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第1話. 高飛車な雌の初出社

「……ふん、悪くないわね」

洗面所の鏡に向かい、松永紫音――昨夜までの松永翔は、不敵な笑みを浮かべた。

確かに身体は女になった。それも、102センチという暴力的ですらあるJカップの乳房を携えた、怪物じみた美貌の女に。

だが、脳細胞まで女になったわけではない。翔が30年かけて築き上げた知識、営業スキル、そして「勝者」としてのプライドは健在だ。

「身体が女になった程度で、私のキャリアが傷つくはずがない。むしろ、この美貌も一つの『リソース』として管理運用してやるわ」

彼女は戸棚の奥から、かつて浮気相手が置いていった予備の服や、急遽コンビニで揃えた化粧品を完璧に使いこなした。

選んだのは、身体のラインが露骨に出るタイトなネイビーのセットアップ。

Jカップの重量に耐えるため、ブラジャーは最も締め付けの強いものを選んだが、それでもなお、動くたびに豊かな肉塊がブルンと震え、ブラウスの隙間から白い谷間が主張を繰り返す。

圧倒的な有能さ

午前9時。商社のオフィスに、カツカツと鋭いハイヒールの音が響いた。

全社員の視線が、入り口に釘付けになる。

「……え、誰?」

「モデル? いや、芸能人か……?」

ざわつくフロアを、紫音は冷徹な視線で一蹴した。

「おはよう。……何を見てるの。仕事に戻りなさい」

その凛とした、それでいて湿り気を帯びた艶のある声に、男性社員たちは背筋を凍らせると同時に、股間に熱いものを感じて硬直した。

紫音は、困惑する部長の元へ歩み寄り、簡潔に告げる。

「部長、松永です。……昨夜、特殊な体質変化(TS)に見舞われましたが、業務に支障はありません。むしろ、今朝の1時間で新規プロジェクトの企画書を3本仕上げておきました。今、共有サーバーにアップしています」

「ま、松永……? 君が、あの翔なのか……?」

絶句する部長を尻目に、紫音は自分のデスクに座った。

そこからの彼女の仕事ぶりは、まさに「神速」だった。

電話応対、メール処理、複雑なマージン計算。男だった頃よりも指先が滑らかに動き、キーボードを叩く音すら心地よいリズムを奏でる。

昼前には、同期が1週間かけるタスクを全て片付けてしまった。

「完璧ね。……誰が相手でも、私の能力には跪くしかないわ」

だが、彼女は気づいていなかった。

仕事に集中すればするほど、彼女の毛穴から、男たちの理性をじわじわと溶かす「濃密なフェロモン」が放たれていることに。

そして、そのJカップの胸がデスクに押し付けられ、無意識に淫らな形にひしゃげていることに。


【狂い始める歯車】

午後、彼女はかつてのエースコンサルタントとして、大口のクライアントである『フェニックス・ホールディングス』の常務との商談に向かった。

男だった頃は、論理的な戦略立案一つで数億円のプロジェクトを即決させてきた相手だ。

「失礼します。リライアンス・コンサルティングの松永です。……本日は、新規事業のコスト構造改革案を持って参りました」

応接室に入った瞬間、空気が変わった。

50代のベテラン常務、大和田の目が、獲物を見つけた獣のようにぎらりと光る。

紫音はいつも通り、高飛車な態度でタブレットを操作し、完璧な分析データを提示した。

「……以上のスキームにより、次四半期で15%のコストカットを実現可能です。すぐに着手すべきかと」

しかし。

大和田の視線は、タブレットの数字など、1ミリも見ていなかった。

「……松永さん。だったかな。君、随分と……いい香りがするね」

大和田の声は、粘つく泥のように濁っている。

彼の視線は、紫音の喉元から、今にもボタンが弾け飛びそうなJカップの双丘、そしてストッキング越しに輝く太ももを、ねっとりと舐め回していた。

「……お言葉ですが、今は数字の話をしています。私の顔ではなく、こちらのデータをご覧いただけますか?」

紫音は不快感を露わにし、鋭い視線で射抜く。男時代なら、これで相手は気圧されていたはずだった。

「ああ、数字か。……まあ、急ぐこともあるまい。こんなに美しい担当者が来たんだ。もっと『じっくり』話し合う必要があると思わないか?」

大和田はわざとらしく、資料をデスクの端に追いやった。

「……検討させてくれ。いや、今日のところは持ち帰ってもらおう。……そうだな、次は夜の会食で聞かせてもらおうか。君がどれだけクライアントのために『尽くして』くれるかによって、この案に乗るかどうか決めよう」

「なっ……!?」

紫音が絶句する。

今までなら、このレベルの提案を出せばその場で握手、即契約だったはずだ。

だが、目の前の男にあるのは、経営判断への関心ではない。

目の前の「極上の女」を、どうやって、どこから貪り尽くすかという、どす黒い情欲だけだった。

「……会食の必要はありません。この資料だけで判断いただけるはずです」

「ははは! 随分とプライドが高いねえ。だがね、松永さん。コンサルティングってのは信頼関係だ。君のような『逸材』を前にして、ビジネスの話だけで帰すわけにはいかないよ」

帰り際、エレベーターまで送られる際、大和田の手がわざとらしく紫音の腰を撫で上げた。

「ひっ……!」

その瞬間、紫音の身体に電流が走った。

女体化したことで敏感になった脊髄が、男の厚い掌の熱に反応し、あろうことか「雌」としての愛液を、下着へとじわりと滲ませてしまったのだ。

「……くっ、失礼します!」

逃げるようにビルを出た紫音の足取りは、いつもの自信に満ちたものではなかった。

仕事の質は完璧。提案の内容も非の打ち所がない。

しかし、契約には至らない。

初めての屈辱。それ以上に、男の視線を浴びるだけで、自分の身体が熱く疼いてしまったことへの、言葉にできない恐怖。

「……私は、負けないわ。この身体さえ、仕事の道具として手なずけてみせる」

だが、彼女はまだ知らない。

これが、彼女の「傲慢な女体」が、男たちの欲望によって一流のキャリアごと食い潰されていく序章に過ぎないことを。

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