36.母の想い
カルマはその言葉に驚く、
なぜならカルマは父と母の前で、国を出たいと言ったこともなければ、そんなそぶりを見せたこともなかったからだ。
「母さん……なんで?」
「私はあなたのお母さんよ?あなたの考えていることなんてあなたの顔を見ればすぐにわかるわ。」
カルマは知っていた。母親とはいつも子供のことを第一に考えている。
思い返してみると、ティリエはカルマが行うことに一度も否定的な事を言ったことはなかった。
町の変わり者と言われているノーリエの家に入り浸っていた時も、街中で眼帯を外してしまった時も、いつもカルマを尊重してくれていた。
でも、だからこそ、今回は行けない。行ってはならないのだ。
「母さん…でも…」
「カルマ..あなた、お父さんやお母さんの為にって思ってるでしょ?」
「!?
....うん」
「あのね、考えてくれていることは嬉しいけれど、それはお母さんの為にはなっていないのよ。」
「えっ?」
「ねぇカルマ、私の幸せって何かわかる?」
「……わかんない。」
「あなたが成長して幸せになること。」
ティリエはカルマを抱き寄せる。
「だからあなたが自分の道を決めて進むことを私もお父さんも止めたりはしないよ。」
「母さん…」
ティリエはカルマの両肩に手を置いて目を合わせる。
「カルマ・ミラ・フィーラン、
あなたは戦士ダグラスの弟で、私達の最愛の息子、
それだけは離れていても変わらない。
寂しくなるけど、あなたが健やかでいてくれるなら私はそれでいい。」
カルマは少し思い違いをしていたのかもしれないと思った。
前世の自分は母に対して冷たくあたってしまったけれど、もしかしたらそれすらも理解し尊重されていたのかもしれない。だからこそそんな自分に母は穏やかに笑ったのだ。
後悔の気持ちは変わらないけれど、少し心が洗われた気がした。
「母さん..ありがとう。」
ティリエは目に涙を浮かべながらカルマを強く抱きしめた。
カルマはこの国を出て戦士として旅立つことを決めた。




