クロヒが探すものその3
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062ー4
『やあ、クロヒ』
『リフ……』
そう、女神の後ろから出てきたのはリフだった。白い鱗に、まだちゃんとした竜の。
『クロヒ、俺になんかようなんだって? 訊こうじゃないか』
『……』
リフ……お前はなぜ、そっちにいるんだ。そいつは、その女神は見るからに、悪いやつじゃないか。なぜ、こんなことをしているんだ。
「あら、失礼しちゃうわ。見た目だけで人を判断するのは良くないんだぜ?」
女なのか、男なのか良く分からない口調の女神。目を細めて、薄笑いする。
『なんだ、心の声が聞こえるのか?』
「当たり前じゃない。じゃなかったら、神なんてやっていけないわ!」
別に、神だからって、心の声が聞こえなくても良いと思うんだがの。
「ちっ、うぜぇ……ケケケッ、300年生きていると、魔力は衰えなくとも、喋り方は衰えるのね」
好きに言っとけ。んなもん、ライルに散々言われて、気にもならんわ。
『クロヒ、お前の質問に答えよう。俺は、女神、テイメ様にお仕えしているのだ。それで、ここにいるって訳だな。ちなみに言うが……』
「あぁ、リフ。そこからは私が言おう」
『はっ!』
女神にそう言われた、リフは、静かに後ろに下がった。
何だよあれ。見ていて気持ちが悪い。リフはあんなやつじゃなかったのに。
「さぁ、クロヒ君。これをやったのが、誰かと訊いたな?」
『あぁ。訊いたぞ』
「おい、リフ。連れてこい」
『はっ!』
何だ? ここに俺ら以外にも誰かいるのか。……こんな残虐なことをするやつが、どこにいるってんだ。
「さぁ、これが誰か分かるかなぁ?」
リフに、抱えて連れてこられたのは……
『いい、妹……さん!?』
手足を拘束され、身動きがとれないまま、眠らされているようだった。
「どうだ? その妹さんだが? 確か、ライルの妹だったよなぁ! ケケケッ! そう、その妹さんが、こんなことをしたんだよ? ケケケッ!」
そんな……バカなこと……ライルの妹が? 深鈴が?
「言葉もでないようだな? 良いぞ、怒るなら怒れ。そして、こんなことをした深鈴を、殺してしまえ!」
女神は、リフの腕から、深鈴を取り上げ、クロヒのほうにつき出す。
『ころ、す? 俺が、ライルの妹をか?』
『ああ、そうだ。何百もの命を、消したんだから、そのくらいされても、おかしくはないだろう?』
リフ……!? 何てことを言うんだ!
「そうだ、リフの言う通りだ。お前には、深鈴を殺す権利がある」
『権利だと?』
「あぁ。こう言うことだ。離れ島に来てみたら、沢山の動物が死んでいた。それは、一人の少女の仕業だった。深鈴、ライルの妹の深鈴だ。クロヒが、地に足を下ろすと、問答無用で、襲いかかってきた。なので、つい、殺してしまった。どうだ? なかなか良いシナリオだろ?」
良いシナリオ……? 深鈴が、この動物たちを殺して、俺にまで襲いかかってきたのか……? そうか、そうだったのか。俺は、深鈴に襲われたのか。それで、女神たちが、助けてくれたのか。
「そう言うことだ。どうだ? お前には、深鈴を殺す権利があるが?」
そう言うと、女神はにんまりと笑ってみせた。
063
「……はぁ……はあ……! お、おい、クラハ! いつまで俺を追いかけてくるつもりだ!」
息を切らしながら、飛び続けるライル。
『知らんのじゃ! 特訓を放棄して逃げるからいけないんじゃ!』
クロヒと出会ってからも、ライルとクラハは、まだ、追い駆けっこをしていた。ライルが逃げ、クラハがそれをノロノロと追っている。
「はあ、はぁ! 俺は、どれだけ逃げれば良いんだ。そろそろ、深鈴がいる洞窟も過ぎるんじゃないか?」
凄い疲れたんだけど。
『なんじゃ、そんなとこ、とっくに過ぎたのじゃよ』
え、過ぎた?
クラハに言われて、地上を見下ろす。見えたのは、前方に白い砂浜と、一面の海だった。
「俺、どんだけ、飛んでたんだよ……」
『かれこれ、2時間?』
2時間……
そう思うと、急に疲労感がライルを襲う。身体の力が抜けて、ふらふらと下降する。
あれ、、身体が動かない……?
『どど、どうしたんじゃ! ライル?』
クラハは、ライルの様子がおかしいことに気付いた。すぐさま、後を追い、どうにかライルに追い付いた。
『大丈夫なのかの!? ライル!』
「あ、あぁ。大丈夫だけど……」
大丈夫と言いながらも、体勢を直そうとしないライル。
あぁ、もう。力もなにも入らないや。
『今、どうにかするのじゃ! とりあえず、あの砂浜まで連れていくからの!』
小さな、足で、ライルの服を掴み、どうにか砂浜にいこうと、羽を動かした。




