魔術士ノーリエの家
《魔創暦826年 カルマ誕生から6年》
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今日も街は平和だ。
この国カストリアは平和の国と呼ばれる。——魔獣も少なく、戦火とも無縁の場所。
人々の笑い声、商人の呼び声。
カルマはその通りを、慣れた足取りで進んでいく。
「おう、坊主! 魚持ってくか?」
顔馴染みの魚屋が笑う。
「今日はこれから出かけるから、また今度ね!」
「気をつけろよー!」
カルマは手を振り、商店街を抜けて路地へ入った。
向かった先は、街外れの古い家屋の地下。魔術士ノーリエの家だ。
「ノーリエさん、こんにちは!」
「やあカルマ。今日も勉強熱心だね」
細身で長髪、丸眼鏡の男は穏やかに微笑んだ。
街では変わり者扱いされているが、カルマには優しい。
「今日はどんな話が聞きたい?」
「外の国の戦士団の話!」
ノーリエは少し考えてから口を開く。
「僕がいたコロラド連邦にはね、大きな戦士団が二つあった。その戦士団はヘリオサマナとガルム・プラウド」
「どれくらい強いの?」
「……君の想像の十倍かな」
「えっ!?」
「ヘリオサマナは五百人、ガルムは千人以上の戦士が在籍している。」
カルマの目が輝いた。
「すごい……!」
「界級の戦士団だからね」
「界級って一番上だよね?」
「今の時代では、ね。個人の戦士の頂点は界級の下の“天級”だよ。」
「兄さんと同じだ!」
カルマは嬉しそうに言う。
ノーリエはふっと笑った。
「ああ、君はあのダグラスの弟だったね。」
世界でも名の知れた天級剣士ダグラス。
今は遠い戦地にいる。
カルマの胸に、誇らしさと少しの寂しさが混じる。
「僕も、兄さんみたいになるんだ」
「……それは大変だぞ?」
「いいもん! 強くなって、みんな守る戦士になるんだ!傷ついても倒れても立ち上がってみんなを守る。そんな戦士に...」
無邪気な笑顔で放たれた言葉。
ノーリエは一瞬だけ、笑みを消した。
——その考え方は、優しい。
だが同時に、どこか危うい。
しかしそれを口に出すことはせず、静かに微笑み直した。
「そうだノーリエさん、また魔導書借りていい?」
「ああ、好きなのを持っていくといい」
カルマは本棚から本を抱え、目を輝かせた。
まだ訓練は受けられない。だから今は、知識だけでも。兄に追いつくために。
——そして、まだ知らない運命へと、少しずつ近づくために。
〈頭の中の整理用 メモ〉
戦士団= 複数人の戦士が集まり任務を受ける組織
ガルム・プラウド= 最もランクの高い戦士団の一つ
ヘリオサマナ= 最もランクの高い戦士団の一つ




