表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/2

プロローグ:変貌のプレリュード

松永翔は、30歳の誕生日をこれ以上ない形で迎えていた。

大手商社に入社して8年。20名を超える同期の誰よりも早く結果を出し、最速で主任の椅子を勝ち取ったのだ。

身長172センチ、64キロ。無駄のない引き締まった身体と、名門私立大卒というブランド。彼はまさに、人生の勝ち組としての自負を全身から滲ませていた。

「これからは、お前が会社を引っ張っていくんだ」

部長から直々にかけられた言葉を噛み締めながら、翔は昇進後初となる、新規開拓訪問へと向かった。

相手は、最近急成長を遂げているITベンチャー企業。そのトップである社長は、業界でも異端児として知られる男だった。

「おめでとう、松永主任。君の活躍は耳にしているよ」

応接室に現れた社長は、食い入るような、奇妙に粘りつく視線で翔を品定めした。

商談自体はスムーズだった。翔の完璧なプレゼンテーションに、社長は満足げに頷く。

そして、別れ際。社長はおもむろにデスクの引き出しから、見慣れない漆黒の缶を取り出した。

「これは、我が社が秘密裏に開発した最新のエナジードリンクだ。…昇進祝いに、君に差し上げよう。これを飲めば、もっと『上のステージ』へ行ける」

不気味な笑み。だが、翔はそれを単なる激励だと受け取った。

「ありがとうございます。ありがたく頂戴します」

翔はその場ですぐに缶を煽った。

味は、酷く濃厚で甘かった。まるで、媚薬のような……。



【身体の反乱】

自宅マンションに戻ったのは、深夜2時を過ぎていた。

エナジードリンクのせいか、頭は妙に冴えていた。

「さて、明日の会議資料でも……」

パソコンを開こうとした、その時だった。

「あぐっ……!」

突如、心臓を直接掴まれたような、鋭い激痛が走った。

エナジードリンクのカフェインが強すぎたのか?

そう思ったのも束の間、痛みは全身へ、骨の髄へと広がっていく。

ミシミシ、と、身体の奥底から何かが軋む音が聞こえた。

「な、なんだ、これは……!?」

翔は床に這いつくばり、自分の身体を見つめた。

腕の筋肉が、まるで溶け出すように柔らかく、白くなっていく。

骨盤が、悲鳴を上げるような音を立てて、左右に広がっていく。

「あぁああっ! 熱い、身体が……!」

股間には、かつてないほどの灼熱が走っていた。

それは、彼が男として誇ってきた「象徴」が、身体の内側へ、内側へと吸い込まれ、完全に消失していく痛みだった。

その代わりに、胸のあたりが、ありえないほどの重量感を持って膨らみ始めた。

皮膚が引き裂かれるような痛みと共に、シャツのボタンが弾け飛ぶ。

手首、足首、首筋。あらゆる骨が細く、しなやかに作り替えられていく。

「いやだ、俺は、男……だ……!」

だが、意識は薄れていく。

激痛と、その奥底から湧き上がってくる、脳を溶かすような甘い痺れ。

男としての「松永翔」が崩壊し、まったく別の「何か」へとおぞましく再構築されていくのを、彼はなす術もなく感じ続けていた。

やがて、彼は限界を迎え、気を失った。



【誕生、松永紫音】

翌朝、翔が目を覚ましたのは、昼過ぎのことだった。

床の上で、全裸のまま倒れていた。

「……んん……」

口から漏れたのは、自分のものではない、甘く、鈴を転がすような、艶めかしい声だった。

身体が重い。特に、胸と尻が。

彼は、震える手で自分の身体に触れた。

「え……?」

そこには、今まであったはずのものが、何もなかった。

代わりに、滑らかで、驚くほど柔らかい膨らみが、彼の手に触れた。

胸だ。男の肉厚な大胸筋ではない。豊潤で、手のひらから溢れんばかりの、巨大な乳房がそこにあった。

「嘘だろ……」

彼は這うようにして、洗面所の鏡に向かった。

「……ッ!」

鏡に映っていたのは、松永翔ではなかった。

そこには、見惚れるほどに美しい、一人の「女」が立っていた。

身長こそ172センチと、翔と同じだが、そのシルエットは完全に別物だ。

体重は54キロ。男時代から10キロも減っているが、それはすべて無駄な筋肉が落ち、その代わりに「至高の曲線」が描かれたからだった。

何よりも、そのスペックは、常軌を逸していた。

スリーサイズは、上から102、63、96。

爆発的な大きさのJカップの乳房と、それに反比例するような細い腰。そして、男を狂わせるほどに肉感的な尻。

鏡の中の女と、目が合った。


赤褐色がかった、艶のある長い髪。

そして、男を引き込むような、潤んだ瞳。

その瞳には、かつての翔の面影など、微塵も残っていない。

そして、翔は気づいてしまった。

自分自身が、鏡の中のこの女に、理性を掻き乱されていることに。

彼女の身体からは、何もしなくても、濃厚で、男を理性の限界まで誘う「フェロモン」が溢れ出していた。

自分自身の身体が、その匂いに、そして自分の手に触れる女の柔らかさに、疼き始めていた。

「俺が……女……?」

男としての翔の理性は、この完璧すぎる「雌の身体」の持つ魔力によって、一瞬にして崩壊の危機に瀕していた。

彼女の名前は、松永紫音しおん、30歳。

エリート営業マンだった男は、この瞬間、世界中の男を虜にする、至高の雌へと変貌したのだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ