のみ。20歳の女性としては悲惨な姿だ。

 普通ならば目のやり場に困るが、エリーゼにしか興味がないアゼルと、戦にしか興味がないアーサーは平然としている。

 呆然とレミアルを見つめているセレンの横でアゼルが問いかける。


「さて、セレンよ。この女に関する情報を教えてもらおうか」

「……レミアルよ。ウィリアム国の将軍」


 セレンは視線を真っ直ぐに牢屋の中に向けたままで答える。今はアゼルと目を合わせたくない。その声にも静かな怒気が含まれる。

 アゼルは将軍と聞いて僅かに驚いた。戦場でのレミアルは兜で顔全体を覆っていたので女性だとは気付かなかった。

 19歳のセレンは20歳のレミアルと歳が近い事もあり、将軍よりもメイド長としてのレミアルと親密だった。だからこそ、セレンは今のレミアルの扱いが許せない。


「ちょっと、あんた! アーサーだっけ? 女性になんてひどい扱いしてるのよ!」


 セレンは人質という立場を忘れて、素の口調でアーサーを責める。さすがはエリーゼの妹、有無を言わせない気迫と貴族のプライドを併せ持つ。

 人質からタメ口の命令口調で呼び捨てされてもアーサーは感情を崩さない。というか特に気にしない。


「傷付けてはいない。眠っているだけだ」

「そうじゃないわよ、服を着せてベッドに寝かせろって言ってるの! これじゃ虐待でしょバカ!!」


 バカという言葉に反応してアーサーの眉がピクリと動いた。セレンを挟んで反対側の横に立つアゼルは思わず吹き出した。セレンの口調がエリーゼにそっくりだからだ。

 人質に虐待も何もないが、エリーゼを虐待してきたセレンが言う言葉としては筋が通らない。しかしエリーゼもきっと同じ事を言うだろう。


「いいだろう。アーサー、セレンの言う通りにしてやれ」

「……承知しました」


 アゼルの命令に従って、アーサーは見張りの兵から牢屋の鍵を受け取る。扉を解錠して中に入ると、床に倒れているレミアルに近寄る。

 アーサーは無表情のまま黒い軍服の上着を脱ぐと、裸に近いレミアルの身体に被せた。

 そしてレミアルの背中に手を回して上半身を起こさせると、そのまま抱き上げようとする。その時、レミアルの瞼が開いてアーサーのグレーの瞳と目が合う。


(アーサー殿が、こんな近くに……これは、また夢か?)


 まだ夢見心地のレミアルは、目の前にいるアーサーが前世の夢なのか現実なのか区別できていない。

 しかし相変わらずクールなアーサーは、レミアルに熱い視線を向けられても少しも感情を揺らさない。


「目が覚めたのか。自力で歩けるか」


 その短い一言で、レミアルはこれが現実である事を認識し始めた。起き上がるとペタンと床に座り込んで呆然とアーサーの顔を見上げる。

 その時レミアルは、自分の肩にかけられた黒い軍服に気付いた。改めて目の前のアーサーを見ると、上着はなく黒いシャツのみ。


(アーサー殿は優しいのだな……あぁ、好きだ、やっぱり好きだ……)


 一気に感情が溢れ出したレミアルは、瞳に涙を浮かべて止まらない想いをアーサーに告げる。


「アーサー殿! 私はずっと夢の中であなたを追いかけていた。今も愛しい気持ちは変わらない。あなたは私の運命の人だから……」


 夢と前世と現世を織り交ぜた、唐突なレミアルの愛の告白が延々と続く。

 訳が分からないアーサーは怪訝な顔をしているが、外野で二人を見守るセレンの方が動揺というか興奮し始めた。


(え!? レミアルとアーサーって、そういう関係だったの!?)


 しかも敵国の将軍どうしの禁断の恋。それを目の当たりにしたセレンの中で、熱い何かが目覚めた。本当の恋を知らないセレンだからこそ純愛は眩しく映る。


(この二人……絶対に結ばせたいわ!!)


 その思考はエリーゼと全く同じ。さすが姉妹としか言いようがない。瞳に光が宿ったセレンは、臆する事なく横のアゼルに顔を向ける。


「アゼル様。ここは二人きりにしてあげるべきよ。さぁ、行きましょう」

「む? まぁ、いいだろう。アーサー、その人質は貴様の好きにしろ」


 いつの間にか主導権をセレンに握られているが、珍しく空気を読んだアゼルはセレンに続いて地下牢から立ち去った。

 牢屋の中に残されたアーサーとレミアルは、未だに二人の世界を繰り広げている。レミアルは頬を赤く染めて、すっかり恋する乙女の顔になっている。


「たとえ私がアーサー殿の趣味ではなくても……それでも私は、あなたを……」


 レミアルはアーサーに『趣味ではない』と言われた事がショックで、再び泣きそうな顔になる。

 ここで初めてアーサーが少し動揺した。


「そういう意味ではない。私はお前が女だとは気付かなかった。甲冑を脱がすまではな」

「……アーサー殿が脱がしたのか」

「……変な事はしていない」


 なぜか二人して黙り込んでしまった。

 つまりアーサーはレミアルを男だと思っていたので『趣味ではない』という発言をしてしまったのだ。


「あの……私はアーサー殿の側で尽くしたい。ダメだろうか」

「それは寝返って我が軍の配下になるという事か? お前が人質である以上、無理な話だ」


 この流れで話を軍事に結びつけるアーサーは罪な戦バカである。エリーゼかセレンがこの場にいたら確実に突っ込む。

 しかしレミアルも真面目で純粋なので、アーサーの言葉を真に受けて沈んだ顔になる。


「……私に人質の価値はない。エリーゼ様の作戦に加担した裏切り者だからな。帰国すれば殺されるだろう」

「ならばなぜ、そこまでしてエリーゼ様に協力した? なんのために?」


 そこに気付かないアーサーは鈍い。レミアルにそれを言わせる誘導尋問なのかと思えてしまうほどに。


「私はアーサー殿の元へ行きたかった。それだけだ」


 レミアルは母国を捨てて決死の思いでデヴィール国に来た。その強く真っ直ぐな想いが、アーサーの心を動かした……かどうかは分からない。


「覚悟は分かった。お前の処遇は私に一任されている。お前に人質以外の役割を与えてやる」


 レミアルの覚悟は分かっても、恋心は理解していないアーサーであった。




 セレンはそのまま先ほどの部屋に戻された。逃亡防止のために窓はない質素な狭い部屋だが、ベッドなどの家具は一通りある。エリーゼとの人質交換まで、ここで軟禁される。

 しかしセレンは、そんな不自由さよりもアゼルの事が気になる。それに先ほどのレミアルとアーサーの純愛を見て触発されたのか、胸が落ち着かない。


(なんで、こんなにドキドキするの……カイン様の時とは違う、この感じは……何?)


 本当の愛を知らないセレンは、エリーゼのようにアゼルに愛されたいと思ってしまう。それは対抗心ではなく嫉妬だとは気付いていない。


(アゼル様は今、どちらにいるのかしら……会いに行けるかしら)


 軟禁の身で部屋の外に出られないのにセレンはドアの前に立つ。レバーハンドルを握ろうとするとドアが開いて、外からドアを開けた人物と真正面から目が合う。意外にも鍵はかかっていなかったらしい。

 そこに立っていたのはメイド服を着た女性。ブラウンのショートボブに同色の優しい瞳。そのメイドが誰かを頭で認識した瞬間にセレンは叫ぶ。


「レミアル!?」


 レミアルは照れ臭そうに上目遣いで微笑みながら一礼をする。


「はい。今日からメイドとして働く事になりました。レミアルです」


 確かにレミアル将軍はウィリアム国ではメイド長でもあったが、着ていたのは白い甲冑か黒いスーツばかり。黒いワンピースに白いエプロンという、女性らしいメイド服姿を見るのは初めてだった。

 セレンの口から思わず感嘆の声が漏れ出る。


「レミアル……あなた……可愛い……」


 スリムでありながら憧れるほどに実ったバスト、程よく鍛えられた細く長い足。生まれ持ったスタイルの良さと柔らかく優しい顔立ちは、セレンすら見惚れてしまうくらいに魅力的だった。

 これなら確実に堅物のアーサーでも落とせる……セレンが期待を込めて、そう強く思ってしまうほどに。

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