10.狂戦士フィルス
その日の晩、久しぶりに家族4人で晩ご飯を食べた。
父さんも母さんも楽しそうだった。
「そうだ。お父さん、カルマに剣と魔術の師匠をつけたいと思うのですがよろしいでしょうか。」
「まだ少し早くないか?カルマはまだ9歳になったばかりだぞ」
「そんなことはありません。台頭していく強い戦士達は皆、10歳になる前から剣や魔術を学んでいます。
それにカルマは既に初級魔術を扱えますので、変に独学で学ばせるよりいいでしょう。」
「あと戦士協会の訓練校はどうするのだ。あと1年もすれば入学できるというのに。」
「訓練校では基礎は学べますが、実践的な技術は学べません。優秀な師匠を付けるなら入学する必要はないかと」
「剣は兄さんが教えてくれるんじゃないの?」
「ごめんなカルマ、俺はしばらくこの街に滞在するつもりだが、依頼が来ればその都度、仕事に出ることになるから難しいんだ。」
「ダグラスお前の考えはわかったが、誰に頼もうというのだ?」
「はい。それには心当たりが一人……」
それから3週間程が過ぎた…
今日は午後からカルマに剣や魔術を教えてくれる人が来るらしい。
カルマは午前中にイリーナの家へ向かった。
「こんにちはー」
声をかけるとイリーナの母親が顔を出す。
「あ、カルマ君ちょっと待っててね。」
イリーナの母は初めはカルマの事も警戒していた。やはり名前の件で苦労してきたのだろう。何度呼びかけても出てこないので留守かと思うことがよくあった。
だが、最近では笑顔も見せてくれるようになった。
カルマにはなんだかそれが嬉しかった。
少しするとイリーナが家から出てくる。
「おはよう。カルマ、今日はどうしたの?魔術の練習?」
「いや、それなんだけどさ。当分できなくなりそうなんだよね…」
「え!どうして?」
カルマは修行のため時間が取れなくなりそうだと説明する。
「そうなんだ…残念だけど頑張ってね!私もカルマがいなくても特訓してみる。もう少しで回復魔術も使えそうなんだ!」
イリーナも年齢にしては魔術の理解度が深く、優秀だった。特にカルマに攻撃魔法を教わりつつも回復魔術に興味があるようだった。
「師匠になる人ってどんな人なの?」
「そこが問題なんだよねぇ」
カルマはとても心配だった、それはダグラスが提案した人物を父と母は随分と警戒していたからである。
〜回想〜
「はい。それには心当たりが一人……
魔術・剣術共に天級に至ったフィルス・アラモ・ディリアです。」
「…!?……それは狂戦士フィルスか?」
「はい、あの者ならば魔術・剣術共に申し分ありません。」
「技術で言えばそうかもしれんが……大丈夫なのか?
暴れ回れば手をつけられないと聞くが…」
「大丈夫です。そんなのは昔の話ですよ。今はあの者も随分と落ち着きました。」
「……そうか」
バトロフは考え込む様子を見せる。
「わかった。お前がいうならば信じよう。だが、来てくれるのか?」
「ええ、俺は以前に奴と関わりがありますし、今は任務等も受けてないと聞きますので来てくれるはずです。」
〜回想終了〜
「なんか心配だね……」
「そうなんだよ……」
「無理しなくてもいいと思うよ。カルマが無理だと思ったら私がお兄さんにガツンと言ってあげるんだから!」
「はは、その時は任せるよ」
〈頭の中の整理用 メモ〉
一般的には10歳を超えると、戦士協会という場所で戦士になるための授業を受けることができ、15歳以上が戦士として登録することができる。
カストリアには戦士協会がない。




