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占ってもらった

 私が踊り子をやっていたときの酒場は王都の中央街にある。

 その中央街の一角にひっそりと、占いのお店『ミスティック』はあった。


 ところどころ塗装がはげかけている木の扉のノブを掴み、ゆっくりと開ける。

 するとその途端、甘い香りが漏れ出てきた。なんの香りかわからないけどいい香りだ。



「こんにちはー」と言って私はお店の中に入る。


「あ、いらっしゃいませ。こちらへどうぞー」


 奥から女の人の声がした。


 お店の中は照明がついてなくて全体的に真っ暗だった。

 けれど壁と床の赤い絨毯の両脇には、一定の間隔でロウソクが備え付けられていて、そのロウソクの明かりが広がる部分だけはほんのりと照らされている。


「占いのお店ってこんな感じなんだ。参考になるなー」


 匂いや明るさや内装の資材などを忘れないように、メモに素早く書きとめる。


 メモとペンをポケットにしまったあと、絨毯を歩いて奥へ行く。奥には黒いローブを着た長い青髪の女の人がいた。しかも美人。どうやらこのおねえさんが占い師のようだ。


 おねえさんは椅子に座っていて、目の前の紫色の布で覆われたテーブル上には水晶玉やカードなど、占いに使用する道具が置いてある。


「どうぞ、そこの椅子に座ってください」


「あ、はい」


 占い道具が置いてあるテーブルの前の椅子に私は座る。

 テーブルを挟んでおねえさんと対面するかたちとなった。


「占い師のミスティです。よろしくお願いします」


「占い師のアルテアです。こちらこそ今日はよろしくお願いします」


 ミスティさんに続いて私もあいさつをする。


「……え?」


 ミスティさんは一瞬沈黙したあと、不思議そうな顔をして私を見てきた。


「アルテアさんは占い師なんですか?」


 ……あ。

 ミスティさんにつられて、つい私も占い師って名乗っちゃった。


「はい、実は占い師なんです。まあ、最近転職してなったばっかりの新米占い師なんですけどね」


「そうでしたか。いや、占い師って最初に聞こえた気がしたけど、もしかしたら私の聞き間違いかもなあ、と思って聞いちゃいました」


 そう言うとミスティさんははにかんだ表情になった。


 なんとなくだけど、ミスティさんは穏やかでやさしそうな雰囲気があるなあと思う。

 ぶっちゃけお店に来る前、これから占ってもらう占い師の人が冷たい感じの人だったら嫌だなーと思ってた。けど、ミスティさんならなんでも気軽に話せる気がする。

 こういう話しやすい雰囲気とか空気感って、結構大事だよね。


 私は一度ポケットにしまっていたメモとペンを再びポケットから取り出す。


「あの、差し支えなければ、ミスティさんが占うときの流れなんかをメモしてもいいですか? 私が今後占うときの参考にしたいので」


「お手本になれるかどうかはわかりませんけど、いいですよ」


 ミスティさんの承諾を得た。

「ありがとうございます」と言って私はさっそくメモに『話しやすい空気感!』と大きな文字で走り書きをする。


「では占いをはじめますね。今日はなぜここに来たんですか?」


「仕事のことを占ってもらいたくて来ました」


「仕事のこと、というと占い師のことですか?」


「そうです」


「何か悩みがあるんですか?」


 ミスティさんの問いかけに対して、私はひとつひとつ丁寧に答えていく。


「私、さっきも言ったように新米の占い師なんです。それで仕事をどうやって進めていこうかなあとか、この王都で占い師としてやっていけるのかなあ、なんて思ってまして」


「なるほど。転職したはじめのころは、何かとわからないことや不安なことが多いですもんね」


「そうなんですよ。わからないからいつも悪戦苦闘なんです」


「私もはじめのころはそうでしたよ。だから色々と困ったり不安になったり悩んだりしちゃうの、すっごくわかります」


 ミスティさんは自分の経験を混じえながら私に共感してくれて、微笑んでなごやかに話してくれる。

 この会話術、すごく重要かもしれない。


 メモをとりながら、私は次々に受け答えしていく。


「ではアルテアさんの仕事のことを占っていきますね」


「はい」


 私の返事を聞いたミスティさんは水晶玉を横にずらしたあと、カードの束を手に取って私に渡してきた。


「まずカードは常に裏向きにしておきます。ではこのカードの束を混ぜてください。そして束の中から四枚だけ直感で選んで、そのあとそのうちの三枚をアルテアさんから見て左から順に、テーブルの上に並べてください。そして残した一枚は並べた三枚の上のあたりに置いてください。選ばなかったカードはまとめてテーブルの端のほうに置いてくださいね」


「わかりました」


 ミスティさんに言われたとおり私はカードの束を裏向きで混ぜ、そこから三枚のカードを直感で選んでテーブルに並べた。そして残り一枚をすでに並べた三枚の上のあたりに置き、選ばなかったカードは端によせて置いた。


「じゃあ、表にしますね」


 ミスティさんは私から見て一番左側、私が最初に置いたカードをひっくり返して表にした。


「フレイムマンのカードが出ました」


 ミスティさんはぽつりと口にした。


「まず、この左側のカードは、アルテアさんの過去のことになります。フレイムマンのカードには、『情熱』や『執念』といった良い意味と、『怪我』『病気』『災い』などの悪い意味があります」


「良い意味と悪い意味ですか」


「はい。良い意味と悪い意味です。それでこれから考えられることとしては、例えば、アルテアさんはさきほど転職されたとおっしゃってましたが、以前の職業では情熱を燃やして仕事に取り組んでいたけれど、張り切りすぎて怪我をしただとか、病気をしただとか、そういったことが考えられるのですが……。どうでしょうか?」


 ミスティさんの説明を聞いて私は鳥肌がたった。

 恐ろしいくらいに当たっていたからだ。


「あ、当たってます! すごい!」


「ふふっ、よかったです」


 ミスティさんはにっこりと笑う。

 それから他の並べたカードについても、ミスティさんは表にしていき淀みなく説明をしていく。


 私の現在のことを示している真ん中のカードは、ミノタウロウロスだった。

 ミノタウロウロスのカードには、『興味』『好奇心』『迷い』『不安』などの意味があるとのこと。


 まさにいまの私は、興味や好奇心を持って占いに日々取り組んでいる。でも今後の仕事のことについても迷ったり不安になったりしていたため、これも合っていると思った。


 そして私の未来のことを示している右側のカードは、ラビットホビットだった。

 このカードには、『幸福』『開業』『移動』などの意味があるとのこと。


 それから最後、全体的な答えを示しているという四枚目のカードは、ゴールデンエッグだった。

 このカードには、『成功』『お金を稼ぐ』『安定』などの意味があるとのことだった。



「……と、これがアルテアさんの占いの結果です」


「ほええ……」


 私は、ほええ、としか言えなくなっていた。

 まさかこんなに当たるとは思っていなかったから。

 占いってすごいなと改めて実感する。


 いや、ミスティさんがすごいのか。

 占いの実力がありすぎる。


「アルテアさんの未来と全体的な仕事運は良い傾向にあるみたいです。なので、あとは自分を信じて突き進めばきっと上手くいきますよ。頑張ってくださいね」


 ミスティさんはにっこりと綺麗な白い歯を見せて、私を励ましてくれた。

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