赤い瞳の少年
「父さん、ちょっと街に行ってくる!」
朝の光が差し込む家の中に、場違いなほど明るい声が響いた。
玄関へ駆けていく少年を、父バトロフが呼び止める。
「カルマ、どこへ行くんだ?」
「ノーリエさんのとこ!」
「あの魔術士のところか……熱心なのはいいが、無理はするなよ。お前も十歳になれば訓練が始まるんだ」
「うん、わかってる! でも僕、兄さんみたいな凄い戦士になるんだから、早いに越したことないでしょ?」
屈託のない笑顔。
カルマ・ミラ・フィーラン、六歳。活発で、人懐こく、少しだけ負けず嫌いな少年だ。
バトロフはそんな息子の前にしゃがみ込み、優しく、だが真剣な目で言う。
「外へ出るのはいいが、父さんの言いつけは覚えているな?」
「うん!」
「一つ、日が沈む前には帰ること。
二つ、国門の外には出ないこと。
三つ——」
そこでバトロフの手が、カルマの顔へ伸びる。
「左目の眼帯は、絶対に外すな。……何があってもだ」
カルマはこくんと頷いた。
彼の左目には、いつも黒い眼帯が巻かれている。
理由は一つ。その瞳の色だ。
カルマは生まれつき、左目だけが——赤い。
幼いカルマは深く理解していない。
だがその目が、人々に恐れを抱かせるものだということは、父の表情でなんとなく分かっていた。
「じゃあ、行ってくるね!」
「ああ、気をつけるんだぞ」
カルマは元気よく飛び出していった。
扉が閉まり、家の中に静けさが戻る。
バトロフはしばらくその扉を見つめていたが、小さく息を吐いた。
「……そろそろ話すべきか..」
かつて世界を震え上がらせた存在がいる。
“緋眼の魔人”。
赤い瞳を持ち、魔人や魔獣を率いて国々を襲う災厄。三十年前に復活してからというもの、各地で戦いは絶えない。
そして——
その魔人と同じ瞳の色を、カルマは持っている。
だからこそ、隠さなければならない。
守るために——
まだ何も知らない、あの無垢な笑顔を。
外では、平和な朝の街並みが広がっている。
人々の笑い声、商人の呼び声、穏やかな日常。
だがこの世界は、決して安全ではない。
この世界は約800年前に1人の大魔法使いグランが魔法で創世した世界。後に人々は其の方を魔創神グランと呼び崇めた。
そんな素晴らしいこの世界でも危険はある。魔獣が跋扈し、国同士の争いも度々起こる。
それに対抗するため“戦士”と呼ばれる者たちが各地で戦っている。
カルマの憧れる兄も、その一人だ。
世界でも名の知れた戦士——ダグラス。
今は遠い地で任務についている。
その不在が、この家に静かな不安を落としていることを、カルマはまだ知らない。
ただ今日も、胸を躍らせて走っていく。
その笑顔が、いずれ世界の運命を揺るがすことを...まだ、誰も知らない。
〈頭の中の整理用 メモ〉
カルマ= 赤い目の少年(主人公)
ダグラス=カルマの兄?
バトロフ= カルマの父
ティリエ= カルマの母
ノーリエ= 近所に住む魔法使い
緋眼の魔人=500年前から存在する悪の魔人(魔王のような存在)




