1-3「師匠と弟子③」
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それから、修行の日々が始まった。
毎日、フィルスに叩きのめされ。
森を彷徨い、食料を探し。
襲ってくる魔獣を倒す。
眠るのも、食べるのも、生きるのも戦いの延長だった。
それでもカルマは生き延びた。
傷を増やしながら、確実に強くなっていった。
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ある日。
ふと疑問が浮かぶ。
(フィルスは特訓以外の時間、どこにいるんだ?)
森を探すと、開けた場所に小屋があった。
丸太を組み、魔術で補強された頑丈な造り。
その前で、フィルスが腕を組んで立っていた。
「フィルス、それ……」
「私の住処だ」
「中、見せてよ。」
「自分で作れ」
即答だった。
カルマは追い返され、ぽつんと森に残される。
「……まじか」
カルマは空を見上げ、ため息をついた。
だが、それと同時に口元が緩む。
「上等じゃん」
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カルマはラダの森に来てから毎晩、地面に横たわり夜空の星を眺めるのが日課になっていた。
木々の隙間から覗く星は、カストリアの街では決して見られなかった数と輝きを放っている。
こんなにも空は広かったのか、とカルマは思う。
やがて瞼が重くなり、意識はゆっくりと沈んでいった。
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気づけば夢の中。
いつもの“回憶夢”。
見知らぬ家の中。
優しく笑いかける女の人
意識がはっきりしている。
空気の匂いも、床の硬さも、やけに生々しい。
「……なんだか、いつもと違う?」
思わず呟いた声が、夢の中でそのまま響く。
「あれ?声が出る……」
いつもはただの同じ情景を繰り返し体感するだけの夢のはずが、自分の声が出たことにカルマは驚いた。
そのとき——
「俺の記憶だよ」
「!?」
振り返ると、家の中に黒髪の男が立っていた。
「君は誰?」
「俺はお前だ」
「え……?」
顔を上げた男の姿を見て、カルマは息を呑む。
自分と同じ顔。
少しだけ大人びた、黒髪の青年。
そして、左目は——緋色。
「思い出せ。お前は忘れている」
「何を?」
「全てを」
いつもいる女の人は何も気づいていない。
机に向かい、書類のようなものを読んでいる。
この会話は、自分たちにしか聞こえていないのだ。
「何で思い出さなきゃいけないの?」
「お前が運命を変えるために存在するからだ」
「……?」
「お前は、本当にその場所で生まれたのか?」
「僕が生まれたのはカストリアだよ」
青年は、わずかに目を伏せる。
「お前の名前は?」
「カルマ・ミラ・フィーラン」
「お前は、本当にその名前で生きてきたか?」
「え?」
「もっと短く、呼ばれていただろう」
「何を言ってるの?僕はカストリアで生まれたカルマだよ。父さんと母さんは優しくて、兄さんは強い戦士なんだ。」
「それがお前の知る真実か?」
「何が言いたいんだよ」
青年は一歩近づく。
「思い出せ。俺達の為に」
その言葉が胸に刺さる。
「確かに、その記憶は辛い。苦しい。長い。だが必要なんだ」
そして最後に、はっきりと告げた。
「頼んだぞ……カルマ・ミラ・フィーラン」
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「はぁっ!」
カルマは飛び起きる。
夜の森。冷たい空気。星明かり。
「……今のは……」
胸が早鐘のように鳴っている。
夢のはずなのに、やけに現実味があった。
あの黒髪の青年。
あの見たことのない建物。
「……変な夢だ」
そう呟いても、違和感は消えない。
それは“予知”でも“幻”でもない。
もっと、個人的な何か。
だがカルマは、深くは考えなかった。
ただ少しだけ——
胸の奥に、言いようのない懐かしさが残っていた。




