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5周目の人生で異世界を救った話  作者: MINMI
一章 平和の国カストリア編

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1-7「カストリア襲撃③」


 

 バトロフは思い出す。


 約十四年程前。

 カストリア周囲で発生した魔獣の調査のため、国門の外へ出た日のことだ。


 傷だらけで倒れていた小さな子ども。

 それがハウロスだった。


 怪我は深かったが、一命は取り留めた。

 だが少年の記憶は混濁していた。自分の出自も、両親の顔も思い出せない。


 覚えていたのは――


 自分の名前と、

 母と二人で“何か”から逃げていたということだけ。


 衛兵隊は数日かけて周辺を捜索した。だが母親らしき人物は見つからなかった。


 行き場をなくしたその子供は、兵舎に迎えられた。


 バトロフは、兵舎に泊まる日は必ずハウロスの様子を見に行った。

 少年はよく笑った。よく働き、誰よりも礼儀正しかった。


 そして――


 異様な才能を持っていた。


 魔鋼。

 魔力を流し込むことで形状を変える魔力の基礎訓練に使われる鉱物。


 熟練の魔術士でも、ゆっくりと時間をかけて形を変えるのがやっとのそれを――


 ハウロスは、まるで粘土でも弄ぶように自在に操った。


 薄く広げ、

 槍にし、

 盾にし、

 密度を極限まで高め、刃へと変える。


「……どうやっている?」


「作りたい形を、思い浮かべているだけです」


 少年は天才だった。


「すごい才能だ。魔術士会にでも行ってみたらどうだ。良ければ紹介するよ。君ならきっと素晴らしい魔術士になれる。」


 だがハウロスは首を振ってそれを拒否した。


「ここで十分です。ここが……俺の居場所ですから」


 義理堅く、謙虚で、優しい少年。


 そして今――


 成長した彼が、魔人の前に立っている。



「離れろ、ハウロス!」


 バトロフの声を背に、ハウロスは魔鋼をナイフ状に変形させる。


「原理は知らんが、物質を自在に変形させる魔術か」


「俺は魔術士じゃない」


 短く言い放つ。


 次の瞬間、魔鋼は弾丸へと分裂した。


「――魔鋼弾」


 鋭い軌跡を描き、魔人へ殺到する。


 だが、パチン、と。まるで埃を払うように、魔人は素手で弾丸を弾いた。


 硬度を極限まで高めた、殺傷度の高い弾丸を。


(……嘘だろ)


 違和感。何かがおかしい。


 ハウロスに一瞬の動揺が走る。


「その迷いが命取りだ」


 閃光のような剣閃がハウロスへと伸びる。


 ハウロスは盾を展開するが、既に魔人は目の前に迫っている。


 ハウロスの盾が砕かれる音と同時に血飛沫が舞う。


「ハウロス!!」


 バトロフが飛び出す。



「人間は本当に分かりやすい」


 魔人は即座に振り返るとバトロフへ向け剣を振り上げた。


 バトロフが飛び出すのをわかっていたかのように。


 ハウロスの背筋が凍りついた。数秒後に起こり得る最悪を予期したからだ。

 自分のせいで恩人の命に危険が迫っている。


 間に合わない。その凶刃はバトロフへと迫る。


 

――その瞬間。


 炎が、夜を裂いた。


 轟音とともに魔人の体が吹き飛ぶ。


 魔人は家屋を貫き、瓦礫を撒き散らしながら転がった。


「……何だ?」


 立っていたのは、剣に炎を纏わせた少年の姿。


「父さん、大丈夫?」


「カ、カルマ……」


 バトロフの声が震える。


 炎の剣を構え、カルマは父の前に立つ。


 その姿は、無邪気で優しい我が子の姿ではなかった。


 小さな戦士の背中..


 瓦礫が崩れ落ちる。


 砂煙の向こう、魔人がゆっくり立ち上がる。

魔人は不思議そうにカルマを見つめる。


 若い。その小さな体から放たれたものとは思えない威力。


「子供?……お前、何者だ?」


 カルマは答えず、ただ、剣の炎を強く燃え上がらせる。


「父さん、下がってて。こいつは僕に任せて。」


「待て、カルマ!そいつは――」


 言い終わる前に魔人が地を蹴った。


 身の丈に迫るほどの巨大な刃を、魔人は両手で持ち上げている。


(でかい剣……パワーはありそうだけど、あれじゃ速くは振れないはずだ)


 カルマも地を蹴った。


 小さな身体が弾丸のように前へ出る。

間合いに入る寸前、フレイアの炎が噴き上がった。


「はああっ!」


 火花を散らして斬り込む。


 魔人は迎え撃つように大剣を振る。


「――速い…!」


 重いはずの刃が、空気を裂く。

質量を感じさせない、鋭い風切り音。


 カルマは咄嗟に頭を沈め、すれ違うように回避する。


その瞬間――


 耳元を掠めた刃が、遅れて“重さ”を叩きつける。


 ゴウッ、と鈍い圧。

 遅れて押し寄せる質量の気配。


「……?」


 魔人は口角を上げた。


「どうした? その炎の剣の強さ、見せてみろよ」


 カルマは息を吐く。


(大丈夫。動きは見えてる。力勝負なら負けない)


 カルマは再び踏み込み、魔人との距離が縮まる。


 魔人は、先ほどまで両手で握っていた大剣を、今は片手で軽々と持っていた。


「……!?」


 カルマは剣を構える。


 だが――


(重い……!?)


 剣が、振り抜けない。


 まるで刃の先に巨大な錘でもぶら下がったかのように、腕が引きずられる。


 違和感を感じながらも炎の剣を薙ぎ払う。


 その直後、衝撃が腕に走る。


 はじかれたのはカルマの剣だった。


「なっ……!?」


 炎を纏った一撃が、軽い木剣のように跳ね上げられる。



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