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取り合い

茶会は、少し張りつめた雰囲気の中で進んでいた。

蒼の三人の妃達は仲良く並んで囁くように談笑していたが、まず維月を挟んで維心と十六夜が居て、その前に久島が居て、その横に修が居て、そしてその横に緑青が居て、雛が居て、霧花が居て、少し離れて泰が居る。その横に蒼が居た。

維心は久島を睨んでいるし、久島も睨み返している。維月は珍しく扇で顔を半分以上隠している…どうやら、あまりに男前ばかりなので、気の休まる間がないので、自分を隠しているのではなくて、自分から相手が見えないようにしているような感じだった。

久島が、口を開いた。

「…これでは、話すこともままならぬ。維月、庭にでも出ようぞ。」

維月がびくっと肩を震わせた。

「お庭に…、」

十六夜が頷いて言った。

「確かにこのままでは埒があかねぇし、行って来な。」

維心が十六夜を鋭く見たが、何も言わなかった。元より、今日はその為に来たのだし。

維月は立ち上がると、久島に手を取られ、傍の掃出し窓から外へと出て行った。維心は外ばかり見て、視線を離さない。十六夜は言った。

「だから、維月は断るって言ってたんだろうが。もう少し信じてやればどうだ。」

維心はそれでも、維月から視線を離さずに言った。

「主に我の気持ちが分からぬのは、昔から分かっておる。」

すると、向かいに座っていた修が言った。

「…なんと。望めばあの維月殿と話すことが出来るのか?我も月には初めて会う。話してみたいの。」

蒼も緑青も泰も、仰天して修を見た。

「ええ?!」

十六夜ははあ?という顔をした。

「月と話したいなら、オレも月だ。何でも話せ。維月はややこしいから、駄目だ。」

蒼も頷いた。

「修殿、我は主がとても引っ込み思案なように聞いておったのに。」

修は苦笑して庭の方を見た。

「そうでもせねば、臣下達が縁談を持って来おって大変であったのよ。我は引っ込み思案でも何でもない。この通り、普通の王よ。他人から言われて、婚姻など面倒であったゆえな。」と、維月を見た。「悪いが月よ、我は維月殿と話したい。珍しい気ぞ。興味がある。」

十六夜はまたか、と呆れた顔をした。

「修、お前の相手は霧花だ。維月はもう定員オーバーなんだ。他をあたってくれ。」

修は眉をひそめた。

「ここは、皆で和やかに話す場ではないのか。先程から皆ケンのある表情で落ち着かぬではないか。」と、立ち上がった。「皆で、場を庭へ移そうぞ。さすればこのようなこともあるまいが。」

蒼は眉を寄せたが、しかし言うことはもっともだ。何だか敵対する宮同士の会合みたいな雰囲気になってしまっている。蒼の妃達はこちらに気付かず、相変わらず楽しげに並んで話しているが、こちらの状況は最悪だった。

蒼は立ち上がった。

「庭へ出よう。日も照っている訳ではないし、暑くもないだろう。」

皆はぞろぞろと庭へと移動した。父が雛の手を取るので、心細げにしていた霧花の手を、修がスッと取った。

「さ、では参ろう。」

霧花は思いもしないことだったので、頬を染めながら頷いた。


久島は、相変わらず扇で顔半分を隠したままの維月に言った。

「いつまでそうしておるつもりよ。我は化粧もしておらぬ主が、うたた寝しておる時に見つけたから顔はしっかり見ておるわ。」

維月は恨めし気に扇を降ろした。

「…隠そうと思ってのことではありませぬ。皆さま、本日は大変に凛々しく装っていられるので、まともに見てはならぬと思うて…。」

久島は、立ち止まって維月を見た。

「我とて、このような甲冑、何年ぶりに着たことか。これは動きが制限されるゆえ、宮で着ることなどなかった。しかし、主に会いに参るというので、急ぎ作り直させたのだぞ。」

維月は、維心と同じだと思った。維心も、今日のためにあの甲冑を作り直させた。お蔭で最初にあれを着た維心を見た時、あまりに似合うので、驚き過ぎて息が詰まって、気が付くと倒れて運ばれていた。

元々が神がかって美しいのだから、別に装わなくてもいいのに。

維月はそう思っていた。

「維月、我の宮へ来ぬか。我は十六夜に頼んだのだ。主のような女、初めて見る。我には他に妃はおらぬし、伸び伸び過ごせると思うぞ。庭で寝ておっても、誰も咎めぬし。」

維月は恥ずかしくて下を向いた。どうしてあんなところを見られたのかしら…。

「久島様、私は維心様を愛して嫁ぎましたの。なので、久島様がいくらご立派な神であられても、他のかたに嫁ぐつもりはありませぬ。」

久島は、維月の手を握った。

「最初は、一年という契約だったと聞いておるぞ。では、我の所にも、そうやって一年来れば良いではないか。そうすれば、我を愛おしむ気持ちも湧くやもしれぬ。」

維月は困った。それを言われてしまうと…。

「…久島様…。」

維月は何と言って断ればいいのだろうと考えた。そこへ、別の声が割り込んで来た。

「邪魔をするの。」それは、金髪の神だった。「維月殿、先ほどはゆっくりと話せなかったゆえ。我も話そうと思うて、参ったのだ。」

維月はええ?!と扇で口を押えた。待って、なんだかややこしい感じがするんだけど。

思った通り、久島が眉を寄せて維月の前に出た。

「待たぬか。修、主何のつもりぞ。主は確か、我が断った緑青の娘との縁談で、顔合わせに来たのではないのか。」

修は首を振った。

「別に縁談がどうのと考えてはおらぬ。我は維月殿と話したいだけぞ。久島よ、主こそ何のつもりぞ。」

維月はどうしようかとおろおろと二人を見た。そこに、維心がやって来て、維月の手を引いて自分のほうへ引き寄せた。

「話は終わったの。我は妃を連れて参る。」

修と久島は、同時に振り返った。

「何を申す!何も終わっておらぬわ!」

修は頷いた。

「我など、今来たばかりであるのに!」

維心は首を振った。

「維月はこの龍王、維心の正妃ぞ。維月は我の子を6人も生んでおる。今さらに他へ嫁ぐなど有り得ぬわ。黙っておったら調子に乗りおって。」

維心は眉を寄せてガッツリと維月を抱き寄せ、離そうとはしない。久島が言った。

「我は調べさせて知っておるぞ。維月は月の妃でもあるだろう。なので、月が否と申せば、主とて手の中には置けぬ。なので我は、十六夜に頼んで、時を作ってもらったのだからの。」

維心は、久島を睨んだ。

「それでも、維月は我の妃ぞ。愛されてもいない男が、何を言っておる。」

久島はフンと鼻を鳴らした。

「主とて、いつまでもその愛情が続くと思うておったら間違いぞ。」

維心から、ゆらりと闘気が湧きあがった。維月はびっくりして維心を見上げた…目が真っ青に光っている。駄目、本気で怒ってるしこれ!

「ほう」その大きな気に怯むこともなく、久島は言った。「面白いの。やろうてか。」

久島からも闘気が湧きあがる。維月は焦って叫んだ。

「十六夜!何とかして!」

途端に、ガクンと二人の闘気は落ちた。まるで押さえ込まれるような感じだ。久島がよろよろとよろけ、維心もガクッと膝を付いた。維月は慌てて言った。

「維心様?!しっかりなさって!」

「フン、大丈夫だ。」十六夜の声が、上から言った。「オレの結界の中で、オレの力に敵うと思ったか、維心、久島。逆立ちしたって勝てねぇよ。お前ら寄ってたかってオレの嫁を取り合いやがって、いい加減にしろ!」

十六夜が手を上げると、維月の体がふんわり浮いた。維心が慌てて手を伸ばそうとするが、十六夜はそれを跳ねのけた。

そして維月を腕に抱くと、言った。

「頭を冷やせ。人に迷惑掛けていいと思ってるのか。オレにも我慢の限界ってのがあるんでぇ。もう誰にも維月は許さねぇよ。」

十六夜は維月を抱いたまま、空中でクルリと踵を返した。維心が言った。

「待て!十六夜!」と、手を伸ばした。「維月!」

「維心様…!」

維月の声を聞いて、十六夜がピタと止まった。

「そうだなあ、面白いこと思いついたぞ。」と、十六夜は下を見た。「お前ら今、気が使えないだろう。人はなあ、そうなんだぞ。どんなに急いでても飛べないから走るか自転車乗るか、とにかく自分の力を使わなきゃならないが、お前らは気ですんなりやってたからな。強いと思ってただろうが、気を取られちまったらただの人みたいなもんだ。きっと、強い人にも勝てないかもしれねぇ。しかしな、維月はかつて、そんな不便な人の仲間だったんだぞ。蒼だってそうだ。」

維心と久島は、何を言っているのかと、十六夜を不安げに眺めた。十六夜は続けた。

「軍神の体力ってのはどんなもんなんだ?オレはそこが知りたいよ。維月が欲しいなら、体力勝負で勝ってから来るがいい。」

蒼もそれを聞いていたが、何のことやらわからなかった。

十六夜は一人、面白くなりそうだとほくそ笑んでいた。

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