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第16話 因縁の魔王と聖女の再会

 条約の調印の当日、ウィリアム国の王城から2台の馬車が国境に向けて出発した。

 先頭の馬車にはカイン、そして後方の馬車には人質のエリーゼが別々に乗っている。さらにその後方にはレミアルを始めとする騎兵隊が続く。

 しかし馬車の中のエリーゼは居心地が悪い。それは隣に座っている人物のせいだ。


「……なんでセレンも一緒に行くのよ?」

「当然でしょ、カイン様の婚約者ですもの。人質のお姉様が逃げないように見張っててあげるわ」


 強気な態度で意地悪そうに笑うが、カインにとってセレンは単なる戦力なので本当は笑えない。いざ戦闘となったらセレンの聖女の能力を使うつもりだろう。

 やがて馬車が停車する。おそらく国境のすぐ外側に着いたのだろうが、エリーゼは人質のためすぐに降ろしてはもらえない。

 先頭の馬車からカインが降りて、その後方では白馬から降りた将軍・レミアルが控える。出兵時のレミアルは全身甲冑なので顔は見えない。

 カインは前方に停車しているデヴィール国の馬車を見据えて不敵に笑う。


「アゼル様……来たね」


 馬車から降りてきたのは、黒衣のマントを風に靡かせる長身の男。まさに威風堂々、現代に蘇った魔王・アゼルである。

 そしてその後方には黒馬から降りた軍隊長・アーサーが控える。

 アゼルはカインの立つ位置から2メートルほど前で歩みを止める。そして腕を組んで武器を向ける意思はないとアピールする。だがその赤い瞳は敵意むき出しだ。


「まずはエリーゼに会わせてもらうぞ。話はそれからだ」


 アゼルの威圧を乗せた声が重く低く放たれる。まずは人質のエリーゼの無事を確認するのが道理というもの。それはカインも分かっている。


「レミアル将軍、エリーゼ様を連れてきて」

「承知しました」


 レミアルは後方の馬車へと乗り込むとエリーゼを連れてカインの元へと戻る。その後ろにはセレンが立って成り行きを見守っている。

 エリーゼは数メートル先のアゼルの姿を目にした途端に心臓が激しく振動するほどの衝動が起こる。


(アゼル……アゼル……あぁ……アゼルって、あんなにカッコよかったかしら!?)


 しばらく会えなかった期間が、溺愛という名の呪いを強めたらしい。恥もプライドもツンデレも忘れたエリーゼは今すぐにアゼルに抱かれたい衝動が止まらない。

 そんなエリーゼの熱い視線を受けたアゼルも同じ思いだった。二人は同じ呪いを半々に共有しているのだから。

 しかし今は作戦の最中。アゼルは平然を装って感情を殺している。


「……よし。では調印書をよこせ」


 降伏の条約を結ぶ調印書にサインをすればエリーゼは返される。カインが調印書をアゼルに手渡そうとして一歩進んだ、その時。

 カインの後ろにいたレミアルが、隣に立つエリーゼの背中と肘の裏に腕を回して抱き上げた。つまり『お姫様抱っこ』である。


「なっ……レミアル!?」


 カインが気付いて振り向いた時には、もう遅い。レミアルはエリーゼを抱きかかえたまま、アゼルに向かって真っ直ぐに走り出していく。アゼルは全く動じない。事前に手紙でレミアルは味方だと伝えられていたからだ。

 レミアルは鋼鉄の甲冑を身に纏っていて、さらにエリーゼを抱きかかえていても全身にかかる重量など感じさせないほどに素早い。

 あっという間にアゼルの前までくると、エリーゼの体をアゼルに渡す。今度はアゼルがエリーゼを『お姫様抱っこ』した。


「アゼルッ……!!」


 エリーゼはアゼルの首に両腕を回して強く抱き返す。アゼルは表情を緩めてエリーゼの顔に頬を重ねるが、喜びよりも悲哀を含んだ赤い瞳を細める。


「エリーゼ……また痩せたな。もう貴様はどこへも行くな。永遠にオレの側にいろ」

「誰が……あんたの側なんかに……」

「本当は?」


 いつものアゼルの問いかけにエリーゼが答えるよりも早く、カインの前方で待機していた騎馬隊が剣を構えて一斉に向かってくる気配に気付いた。カインが出撃の命令を下したのだ。


「なるほど、そういう作戦だね。いいですよ、アゼル陛下。力で決着をつけよう。どの道、僕に降伏する事になるけどね!」


 カインの自信は、本物の最強の聖女であるセレンを味方にしているところからも来ている。そして聖力でエリーゼがセレンに勝てないのは事実であった。

 アゼルはエリーゼを下ろして立たせると、迫り来る無数の軍隊を恐れずに一歩前に出る。


「エリーゼさえ取り返せば、こっちのものだ。貴様にオレと最強の聖女の力を見せてやる!!」

「……え?」


 エリーゼはアゼルの堂々とした逞しい背中を見つめながらポカンとして立ち尽くす。


(あ、やば……アゼルは私が最強の聖女だって思い込んでるのよね……)


 今さら説明しても遅いし、アゼルが事実を知ったところで状況は変わらない。アゼルはエリーゼの肩を抱き寄せて自分の腕と胸の中に収める。


「さぁエリーゼ、オレに力を!!」

「う、うん……」


 エリーゼは流れの通りにアゼルの腰の後ろに腕を回して目を閉じる。そして念じる……ふりをした。正直、絶体絶命ではあるが、本当に聖女の力が発動する事を願うしかない。

 しかし、やはり何も起きない。それなのに能力が発動したと勘違いしたアゼルが両手の拳を握りしめて雄叫びをあげる。


「うぉぉぉ!! きたぁぁぁ!! 力が漲るぞ!! これぞ最強の聖女、エリーゼの力だぁぁぁ!!」

「…………」


(なんていうか……アゼルがバカで本当に助かるわ)


 当然ながらエリーゼは単に抱きついただけで能力は発動していない。今回もまたアゼルは愛という名の自己暗示で勝手に強化された気になっている。

 しかし自己暗示も侮れない。アゼルは長剣を構えると一人で騎兵隊に向かって走り出す。一見、無謀ではあるが、単身で鮮やかに兵を切り捨てていく。


(すごい……アゼルって強化しなくても最強なんじゃ……)


 その俊敏な身のこなしと、人とは思えぬジャンプ力。そして剣捌きの破壊力は、まさに遠い昔に存在した魔国の魔王の再来であった。

 それに驚愕したのはエリーゼだけではない。次々と倒されていく自国の兵を目の当たりにするカインは、それ以上の衝撃を受けている。


「まさか、そんな……エリーゼ様は本物の聖女だったのか……!?」


 呆然と立ち尽くすカインの横にセレンが来て、彼の腕に抱きついて寄り添う。


「お姉様に、そんな力が……そんなはずないわ、私が最強の聖女なのよ! カイン様、見せてやりましょう!!」

「え? あぁ、セレン、頼むよ!」


 セレンの聖女の能力『強化』は、カインの戦闘能力を最大限にまで上昇させる。セレンとカインの体が黄金色に光り輝くと、その光はやがてカインの構える銀の長剣に集束していく。

 黄金の剣を握るカインはセレンから離れると、目にも留まらぬスピードで駆け出す。一瞬にして、その刃先は無双状態のアゼルの目の前に迫っていた。

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