占えるけど占えない
ゆっくりと深呼吸をしてリラックス。
そして集中力を高めたあと、夜ごはんを何にするかについて占うために、水晶玉に手をかざして覗く。自然体で、ぼーっと覗く。
しばらくすると、緑色と濃い紫色がぼんやり浮かび上がってきた。
「ふむふむ、今日はパチコリのサラダとパープルシュリンプのパエリアにしよっと」
夜ごはんのメニューが決まったので台所へと向かう。
手を洗い、包丁とまな板を準備して、パチコリを戸棚から取り出した。
日頃の練習の成果もあってか、最近は安定して水晶占いができるようになった。
また、夜ごはんがどんなメニューになるのかドキドキワクワクで、なにより楽しい毎日になった。こんな毎日になったのも占いのおかげだ。占い様々だ。
「パエリア美味しかったりゅ。ありがとうございましたりゅ」
私と一緒に夜ごはんを済ませてお腹を膨らませたリュリュちゃんが、ごろんとソファに寝転んだ。白いお腹を上に向けて、だらーんとしている。眠たそうだ。
リュリュちゃん、完全に気を抜いてるなー。
私は台所でお皿を洗いながら、そんなリュリュちゃんを見て癒される。
「よし、綺麗になったぞ」
お皿をピカピカに洗い終えた私は、ソファに座ってリュリュちゃんをなでなでもふもふ。そしてそのままソファにごろーんと横になる。リュリュちゃんと一緒に添い寝だ。
「そういや腰、よくなったなあ」
腰をさすりながら、しみじみとつぶやく。
最近は腰も痛くなくなった。
外を歩くときに杖も必要なくなった。
やっと腰を気にすることのない普通の日常生活を送れるようになった。
こんな状態まで回復したもんだから、本当に腰に爆弾を抱えているのか疑いたくなる。だけど試しに踊ってみて爆弾が爆発したりなんてしたら笑えないから、踊ることは絶対にしない。
ふと、壁にかけているカレンダーを見る。
日にちを数えると、占い師に転職してから早くも二十日ほどが経過していた。
「そろそろかなあ」と、ぽつり。
そろそろ自分の夜ごはんを占うだけじゃなくて、仕事として誰かを占うことをしてみたい。さらに言えば、自分のお店を開きたい。
だけどそれをするにあたって、色々と問題がある。
まずはお店を開く場所だ。
いま私が住んでいるワンルームの部屋でお店を開くには、ちょっと空間が狭すぎると思う。
お客さんに来てもらうんだから、ちゃんとしたそれなりに大きい占い専用の部屋が欲しい。
で、占い専用の部屋をどこかに借りるとしても、お金がかかる。特に王都は地方都市と比べてべらぼうに高い。
それに部屋を借りるなら借りたぶんだけの収入が最低限必要になるけど、占い師として安定した収入を得られるようになるまでには結構な日数がかかると思う。だからしばらくは収入がなくてもいいくらいの貯蓄が必要だ。
でも残念なことに、踊り子のときに稼いだお金は少ししか残っていない。開店させることはできるかな、ってくらいのお金だけだ。つまり王都でお店を開いて継続していくには厳しい、というのが現実だ。
また、仮にお店を開けたとしても、王都は占い師のライバルが多い。占いについてなにも実務経験のない私は、きっと淘汰されてしまうだろう。
というか、そもそもだけど私は他人の占い方をよく知らない。資料でだいたいの占い方は把握してはいるんだけど、実際にどんな感じで、どんな雰囲気で他人を占っていくのかの流れや感覚がいまいちわからない。
そう考えると、やっぱり最初は師匠の下で勉強しながら、占い師として働かせてもらうのが一番いいのかなあと思う。でも早く開業もしたいしなあ。
うーん、だめだ。
これからのことを考えると悩みは増える一方だ。今後の行き先が不安になってきた。私、占い師としてちゃんとやっていけるんだろうか。
「って、こういうときこそ占いの出番だよね」
私はソファから立ち上がり、テーブルに置いている水晶玉の前にある椅子に座った。それからいつものように落ち着いて集中。手をかざして水晶玉をぼーっと覗く。
「赤と、これは黄緑?」
色が浮かび上がってきた。
赤だから、開業は成功するってことだよね。で、黄緑は……。
そこまで思考を巡らせたあたりで私は気づいた。
このままだと私情を入れて占いの解釈をしてしまうかもしれない、ということに。
そして私の心の中で芽生える。
夜ごはん程度だったら占える。
だけど自分自身の深い内容については、自分では占えないんだ、と。
まあこれも水晶占いという性質がそうさせてるのかもしれないし、ただ単純に私の実力が足りてないからかもしれない。
でもとりあえず、いまの私では私のことは占えない。それだけはわかった。
「これはあれだ。誰かに占ってもらおう」
たしか踊り子やってたときの酒場の近くに占いのお店があったはずだ。明日、そこに行ってみよう。そこで私のことについて占ってもらおう。




