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決定

紗の部屋で霧花が話していると、侍女が息せききって駆け込んで来た。

「紗様!父上のお召しでございまする!月の宮の王、蒼様がお忍びでいらしていて…何でも、そちらの軍神のかたが、紗様をとおっしゃっていらっしゃるとのこと。父上は最初渋っておられましたが、蒼様が是非にと言われるので、紗に決めさせるとおっしゃって!なぜにこのようなことと、我らも仰天致しておりまするが…急ぎ、ご準備を!」

霧花が居るのにも構わず、侍女達は必死に紗を着替えさせ始めた。紗も突然のことに面食らってされるがままになっている。霧花が、言った。

「それで、その軍神のかたのお名は?」

侍女は首を振った。

「そこまでは聞いておりませなんだ。何しろ、突然のことでありましたゆえに。なんでも龍の宮で王について来られていた際に、見染められたのだとのこと。」と侍女は誇らしげに紗を見た。「確かにこの紗様のお美しさならば、どんな宮の軍神も見とれるでありましょうが…。」

侍女は、準備を済ませて紗を急かした。

「さあ、参りまする!父上様は大変に気の短いかたでいらっしゃいまするから、お急ぎになられて。」

紗は頷いて歩き出す。霧花も、その後について急いで謁見の間へと向かった。


「王、紗様のお着きでございまする。」

侍女の声に、槇は振り返った。

「おお、待ちかねたぞ。これへ。」

紗が足を踏み出した。霧花は、その後ろからそっと中を覗いた…居るのは、明人様と、嘉韻様。どちらも、とても自ら見染めるようなかたではない。では、本日はその軍神は連れておらぬのかしら…。

槇が、言った。

「紗、主を身染めてどうしてもと申すのだそうだ。よく考えると、王がそのために、わざわざこんな所まで忍んで来ると言うのだから、どれほどに優秀な軍神であるか分かるの。」

紗はベールの中で、目を潤ませた。明人様…本当に来てくださったのですね。

蒼が微笑んで振り返った。

「さ、明人。」

明人は、紗の前に進み出て、膝を付いて頭を下げた。

「紗殿、どうか、我の妻として月の宮へ参って頂きたい。必ず、紗殿お一人を守り、終生ご不自由はさせ申さぬ。」

紗は、涙で前が見えなくなりながら、頷いた。

「明人様。どうか我をお連れくださいませ。」

その声は震えていた。明人は、紗を見上げると、薄く微笑んだ。紗は倒れそうなぐらいの幸せを感じて、明人に手を差し出した。明人はその手を取り、手の甲に唇を寄せた。

槇が、大袈裟にため息を付いた。

「何ぞ!はなっから紗はこやつを待っておったのか!」と、紗を見た。「最近の塞いでいた様は、これが原因であったのだな。父に申せば良いものを。」

皆が幸せに微笑み合っている時、霧花は、信じられない気持ちで見ていた。あの明人様が…己からあのように女を求められるなど…!

霧花は、そのまま逃げるように槇の宮を去った。

槇は、蒼を振り返った。

「蒼殿、実は我からお願いがあり申す。」蒼は、なんだろうと槇を見た。「これへ!」

出て来たのは、金髪に青い瞳の、それは美しい女だった。儚げな感じがする…蒼は思った。

「これは、我の第一皇女、(ゆう)。」槇は悠の手を取って言った。「我の正妃に似て、それは美しい。紗も美しいが我に似ておるところもあるが、悠は全くに正妃にそっくりであっての。しかし、少し体が弱く、邪気に極端に弱い。我が別に張っておる結界の中に居れば邪気が入らぬし良いのであるが、人混みなど無理で、此度龍の宮への選別にも、これは出せなんだ。」

蒼は頷いて、悠を見た。確かに目が覚めるほどに美しい。それに、仕草も洗練されていて、皇女の風格もある。少し瑤姫に似ているかな、と蒼は思った。

「確かに、混雑ゆえの邪気には、元気な我の母すら気分が悪くなって途中で辞したほど。ご苦労しておるの、槇殿。」

槇は頷いた。

「それで、主の月の宮は、全くの邪気のない、月に常に浄化されておる地だと聞く。」

蒼は頷いた。

「月の結界が自ずとそれをしておるのでの。」

槇は悠を見て言った。

「悠を、妃に迎えてくれぬだろうか。これこそ、我の最大の悩みの種であるのだ。しかし月の守りの中にあるなら、我は安心ぞ。悠は邪気に弱いだけで、後は常と同じように生活出来る。主の結界の中なら、間違いなく健康に過ごせるのだ。」

蒼は仰天して槇を見た。妃。この間桂を迎えたばかりなのに。確かに、迎えたのは一年前でも、妃であったのは10年以上であるが…。

「…我には、二人の妃が居る。それでも、良いと申すか?」

槇は頷いた。

「二人共、正妃にも出来ぬ妃であろう。きちんとした妃が居ても、良いのではないのか。」

蒼は考え込んだ。嘉韻と明人が、気遣わしげにこちらを見ている。普通なら、一笑に附してしまうところ。だが、槇は紗と明人のことを飲んでくれたばかりなのだ。

「…では、戻って臣下達に知らせる。数日中に返事をさせようほどに。」

槇は満足げに頷いた。

「感謝し申す。」

明人が、もの問いたげに蒼を見る。臣下に話しを持って行くということは、蒼はいいと言うことだ。後は臣下達の審査だが、この格の宮との婚姻を、否と言うはずはまずない。槇もそれを知っている。なので、礼を言ったのだ。

「では、我はもう戻る。紗殿、主のことも、近日中に迎えを寄越すゆえ。」

紗は頭を下げた。蒼の後ろ姿を見ながら、槇はホッとしていた…これで、大事な娘達はあの格の高い月の宮で暮らすことが出来る!

しかし、蒼は複雑な気持ちだった。

それを感じ、明人は帰り道、飛びながら蒼に問うた。

「王…まさかオレのために、ご無理をなさったのでは。」

蒼は手を振ってため息を付いた。

「いや、どのみち誰か、きちんとした妃を迎えるようにと維心様からも言われておったのだ。オレの妃が問題を抱える妃と、格の低い妃であると、龍の宮まであんな風に波及して、縁談が増えたりして迷惑を掛ける。王をやるってのは、想像以上に大変なんだ。だから、いい機会だと思う。あの皇女は邪気に弱いなら、月の宮は格好の嫁ぎ先だしな。これも人助けだ、明人。気にするな。」

そうは言っても、気になった。嘉韻は黙ってそのやり取りを聞いている。

月が昇り始めていた。


「また嫁が増えるのか。」十六夜が会合の席で言った。「今度は金髪碧眼って、これでいろいろ揃ったな、蒼。」

蒼は十六夜を睨んだ。

「そんなつもりはない。だが、邪気に弱いなら、ここが一番だろう。」

翔馬が十六夜を咎めた。

「さようでございまする、十六夜様。これで龍の宮にご迷惑をお掛けすることもなくなり申す。やはりきちんとした筋の妃は、これほどの格の宮となるとどうしても必要なもの。我も安堵致しました。」

蒼は頷いた。

「では、異論はないの。」

「もちろんでございます。では、早速に槇様にお返事を。」

蒼は頷いた。

「頼む。」

十六夜は伸びをした。

「あ~あ、オレが王でなくてよかった。維月は絶対に許してくれねぇもんな。戻って来なくなっちまう。」

蒼は苦笑した。それを考えると、維心の力は確かに大きい。頑として維月以外は迎えぬと決め、それを成している。おそらく維心でなければ無理なことだろう。

蒼は維心にも使いを出し、この事を知らせておいた。きっと母と二人で驚いていることだろう。


本当に驚いていた。

「なんとあの槇の娘と。こともあろうに!」

維心は言って、眉を寄せている。維月はびっくりして維心を見た。

「まあ、維心様、紗がここに来た時は何も申されませんでしたのに…。」

維心はぶつぶつと言っている。

「あやつは、妃が美しいとそれは自慢げに話しおって、我の維月もこれほどに美しいと言うのに、あの時は主が里帰りしておったばかりに見せることも出来ず…見せられぬのでしょうなどとぬかしおって…」

あの時っていつだろう。維月は思いながらも、維心をなだめた。

「まあ維心様、きっとお式の時にお会いするのでありまする。そのように憤ってらしたら…。」

維心はハッとしたように維月を見た。そして、両手で維月の手を握った。

「維月!式の時はあちらの正妃も来よう。いや絶対来るはずだ。主も来い。」

維月はあまりの迫力に、頷いた。

「はい、参りまする。蒼の婚姻でありまするので。」

「それから」と維心はじっと維月を見つめて言った。「主…アレをやってくれぬか。」

維月は言った。

「アレ…でございまするか?」

維心は大真面目に頷いた。

維月は維心のためならばと頷いたのであった。

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