86.ミルズ王国の救世主
「お前がやってきたことは全て、白日の元へ晒される。お前は終わりだ。おとなしく投降しろ。」
グラリスの言葉と共に兵士たちがドルドスとボルドーへ向けて剣を構える。
「くそぅ……くそが!」
そこへ兵士達を倒したガーディスがやってくると、グラリスの前に膝をつく。
「グラリス様、これまでの数々の非礼、償えるものではありませんが…」
「おお、ガーディスか。久しいな。
よい。偽りだったとはいえ、貴殿は我が父の言葉に従っただけだ。悪いのは全てこの愚弟よ。」
ガーディスは立ち上がるとドルドスを睨みつける。
「グラリス様がどのような処分を下すかはわからないが、貴様がゴードン様を死に追いやったのであれば、私は貴様を許さない。貴様を追い詰め、私がその首を落としてやる。覚悟しておけ。」
ガーディスの顔には怒りの表情が満ち溢れている。
「ひぃぃぃ……!」
それからのことは言うまでもなく、ドルドスは投降し、ドルドス派閥の兵や高官達は捕縛された。
一時王位は空位となるが、即座にグラリスが王位に就いた。元々第一王子であり、その資質も認められていたのだ、誰一人として文句を言う者はいなかった。
カルマはあの戦闘の後、すぐに王宮へと戻り、仲間達の手当てを要請したり、バラン達に事情を説明したりと走り回っていたが、全てを手配したところで力尽き倒れ込み運ばれた。
カルマもガーディスとの戦闘で満身創痍だったのだ。
カルマやハウロス、カミル、そしてエクスプロドの3人、ミルズ三傑は治療を受け、しばらくは入院することとなった。
特に重症だったのはカミル、クレディア、ラミだった。
だが、ミルズ王国の手配による回復魔術での治療もあり、10日ほどで全員回復した。
数日後、カルマリスタの3人は新しく即位した王 グラリスに王宮へと呼び出された。
「よく来てくれた。カルマ殿、ハウロス殿、カミル殿」
「いえ。グラリス様も忙しそうで。」
「様はよせ、君たちはこの国の恩人なのだ。」
「……ではグラリスさん、バランとレミノアの件はどうなりました?」
「もちろん。レミノア殿は解放し、バラン君の元へ行ったよ。今後、彼ら親子に何らの被害が及ぶことがないと、私が保証しよう。」
「王様が保証してくれるなら安心だ。」
「カルマ殿、ハウロス殿、カミル殿、今回の件は本当に感謝している。君たちがいなければ、私は今ここにいないばかりか、この国がどうなっていたか…
本当にありがとう」
グラリスが頭を下げると、周りにいる兵達も一斉にカルマ達に向かって頭を下げる。
「ちょ、やめてください。俺たちも勝手に首を突っ込んだだけですから。」
「これは我が国からのお礼だ。国を救ってくれた功績を考えれば少ないくらいだが受け取って欲しい。」
「うわ!?」
兵が持ってきた箱を開けると、金貨や銅貨などの貨幣や、高価そうな物品や財宝の数々が入っていた。
「すっごいな……」
「相当だぞ。これ……」
「グラリスさん。気持ちは嬉しいけどこれは受け取れません。」
「なぜだ?」
「俺たちは非公式の戦士団〈カルマリスタ〉
非公式の戦士団は報酬を受け取れないんです。」
「気にするな。私は君たちに任務を依頼した覚えはない。ただの個人的な礼だ。」
「……。」
カルマが断りきれず、どうしようかと悩んでいると、ハウロスが一歩前に出てくる。
「グラリスさん、やはり俺たちは受け取れません。
代わりにお願いしたいことがあります。」
「なんだ?」
「今回の件のことで、カルマリスタと団長カルマの名を広めてもらえませんか?」
「え!ちょ……ハウロス…」
「ボス、名を広める良い機会です。ぜひお願いしましょう。」
「名なんて別に…」
「いや、カルマ、ハウロスの提案も一理ある。名のある戦士団ほど任務も増えるではないか?それに、ヘリオサマナ(アリディアのいる戦士団)に行くのに土産話の一つもないのもなんだろう?」
「それは確かに……」
「ちなみにグラリスさん、そんなことできますか?」
「そんなことでいいのであれば、任せてくれ。
そもそも、君達に助けられたのは事実なんだ。ありのままを大々的に公開すれば良い。」
それから、カルマリスタとカルマの名は"ミルズ王国を救った救世主"として広まっていく……




