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行き違い

「なんだ?十六夜、居たのかよ。昨日の式にも出て来なかった癖に。」

蒼は少しふて腐れて言った。オレの父だってのに、自覚が無さすぎる気がする。十六夜は言った。

「維心が居るのに、オレが出て行っちゃややこしいだろうが。別にこれからしょっちゅう悠の顔は見るんだし、その時紹介でもしてくれりゃいいさ。それより、お前、維月が維心に怒ったままだっての、知ってるか。」

蒼はえ?と眉を寄せた。

「昨夜のあのままか?」

十六夜は、蒼を伴って庭のほうへ出ながら、首を振った。

「いや、それより根が深い。維月が言うに、維心様はいつでも守ってくれる訳じゃないから、自分で自分を守ることにした、ってさ。どうにもならねぇ時にはオレに言うってよ。」

蒼は顔をしかめた。

「完全にこじれてるじゃないか。維心様がかわいそうだよ。いつだって守って来たのに、昨日一回きりじゃないか。」

十六夜がふーっと息を付いた。

「まあな。日が悪かった。あいつ、維月に神の女らしくしてくれって頼んでたろう?いつもの維月なら、槇が寄って来ただけで維心を大声で呼んでただろうし、ことによっちゃあ槇を張り倒してでも寄らせはしなかっただろうが、維心との約束があったからよ…維月だって、そうする訳にもいかなかったじゃないか。だから、自分が言っといて放って置くってどうよって思ってるんだよ。たいだい、維心は何の話に夢中になってて維月から目を離したんでぇ。いつもべったりなあいつらしくねぇ。」

蒼は十六夜を見た。

「母さんの話だよ。」蒼は言って、ため息をついた。「オレが子供の頃の話をしていた時、母さんのことになってさ。維心様は人の頃の母さんのことを、一生懸命聞いてたんだ。でなきゃ、母さんから意識を離したりするもんか。あの維心様だぞ?だから、かわいそうに思うんだ…別に、他の女を見てた訳じゃなし。許してあげればいいのに。」

十六夜が気の毒そうに眉をひそめた。

「そりゃ維心が気の毒だな。昨日はしょぼくれて自分の対へ帰って行ったのを感じた。今日も、まだ自分の対で篭ってるみたいじゃねぇか。どうにかしてやれねぇか。」

蒼は、何で婚姻でこんなことになったんだろうと気が重くなったが、そっちも放って置く訳には行かない。仕方なく、頷いた。

「わかったよ。槇殿と藍殿よりはこじれなさそうだから、母さんにはオレが話す。先に槇殿に明日、藍殿が会うと言っていると伝えて来るから、待ってくれないか。」

十六夜は頷きながら、蒼を気遣わしげに見た。

「すまねぇなあ、蒼。結婚したばかりだってのに、他人の世話ばっかさせてよ。お前も、性分だよなあ。」

蒼は苦笑して、その場を立ち去った。確かに、オレは誰かの喧嘩の仲裁ばっかりしているような気がする…仕方がない、そういう位置にオレは居るんだ。

蒼は諦めて、回廊を歩いて槇へと伝えに行ったのだった。


明人は、蒼とは違って幸せな朝を迎えていた。目が覚めて、隣に紗が居るのを見た時、どうしようもないほど愛おしく感じた。これが、本物の気持ち。明人は、その相手を見つけて、そしてこうして婚姻を済ませることが出来たことが、嬉しくて仕方がなかった。

眠る紗にそっと口付けると、紗は目を覚まして明人を見上げた。

「明人様…」と、慌てて襦袢の前合わせを押さえた。「まあ…我はこのような様で…失礼してお手水を…。」

明人は首を振った。

「良い。まだ良いではないか。」明人は言って、紗を抱き寄せた。「我は今日は非番であるし…ゆっくり出来ようほどに。」

紗は真っ赤になった。まあ、どうしよう。こんなに明るくなっているのに。

「あ、明人様…とても恥ずかしゅうございます…。」

明人は笑って紗の顔を上げさせると、その唇に口づけて、改めて紗を愛した。これほどの幸せがあるのだと思い、助けてくれた蒼と嘉韻に、心から感謝したのだった。


蒼はそれどころではなかった。

槇に話してからとって返し、今度はまた維月に会うために十六夜と維月の部屋へと入った。

結婚した朝に早くから起こされて、まさかあっちこっちうろうろすることになるとは思わなかった。昨夜、婚姻を済ませたばかりの悠を、長く放って置くのも気に掛かる。蒼は急いで維月と向き合った。

「母さん、話がある。」

維月はうんざりしたように蒼を見た。

「なあに?十六夜が何か言ったのね。私はいいわ、あなたは悠殿の所へ帰ってあげなさい。」

もちろん、そうしたい。蒼はイライラして言った。

「言われなくてもそうしたいよ。でも、昨日のことはオレのせいでもあるから、そこは言って置かなきゃ気になって仕方ないんだよ。あのね、維心様は、オレの子供の頃の話から、母さんの人の頃の話になって、一生懸命聞いてたからあのとき、気付かなかったんだよ。」

維月は目を丸くした。

「なんですって?私の?」

蒼はうんざりして頷いた。

「そう、母さんの。あんまり真剣だから、ついつい話し込んで…気が付いたら、母さんが立ち上がって叫んでた。」

維月は口を押さえた。維心様、私の昔をやたらと聞きたがるけど、私はあまり話さないから…。心を繋いだ時に知ってると思って…。

維月が黙ったので、蒼は続けた。

「維心様が、母さんのこと以外で他が見えないほど話し込むはずないじゃないか。いい加減にしなよね、全く。維心様がおかわいそうだよ。ほんの一瞬じゃないか。悪いのは槇殿なのに、八つ当たりしたらお気の毒だよ。あんなに落ち込んで。しっかり謝りなよ?オレだっていろいろ大変なんだ。少しは落ち着いてくれよ、いくつになってんの?」

維月は一言も言い返せず、下を向いた。確かに八つ当たりだったかも…。維心様、しょんぼりしてらして…。

蒼は言いたい事を言ってスッキリとし、維月が黙ったのをいいことに、さっさと悠の所へ帰って行った。みんな、婚姻の時ぐらい遠慮してくれないかなあ…。

蒼は思いながら、宮の中を歩き抜けて行った。

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