19.師匠と弟子
〈フィルスの回想〉
フィルスがまだ8歳の頃のことだ。
平原で木の剣を使って戦闘訓練を行なっている。
相手は同じくルドラの弟子で同世代の少年ルドロスだ。
ルドロスは剣を振りながら、もう片方の手で氷魔術を放つ。
少女フィルスはその魔術を避け、素早くルドロスの後ろに回り込み、ルドロスに向けて剣を振り下ろす
「いたぁ!」
「ははは!私の勝ち!」
「くっそー…」
「ルドロスは魔術を使うと隙ができるからな。気をつけた方がいいよ」
「うっさいわ!怪力女!」
「なんだと!このへたれ男!」
ルドロスとフィルスは掴み合いの喧嘩を始める。
「ねぇ先生、またやってるよ」
「はは、まったく…」
そこには賢人ルドラと、もう1人の弟子、少女アリディアが座っている。
ルドラは腰を上げ、2人に近づいていく。
「こらこらやめなさい。」
2人を制しするとルドロスの肩に手を置く。
「フィルスは君のためを思って言ってくれたんだ。ひどいことを言ってはいけないよ。」
「……はい。」
そしてルドラはフィルスの元に来て膝をつく。
「フィルス、君も応戦しないことだ。」
「でも、本当のこと言っただけだもん。ルドロスは魔術を使ったあと隙ができるから…」
フィルスは口を尖らせながら答える。
ルドラはフィルスの頭に手を置く。
「フィルスは相手のことをよく見ているね。
将来、私と同じように君が弟子を取ることになったら、きっと良い師匠になるだろうね。」
「私は死ぬまで戦士だからししょーにはならないよ。」
「はは、そうなのか?だが師匠も良いものだぞ。君達のいろんな表情が見れて…」
「そんなの見てもつまんないよ。」
「そうか。でもきっとわかる時が来るさ」
〈回想終了〉
フィルスはカルマの頭に手を置く。
「まぁ、確かに、悪くはないものだな…」
「ん?なにが?」
「うるさい」
「いてっ!」
それからもフィルスとの戦闘訓練の日々は続いた。
カルマの動きは修行開始前に比べて格段に良くなっていた。もちろん修行の成果もあるが、前世の記憶を思い出したことも大きかった。前世の記憶を思い出してから格段に体の使い方が上手くなったのだ。
前世では剣など使ったことがないし、魔術に関しては存在しない世界だった。
だが、20年近く体を使ってきた記憶・経験がカルマの身体能力を底上げさせていた。




