37.旅立ち
数日後カルマは荷物を肩に担ぎ、剣を携える。
旅立ちの日だ。カルマの家には両親の他にイリーナも来ていた。
「あ……すみません。」
扉をノックする音と共にか細い声を出しながらノーリエがやってくる。
「あなたは…」
「ノーリエさん!外に出るなんて珍しい。」
「君には世話になったからね。」
バトロフは初め驚いた表情を見せたが、ノーリエを快く招き入れた。ノーリエは照れくさそうにお礼を言ってカルマの家に入ると端の方へと下がっていく。
カルマはそれをみてくすりと笑う。
バトロフはカルマの前に立ち、話を始める。
「カルマ、今日はお前の旅立ちの日だ。
お前はまだ12歳だが、その才能は天級の戦士達のお墨付きだ。カルマならきっと立派な戦士になるだろう。
だが、何か困ったことがあればいつでも帰ってこい。
ここにいる皆はいつでもカルマの力になる。」
その場にいる人たちは大きく頷く。
バトロフはカルマに器に並々注がれた赤い液体をカルマに渡す。
「これは……?」
「この国の伝統でな。戦士として旅立つ者はギラムの実のジュースを飲むんだ。」
「ギラムの実って町外れにたまに生えてるやつ?」
「そうだ。ギラムの実は"腐らない果実"とされ、その実をもいで10年経とうが水々しさを保つ果実だ。
それを飲むことで何事にも耐えられる強靭な意思を得られると言われている。」
「そうなんだ…」
カルマはその赤い果汁を見つめた後、口につけ、一気に飲み干す。
「がっ!?!?」
カルマは喉を抑え地面を転がる。
喉が燃える様に熱いのだ。
「カルマ!」
イリーナが心配して駆け寄る。
「はっはっは、言わなかったがギラムの実は激辛だ。」
「うう…辛い」
「だが腐らないうえに栄養満点、旅先で困ったら食べるといい。」
バトロフはカルマのバックに一つギラムの実を詰める。
「カルマ、父さんからは多くは語らん。立派になってまた帰ってこい。」
「うん、父さん、ありがとう。」
ティリエも涙を堪えながらカルマに近づく。
「あなたがどんなに優秀な戦士になっても。あなたはあなたよ。いつでも帰ってきなさい。」
「うん。母さん。行ってくるね。イリーナもありがとう。」
扉へ向かうカルマの肩にノーリエは優しく手を置くと、言葉を交わすことなくただ微笑んだ。
イリーナはずっと下を向いていた。
カルマが扉を開けるとその空がいつもより広く感じた。
カルマは今自分の人生の一歩を踏み出したのだ。
「カルマ!!」
イリーナがカルマの後を追って外に出てきてカルマを呼び止める。
「今の私にはまだ、あなたについていける程の力はない。だけど必ずあなたの力になれる様になるから。
そしたら私もあなたについていく……から!」
カルマはふっと笑うとイリーナの方へ振り返る。
「イリーナと旅ができるのを楽しみにしてるよ。」
そしてそのまま振り返り歩いて行った。
イリーナはその場に膝をつき涙を流した。




