3-2「模擬戦闘試験③」
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「では、次じゃ。ハウロスとマーズ、中へ!」
アリディアが次の試合を告げる。
「では、行ってきます。ボス。」
「うん、がんばれ!」
ハウロスは闘技場の中央へ歩いていく。
視線の先には、マーズという眼鏡の男が立っていた。
線は細く、戦士らしい威圧感も闘争心も感じられない。
少なくとも見た目だけなら、脅威には見えなかった。
(……油断は禁物か。)
ハウロスは魔鋼を剣へ変化させ、構える。
その技を見た戦士達がざわつく。
魔鋼は戦士にとって珍しくない。だが、ハウロスのように瞬時に自在な形状へ変化させる者は稀だった。
ハウロスはじりじりと距離を詰める。
しかしマーズは動かない。
警戒を強めたハウロスは、さらに魔鋼を取り出し、弾丸へ変化させた。
「魔鋼弾」
二つの弾丸が一直線にマーズへ飛ぶ。
マーズはその場にしゃがみ込み、地面へ手をつけた。
瞬間、足元の地面に光の紋様が浮かび上がる。
「範囲結界……」
光の紋様から円柱状の結界が立ち上がり、マーズを包み込む。
「あれは……結界魔術……」
魔鋼弾が結界へ直撃する。
次の瞬間――
弾丸は弾き返され、逆にハウロスの頬を掠めた。
「っ!?」
「あれは……反射の結界?」
「ああ。物理反射の結界だな。」
クレインが頷く。
「マーズは魔術士の中でも珍しいとされる結界魔術士だ。」
「結界魔術……」
……
(遠距離はダメか……)
ハウロスは魔鋼の剣を握り直し、一気に距離を詰める。
「焦ったな……」
その瞬間だった。
気づけば、ハウロスは巨大なドーム状の結界の中に閉じ込められていた。
「広域結界 魔力障壁」
ハウロスは魔鋼を変形させようとする。
だが、魔鋼は不安定に形を崩すばかりで、うまく形成できない。
「魔力が上手く扱えない……」
「僕の結界内にいる限り、君の魔力コントロールは乱れますよ。」
「ちっ!」
ハウロスは結界の外へ出ようと走り出す。
だが結界はハウロスの移動に呼応するように広がり、ハウロスは出口へ辿り着くことができない。
「この広域結界は、まだまだ広げられます。逃げ場はありません。」
その時。
足に何かが巻きついた。
「!?」
マーズの持つ武器――杖状の柄から、鎖付きの重りが伸びていた。
連節棍棒のような武器だ。
マーズがそれを引く。
ハウロスの身体が宙へ浮き、そのまま地面へ叩きつけられた。
「がっ……!」
「この結界内にいる限り、君に勝機はありませんよ!」
ハウロスは再び立ち上がり、走る。
「何度やっても同じです。」
マーズは結界をさらに広げながら、フレイルで攻撃を続ける。
ハウロスは避け続けながら走り回る。
そしてふと、小さく呟いた。
「やっぱり、ボスはすごいな……」
ハウロスは立ち止まる。
その手には、再び安定した形へ戻った魔鋼剣。
「な、なぜ!?」
今度はハウロスがマーズへ向かって走り出す。
「前に、うちのボスに聞いたんだ。結界魔術のことを。」
*****
〈ハウロスの回想〉
ミルズ王国にいた頃。
ハウロスは真剣に本を読むカルマへ声をかけた。
「今度は何の本を読んでるんですか?」
「んー、結界魔術。」
「習得するんですか?」
「いや。結界魔術は複雑だから、そう簡単には覚えられないよ。」
「では、なぜ?」
「相手が使ってきた時の対策。」
「なるほど……で、対策は?」
「結界魔術には三種類あるんだ。」
カルマは指を立てる。
「部分結界、範囲結界、広域結界。違いは範囲。」
「つまり広域結界が一番強い?」
「いや、そうとも限らない。」
カルマは本を閉じる。
「範囲が広いほど必要魔力が増える。つまり、広げれば広げるほど効力は薄くなる。」
「なるほど。」
「だから結界に閉じ込められたら、とにかく広げさせるのが大事。」
「でも結局、攻撃するには術者に近づかなきゃいけないですよね?」
「そう。でも結界魔術には特徴がある。」
「特徴?」
「広げられるけど、狭められない。」
「……あ。」
「魔力って、一度放出したものを圧縮し直すのは難しいんだ。」
「そ、そういうこと。」
*****
〈回想終了〉
「お前は結界を広げすぎた!」
ハウロスが一気に間合いを詰める。
「ふっ、結界魔術を舐めすぎですよ!」
マーズは広域結界を解除し、自分の周囲へ新たな結界を張る。
「あれはさっきの反射結界……?」
ハウロスの脳裏に、再びカルマの言葉がよぎる。
******
〈再び回想〉
「でも、そう聞くと結界魔術って、そこまで複雑には聞こえませんけど。」
「問題は結界そのものじゃないよ。」
「と、いうと?」
「結界に何の効果を付与するか。」
「効果?」
「例えば、“全ての攻撃を防ぐ結界”を張ったとする。」
「最強じゃないですか。」
「いや、広すぎる効果は弱くなる。すぐ破られるんだ。」
「なるほど……」
「逆に、“炎魔術だけを防ぐ結界”なら、炎には滅茶苦茶強い。」
「効果範囲が狭いから……」
「その通り。」
〈回想終了〉
******
ハウロスは結界目前で剣を下ろした。
「……?」
「炎の玉」
ハウロスの手から火球が放たれる。
「なに!?」
マーズの目が見開かれる。
「俺だって、初級魔術くらい使えるんだよ!」
「いや、でもまたはじかれるぞ――」
「いや。」
クレインの言葉を、カルマが遮る。
「今度は通る。」
火球は反射されることなく結界を通過し、マーズへ直撃した。
「がっ……!」
マーズが吹き飛ぶ。
術者が結界の外へ出たことで、結界は消滅した。
ハウロスは一気に飛び込み、魔鋼の剣をマーズの首元へ突きつける。
「俺の魔術じゃ大した威力はないけどな。後退させるくらいはできる。」
「そこまで!!」
ジーダが終了を告げる。
ハウロスは剣を戻し、マーズへ手を差し伸べた。
「よく、あの結界が“物理反射”だと見抜きましたね。」
「魔鋼反射か物理反射かはわからなかった。でも、魔術なら通ると思った。」
ハウロスは肩をすくめる。
「攻撃パターンが割れてる相手に、わざわざ結界を弱くするとは思えなかったから。」
「なるほど……」
マーズは立ち上がり、苦笑した。
「結界魔術士の思考を読まれました。完敗です。」
二人は固く握手を交わす。
「エイミーに続いてマーズまで……」
「こいつら本物か?」
「いや、でも次は天級のラディールだ……」
戦士達が固唾を呑む。
カルマリスタの実力は、もはや誰にも無視できないものになっていた。




