4-1「襲撃の予兆①」
カルマはヘリオサマナ本部の前へと帰還する。
長期任務を終え、ようやくルードミリシオンへ戻ってきたところだった。
「なんか、久しぶりに帰ってきた気がするな……」
「カルマ、ご苦労だった。本部への報告はこちらでしておくから、ゆっくり休んでくれ。」
「うん。ありがとう。」
同じ任務に出ていた上級剣士のサムはそう声をかけると、本部の中へと入っていく。
カルマは現在十五歳。レルフ共和国での任務を終えてから、すでに一年半の月日が流れていた。
ハウロスとカミルとは、一度だけ本部で偶然顔を合わせたきりで、その後は一度も会えていない。
「あいつら、今頃何してるかなぁ……」
この一年半、カルマはヘリオサマナでも上位の戦士たちと共に、数々の依頼をこなしてきた。
ハウロスとカミルもまた、それぞれが力をつけるため、別々の任務に就いているはずだ。
「一〜二年はこの生活が続くって言ってたけど、これからどうするんだろ。」
そんな独り言を漏らしながら、カルマは自室へ向かう。
すると、自室の前ではリアが壁に寄りかかりながら、ぼんやりと天井を見上げていた。
「リア? 何してるの?」
「あっ、カルマ。戻ってきたのね。」
「うん。何かあった?」
「アリディア様からの伝言よ。明朝十時、団長室へ集合とのこと。」
「了解。ありがとう、リア。」
リアは伝言を伝え終えた後も、じっとカルマを見つめている。
「なんだか久しぶりね。」
「任務でバルディッシュ王国まで行ってたからね。」
「バルディッシュって、確か南の?」
「うん。半年近くかかったよ……」
「そっか。それでお疲れなのね。」
「そっちは?」
「私たちヤクモ隊は、そんなに遠方へ出ることはあんまりないから。」
「でもヤクモ隊も上級戦士隊じゃん。遠方の任務もあるでしょ?」
「一応、アリディア様の直下隊だからね。基本的にはないのよ。」
「そうなんだ。」
「そういえば、あなたのお仲間達もそろそろ任務から戻ってくるみたいね。」
「ハウロスとカミルが? 遠方に出てるんでしょ?」
「うん。そうみたい。詳しくは知らないんだけど。」
「そうか……ハウロスとカミルが……」
「あっ、ごめん。私そろそろ行かなきゃ。」
「あ、うん。伝言ありがとう。」
「久しぶりに話せてよかった。じゃあね。」
リアは小走りで去っていく。
(ハウロスとカミルのこと、明日アリディアさんに聞いてみよ……)
カルマはそう思いながら、自室へと入っていった。
⸻
翌朝。
カルマは眠い目をこすりながら、団長室へ向かう。
「失礼します。カルマです。」
「うむ。入れ。」
アリディアの声を聞き、カルマは入室する。
するとそこには、約一年ぶりとなる仲間達――ハウロスとカミルの姿があった。
「あ! ハウロス! カミル!」
「ボス!」
「やぁ。久しぶりだな。」
お互いの顔を見た瞬間、三人の表情に自然と笑みが浮かぶ。
久しぶりの再会のはずなのに、不思議と懐かしさは感じなかった。代わりに、強烈な安心感が胸の中へ戻ってくる。
「ボス、少し背が伸びましたね。」
「そう? ハウロスもなんかデカくなった?」
「背は伸びてませんが、筋力はつきましたね。」
「カミルもずいぶん戦士らしい格好になったね。」
「まぁね。君も少し雰囲気が変わったな。」
「無茶な任務ばっかり着いて行ってたからね。」
「カルマ、ヘリオサマナの任務が無茶とは言ってくれるのぉ。」
三人の会話にアリディアが割って入る。
「あっ、いや、いい意味で..」
「久しぶりの再会で話したいこともあると思うが、実は問題が起きてな。」
「問題?」
「本来なら今日は、ぬしらカルマリスタの再集結をしてもらうために呼んだんじゃが、先程、戦士協会より緊急の連絡が入った。」
「何かあったの?」
「中央国家バルテミアに、魔人軍襲撃の予兆あり――とのことじゃ。」
「バルテミアに魔人軍の襲撃ですか?」
「魔人軍が動き出したの?」
「ぬしら知らんのか。これまで起きた襲撃で、魔人軍はどこかから攻め込んできた訳ではない。突然、その国の内部に現れたのじゃ。」
「えっ?」
「確かに……カストリアでも奴らは国壁の中に突然現れた。」
「魔獣は緋衣の十魔の一人、“征魔”による召喚魔術で召喚される。じゃが、魔人軍の魔人や幹部達は、緋眼の魔人の転移魔術によって現れたものだと考えられておる。」
「転移魔術……」
「それで、どうしてバルテミアが?」
「転移魔術には『基陣』が必要になる。」
「基陣?」
「転移先の基点となる魔法陣のことじゃ。言うなれば転移門の出口じゃな。」
「転移魔術を使うには、その魔法陣が必要ってこと?」
「そうじゃ。そしてそれが、バルテミア国内で発見された。残留魔力を追って、基陣を張った魔人を追跡したそうじゃが、逃げられてしまったらしい。」
「それじゃあ、襲撃は阻止できたんじゃ……」
「いや。緋眼の魔人は、何か目的があってバルテミアを狙ったはずじゃ。そう簡単に諦めまい。
それに今回はたまたま発見できただけ。広いバルテミア国内で、再び基陣を張ることなど容易いじゃろう。」
「じゃあ……」
「近々、バルテミアに魔人軍の侵攻が起こるかもしれない……?」
「そういうことじゃ。しかも今回の基陣、どうやら相当量の魔力を転移できる術式だったそうじゃ。緋衣の十魔が複数現れる可能性もある。」
「それってやばいんじゃ……」
「ああ。相当まずい状況じゃな。緋衣の十魔は、界級戦士と同等とされておる。」
「界級っていうと、天級より上……」
「今、戦士に界級の戦士はいない……」
「そうじゃ。天級戦士単体では緋衣の十魔には勝てん。
わしはこれから、本部にいる戦士達で討伐隊を編成するための会議へ向かう。ぬしらはどうする?」
「もちろん――」
「行きます!」
「当然。」
「うむ。では、ついてまいれ。」




