1 小5×高1
「ママ、行ってくるね。」
「いってらっしゃーい。」
私は相沢由紀奈です。小学5年生です。今日も元気に学校へ登校しています。
「由紀奈。」
「翔祐くん!」
近所に住む高校1年生の山下翔祐君。翔祐君はとてもかっこよくて、私の好きな人です。
「翔祐君、おはよう!一緒にいこう!」
「いいよ、手つなぐ?」
「うん!」
翔祐君の手、暖かいなあ・・・。
「ねえ、由紀奈って好きな人いる?」
「うん、翔祐君が好きだよ。」
「俺も好きだよ。」
私たち、両想いなんだね。
「帰ったらまた話そう。」
「うん!」
翔祐君は高校がある方向へ、私は小学校の方向へ歩いて行った。
学校ではみんなと仲良くしているし、たまに友達とも遊んでいる。勉強は苦手だから授業はあまり好きではないけど・・・。
でも翔祐君が宿題を教えてくれたりするから、翔祐君がいればきっとなんでも楽しくなると思う。
私は学校のみんなも好きだし、翔祐君も好き。
「ねえ、好きな人っている?」
友達の手嶋礼子ちゃんに聞かれた。木村佑梨ちゃんと3人で話している時だった。最初に佑梨ちゃんが答えた
「私はいないのー。礼子ちゃんは?」
「私ね、隣のクラスの鈴木君が好きなの。」
同じクラスになったことがないので鈴木君の人柄はよくわからなかった。
「由紀奈は?」
「私は翔祐君が好きなの。」
「翔祐君、年上すぎるよ。同い年がいいよ。」
2人は翔祐君のことを知っているけど、翔祐君はかっこいいし同じ高校にきっと彼女がいるだろうからやめた方がいいと言われた。
「彼女がいるなんて聞いたことないもん。本当に私、翔祐君が好きなのに。」
「いや、でもさあ・・・由紀奈はよくても翔祐君はわからないじゃん。」
「・・・もうわかんないからこの話やめよ。」
友達と分かり合えないのが寂しかったからついそう言ってしまった。
「由紀奈、今度少女漫画を読もうよ。いろんな恋愛を見た方がいいよ。私の家にはたくさんあるから。」
少女漫画を読んだら何がいいのかも理解できなかったけど、ただ礼子ちゃん家に遊びに行けるという楽しみができたのは嬉しかった。
下校すると、翔祐君も同じくらいの時間に帰ってきた。私は翔祐君の家に行った。
夕方にパパ、ママがいない時はいつも翔祐君の家に行くので、2人はいつも翔祐君に感謝していた。翔祐君はお母さんと2人暮らしだが、まだこの時間は仕事に行っている。
私と翔祐君はリビングのソファに一緒に座ってテレビを見ていた。
「翔祐君、今日は礼子ちゃんと佑梨ちゃんと話してたら翔祐君を好きになるのはやめたほうがいいって言われたの。」
「へえ、なんで?」
「翔祐君は年上すぎるし、かっこいいから同じ高校に彼女がいるはずだって言うの。」
「俺、モテないし彼女もいないけどね。小学生から見たらかっこいい男なんだね。」
翔祐君は嬉しそうにしていた。ほらね、いないって言っているし、女の子が家に入るのも見たことないもん。
すると翔祐君に頭を撫でられた。なんだかそれが嬉しかった。
「ねえ由紀奈……俺たち付き合わないか?」
「付き合う?ってどうするの?」
「うーんと…お父さんとお母さんが結婚する前の状態だよ。一緒にいる時間が必要なんだよ。その時は彼氏と彼女ってことになるけど。」
「私、翔祐君と結婚できるの?」
「うん、いつかね。」
「わーい!なら付き合う!」
礼子ちゃんと佑梨ちゃんに自慢できる!
「でも由紀奈、俺と付き合うことはみんなに話したら駄目だよ。」
「え?なんで?」
「最初のうちに言っちゃうとすぐに別れちゃうことが多いからだよ。だからお母さんとお父さんにも、友達にも言わないでね。」
「そうなの?結婚できるんじゃないの?」
「絶対ってわけじゃないんだ。気持ちが変わることだってあるよ。」
納得いかなかったが、私は何もわからなかったので翔祐君の言うことを聞くしかなかった。
「早速今度デートしよう。2人だけで出掛けるんだよ。」
「どこに行くの?公園?」
「いや、映画見たりご飯食べたりするんだよ。いつもより豪華だよ。」
「へえ、楽しみ!」
私はお友達と遊びに行く感覚だったから、この時は自分の気持ちが変化していくなんて微塵も感じていなかった。
日曜日、翔祐君と私は朝から一緒にお出かけした。
パパ、ママは翔祐君が大変だからと最初は断ったが、翔祐君の説得と私のわがままでどうにか行けることになった。
私はお気に入りのワンピースを着た。
「その服似合ってるよ。可愛いじゃん。」
「ありがとう。」
翔祐君に褒められて嬉しかった。ママにきちんとアイロンをかけてもらったし、ショートの髪も編み込みを入れておめかししたのだ。
「翔祐君、今日はどんな映画を見るの?」
「今日は俺たちが付き合っていくための勉強の映画だよ。」
「私、勉強は苦手なのに…。」
「いつもの勉強とは違うよ。教科書もノートもいらないから。」
映画館へ入ると、高校生くらいの男女がたくさんいた。みんなきっと私と翔祐君みたいに彼氏彼女なんだろうなと思った。
映画の内容は、男女が付き合ったけど、男のほうが転校しないといけなくなって一度離れたがやっぱり好きだからまた付き合う、という話だった。
たまに抱き着いたりキスしたりする場面があったのがちょっと恥ずかしく感じた。
「由紀奈、どうだった?」
「男の方が転校するところが寂しかったなあ・・。女の子、泣いてたね。」
「好きな人と離れるのは寂しいものなんだよ。」
私も翔祐君と離れることになったら嫌だなあ・・・。
翔祐君は私の気持ちを汲み取ったのか、手をつないでくれた。
「大丈夫だよ、俺は離れないよ。」
翔祐君の声はとても安心する声だった。ちょっとドキッとした。
お昼ご飯は映画館と同じ建物の中にあるフードコートで食べた。パパとママとも時々来るけど、翔祐君と来ると違った感じがした。
「あれ?翔祐じゃん。」
翔祐君は誰かに呼ばれた。
「あー!お前らデートかよ?」
翔祐君と同い歳くらいの男女だった。
「翔祐、妹いたっけ?」
「いや、近所の子だよ。」
近所の子で間違いはないのだけど、彼女と言ってほしかった。2人は翔祐君とちょっと話しただけでどこかに歩いて行った。
「なんであの2人が付き合ってること知ってるの?別れたらどうするの?」
私は翔祐君が、付き合っているのがばれたらすぐに別れちゃうって言ったから黙っておかないといけないのかと思った。
「あの2人は長いからいいんだよ。」
「どれくらい長かったらいいの?」
「俺がいいって言うまで待っててね。」
どれくらい待つのかな?みんなに自慢したいのになあ・・・。
そのあとは雑貨コーナーに入った。翔祐君が、新しい文房具を買ってくれると言ったからだ。そろそろ鉛筆も消しゴムもちびて来たのでちょうどよかった。ここなら可愛い文房具がたくさんある。
「由紀奈?」
「あ、佑梨ちゃん!」
佑梨ちゃんはお姉ちゃんと一緒にいた。佑梨ちゃんのお姉ちゃんは翔祐君と話し始めた。
「由紀奈、翔祐君と来たんだね。」
「うん、さっき一緒に映画見たの。」
「よかったね。彼氏と彼女みたい。」
まだ付き合っていることは言えなかったので笑ってごまかした。
翔祐君は佑梨ちゃんのお姉ちゃんとまだ話している。
「お姉ちゃんたちが話している間に一緒に選ぼう。お姉ちゃんお喋りだから。」
翔祐君と佑梨ちゃんのお姉ちゃん、仲がよさそう・・・。
ふん、知らないもん!お姉ちゃんと喋ってればいいじゃん。
私は翔祐君にかまわず佑梨ちゃんと文房具を選んでいた。
文房具を選んで翔祐君に渡したが、私は相変わらず不機嫌なままだった。
「由紀奈、またねー。」
佑梨ちゃんとお姉ちゃんに手を振った。
「由紀奈、俺たちも行くぞ。」
文房具を買ってくれたからお礼を言わないといけないのに、言えなかった。
私はスタスタと歩いて行った。
「由紀奈、どうしたんだよ。」
「翔祐君、佑梨ちゃんのお姉ちゃんと似合ってたもん!私はまだ子供っぽいからみんなに彼女って言えないんでしょ!」
背もまだまだ低いし、大人の話もついていけない。
「はあ?何いってんだよ。由紀奈が好きって言ってるだろ。」
翔祐君、本当に私がいいのかな・・・。
「由紀奈、待てってば!あいつはただの同級生だよ!」
いつもより早歩きをしたが、翔祐君にはすぐに追いつかれて抱っこされた。
「お姫様抱っこ~。」
「おろして!」
「降ろしてやんない。俺を置いて行った罰ね。」
降ろさないで。
本当は追いかけて来なかったらどうしようかと思った。
「由紀奈、嫉妬してるんだね。」
「嫉妬?」
「俺が他の女の人と仲良くしてたら嫌だっただろ?そういうのが嫉妬っていうの。」
「うん・・・嫌だったよ。」
「由紀奈、俺のこと本当に好きなんだね。」
なんだかさっきからずっとドキドキしている。なんでこんなにいつもと違うんだろう?翔祐君も一緒だといいな・・・。
さすがにパパ、ママと一緒ではないから夕方には帰ることになっていた。だけど、ドアを開けようとしたら鍵がかかってた。
「翔祐君、まだ2人とも帰ってきてない。」
翔祐君もドアをガタガタとしたが、やはり開かなかった。
「とりあえず、俺の家にいよう。」
翔祐君のお母さんもまだ出かけていた。
いつものようにソファに2人で座ってテレビを見た。
「ねえ由紀奈・・・。ちょっといつもと違うことしない?」
「どんな?」
「今日の映画みたいな事だよ。」
翔祐君は自分の膝に私を乗せた。翔祐君が後ろから私に抱き着く形になった。
なんだかちょっと近づけた感じがして嬉しかった。
「由紀奈、大好き。」
翔祐君、力強い・・・。
「翔祐君、ちょっと痛いよ。」
「ごめんごめん。」
少し緩めてハグしてもらった。これくらいがちょうどいいな。
しばらくそれでテレビを見ていたが、今度は頭を軽くチュッ、とされた。さすがに驚いて逃げた。
「由紀奈・・・?」
翔祐君は寂しそうな顔になった。
「ハグはいいけど・・・キスは恥ずかしい。」
翔祐君からは嫌じゃないけど、恥ずかしかった。
「ごめんね。それならハグだけにしよう。」
さっきみたいにハグをした。
「由紀奈、ハグしたこともキスしたことも誰にも言うなよ。2人だけの秘密ね。」
「うん。」
2人だけの秘密というもの嬉しかったし、恥ずかしさもあってこのことは言いたくなかった。
その後はすぐにママが迎えに来てくれたので帰ることにした。さっきのことがあってまだドキドキしている。
「今日は楽しかった?」
「うん、すごく楽しかった!」
「よかったねえ。翔祐君、頼りになる男の子だもんね。由紀奈がもう少し年上だったらお嫁さんにしてほしいくらい。」
ママ、と言いかけたが言わなかった。もう結婚の約束してるのになあ・・・。
なんだか誰にも言えないって寂しい。
翌日、いつものように学校で佑梨ちゃんと礼子ちゃんと話していた。
「ねえ由紀奈、お姉ちゃんから聞いたんだけどさ、翔祐君って彼女はいないみたい。話しやすいからすごくいい人だよって言ってた。」
「なーんだ、佑梨のお姉ちゃんと翔祐君って同じ学校だったのね。」
礼子ちゃんは安心した様子だった。
「そうでしょ。翔祐君、嘘なんかつかないもん。」
翔祐君は私が好きなんだもん。昨日だってキスされたし・・・。
昨日のことを思い出したからか、ちょっと熱くなってきた。
「由紀奈、どうしたの?」
「ううん、なんでもないの!ちょっとトイレ!」
どうしていいのかわからず、思わず廊下に出た。昨日、翔祐君があんなことしたからだ・・・。
「由紀奈。」
そのタイミングで同じクラスの達也君が話しかけてきた。ちょっと乱暴だけど実は優しい男の子。
「昨日映画館にいたよね?」
「うん、いたよ。達也君も?」
「うん。父さんといたんだ。由紀奈は?あれ兄貴?」
「ううん、あの人は翔祐君って言って、近所に住んでいる高校生なの。」
「へえ、あいつが翔祐なのか。」
私が教室でよく喋っていたから聞いていたのかもしれない。
「翔祐のこと好きなの?」
「うん、そうだよ。」
「俺はさあ・・・由紀奈が好きだよ。」
達也君のいうことは、私が翔祐君を好きなのと同じなのかな・・・。
「私は翔祐君が好きなの。達也君も好きだけど、翔祐君に対するものとは違うの。」
「・・・わかった。」
私は翔祐君からも好きって言ってもらえるから嬉しいけど、達也君はそうじゃないんだな・・・。
その日の放課後は、この前の約束通りに礼子ちゃん家で漫画を読んだ。
何冊か読んだけど、ほとんどが主人公の女の子とモテる男の子が最後にくっつくストーリーだった。
高校生の男の子とくっつく漫画ってないのかなあ・・・。
「由紀奈、今日達也君に告白されてたね。」
「告白?」
「うん。好きって言われたでしょ。それが告白。」
「言われたよ。でも私は翔祐君が好きだからさ。」
「由紀奈って本当一途だよね。告白されると心変わりする子もよくいるのにさあ。」
「え?なんで?」
そんなの無理じゃない?
「みんなたぶん本気じゃないのよ。」
どういうこと?私は翔祐君が好きだから、急に達也君のこと好きになれないよ。みんなの好きと私の好きは違うの?
「あーあ、上の空だ。由紀奈は翔祐君が好きならそれでいいのよ。さっきのは忘れていいから。」
あまり考えても疲れるのでこのことは考えるのをやめて、別の漫画を読むことにした。
でも、さっきまでの漫画とはちょっと違った。
これ・・・・男の子が女の子の服脱がしてるよ??え??・・・・何なのだこの漫画は!
「由紀奈!?」
気づいたら鼻血を出して倒れていた。
「お母さんティッシュ!」
まさかこんな漫画があるなんて・・・。
「由紀奈、これ読んだんだ。私も最後まで読めなかったよ。お姉ちゃんのやつだから返しておかないと。」
さっきの漫画は高校生の男女だった。高校生ってことは・・・翔祐君もあんなことするのかな?なんだかちょっと怖くなった。
体調が戻り家に帰ると、翔祐君が待っていた。
「由紀奈、遅かったじゃん。どこ行ってたんだよ。」
「礼子ちゃんの家で漫画読んでたの。」
「どんな漫画?」
最後の漫画の内容を思い出したが、そっちは言いたくなかった。
「主人公がモテる男の子とくっついて終わるやつ。」
「少女漫画ってみんなそうだよな。いいよね、モテる男は。」
翔祐君、モテないって言ってたもんな…。
「あとね、私、同じクラスの達也君に告白されたの。」
「はあ?マジかよ。由紀奈はなんて言ったの?」
「翔祐君が好きだから好きになれないって伝えた。」
翔祐君は嬉しそうな顔になった。
「由紀奈、偉いね。断る勇気も必要だからな。」
翔祐君に頭を撫でられた。なんだかデートのあとからこうして触れられるのがすごく嬉しく感じる。前々から好きだったのに、今は前とは違う気持ちになってる…。
この気持ちは何なのだろう?
「由紀奈、大切な話があるの。」
「何?」
ある日、パパ、ママがとても嬉しそうな顔で私に報告しにきた。
「ママね、妊娠してるの。由紀奈はお姉ちゃんになるのよ。」
「そうなの?嬉しい!」
佑梨ちゃん、礼子ちゃんには姉弟がいるから、私も欲しいと思ってたので嬉しかった。
「弟?妹?」
「まだ分からないの。ちょっと先だから、わかったら伝えるね。」
「うん!」
生まれるのは私が6年生になってからみたい。まだ先だなあ。妊娠中は大変だろうから、ママのお手伝いをしないといけない。
「ママ、洗濯物は私が片付けるからね。」
「あら、ありがとう。助かるわ。」
いつもママに甘えてばかりいたから、しっかりしなきゃ。
「へえ、お母さん妊娠してるのか。」
嬉しいことだから、翔祐君にも伝えた。今は翔祐君の家にいる。
「うん、私お姉ちゃんになるの。だからママのお手伝いをすることにしたの。」
「偉いね。家のことができるなら、由紀奈はきっといい奥さんになるよ。俺の自慢の奥さんにね。」
翔祐君に褒められて嬉しかった。
「でもさあ、不思議だよね。」
「何が不思議なの?」
「ママ、どうやって妊娠したのかな?注射でも打つのかなぁ?」
「まあ…自然に妊娠が出来なかったら、最後は注射かもな。」
「自然に妊娠??」
小学生の私には何もわからなかった。
「ねえ、由紀奈…。どうやって妊娠したのか知りたい?」
「うん。」
「へえ……ならこっち来て。」
翔祐君は、私の手を引いてベッドが置いてある部屋に入った。
「翔祐君?」
翔祐君は私を抱っこしてベッドの上に座らせた。
すると、チュッとおでこにキスされた。
「な、なに?」
「知りたいんでしょ、妊娠の方法。」
「え?どういうこと?」
翔祐君、目つきがいつもと違ってる…。
「由紀奈は俺の奥さんになるんだから…いいよね?」
翔祐君は私の服のボタンに手をかけた。
こ、これは…。礼子ちゃん家で読んだ漫画と同じだ…。
「いやーー!」
ベッドから離れて部屋の隅に逃げた。
「ゆ、由紀奈!?」
気づいたらまた鼻血が出ていた。
「由紀奈、ごめんね。気が早かったよ。」
翔祐君の隣で鼻血が止まるのを待った。翔祐君、なんであんなことしたのだろう?
「お母さんはきっと注射を打ったんだ。だから妊娠したんだ。それしか思いつく方法はない。」
それとさっきの翔祐君が結びつかない…。なんでわざわざベッドに連れてこられたのだろう?
「いや、その…。注射するにしてもインフルエンザの注射とは違うからさ。寝る体勢で注射するんだよ。腕じゃないところに刺すから服を脱がないといけなかったりするし。」
なんだか翔祐君の説明がたどたどしい。翔祐君だって結婚していないのだからよくわかっていないはずだ。たぶん本か何か読んだのを私に伝えてるだけと思う。というかあんな漫画を読んでしまったばかりに変な想像をしてしまった自分が嫌になる。
12月に入った頃、街にはイルミネーションが準備されていたので、ニュースで流れていた。
「あれ行ってみたい!」
だけど、パパとママはちょっと困っていた。
「連れて行ってやりたいんだけどねえ…夜だもんなあ。ママの体調があまりよくなくて。」
ママはあれから寝込むことが増えた。お医者さんからも、必要以外は出かけないように言われているという。パパはママを置いて私と出かけるのは心配みたい。パパだけではなく私だって心配だ。
「1日くらい平気よ。2人で行ったらいいわ。」
「昼間ならまだいいけど、夜はちょっと心配なんだよなあ…。」
「ママ、私もママのほうが大事だから大丈夫だよ。」
「…ごめんね。」
本当は行ってみたいのだけど。でも、イルミネーションなんて毎年やっているし、今はママのほうが心配だったのだ。
「イルミネーションはきれいだよね。」
いつものように翔祐君の家で話していた。
「うん!でもママが心配だから今年は我慢することにしたの。」
「そうなの?お父さんは?」
「夜はママを1人にできないから出かけられないんだって。私もママが心配だもん。お姉ちゃんになるんだし、甘えていられないの。」
「そんなプレッシャー感じることないよ。」
翔祐君は私の頭を撫でた。翔祐君になら甘えていいのかな…。
「でもさあ、そんなに遠い場所じゃないよね?俺が連れて行こうか?」
「え?いいの?」
「うん。またデートしようよ。そんなに晩くならないようにするからさ。」
イルミネーションも見てみたいけど、それよりも翔祐君とまたデートに行けるのが嬉しかった。
パパとママに言うと、2人とも喜んでOKしてくれた。せっかくの機会なのに、私に我慢させるのが嫌だったみたい。
「翔祐君は本当に頼もしいわね。でも、あまり晩くならないようにしてね。」
「それは翔祐君にも言われたから大丈夫!」
とにかく当日が楽しみだ。
そして当日の夕方、またショートの髪に編み込みを入れてもらってから出かけた。もちろんマフラーも手袋もしている。
「翔祐君、お願いね。」
パパ、ママに見送られながら出かけた。翔祐君は最初は手をつながなかったが、パパとママが見えなくなったところで手をつないだ。翔祐君と手をつなぐと安心する。
イルミネーションの点灯は5時からだったが、まだ数分前なのでついていなかった。やはり人がたくさんいて、みんな待ちきれない様子だった。点灯するまで翔祐君と喋っていると、翔祐君と同い年くらいの女のグループが通り過ぎようとしていた。
「え?翔祐?」
その中の1人が翔祐君に話しかけてきた。マスクをしているので顔が見えないが、髪が前髪も含めてロングになっている。
「…もしかして紗英?」
「うん。正解。」
マスクを外した。誰だろう?同じ高校の人かな?
「翔祐、こういう場所に来るんだね。私の時はこういうのめんどくさがってたのに。」
「あの時は中学生だったから付き合うとかよくわからなかったんだよ。」
付き合う…?
「へえ。で、この子は今の彼女?」
紗英という女は私の顔を覗き込んだ。
「んなわけないか。」
「私は彼女です!お姉さん、私たちの仲を邪魔しないでください!」
「あは、可愛い。翔祐のこと好きなんだね。」
「紗英、何してんの?早く行こー。」
女友達に呼ばれて、紗英は手を振りながら去っていった。
「由紀奈すごいね。紗英に言い返しちゃうなんて。」
翔祐君は喜んでいたが、私は不安になった。
「あの人誰なの?」
「俺の前の彼女だよ。」
「前の?」
私と違って大人っぽかったな…。
「うん。でも、もうあいつとは終わっているからさ。学校も違うし気にしないでよ。」
気にしないでと言われても…前の彼女がいるなんて聞いたことなかったから。
「あ、そろそろ点灯するよ!」
クリスマスソングが流れる中でカラフルなイルミネーションが光った。周りの人は歓声を上げている。
「由紀奈、写真撮ろうよ。」
翔祐君はスマホのカメラでイルミネーションを背景にしてツーショット写真を撮った。私は頑張って笑顔を作った。正直かなり動揺していた。
「やっぱりクリスマスは彼女とデートしないと駄目だね。」
さっきの会話を思い出すと、たぶん紗英とはクリスマスデートしなかったのだと思う。私のほうが特別…。きっと私のほうが好かれている。
「由紀奈?どうした?」
「いや、なんでも…。」
「…もしかして紗英に驚いた?」
私は黙ってうなずいた。
「大丈夫、今好きなのは由紀奈だからね。本当だよ。」
でも…ちょっと自信がなかった。
「翔祐君。…キスしていいよ。」
「え?な、なに言ってんだよ。」
「いいからキスして!」
周りの人たちが驚いて私たちを見ている。翔祐君は私の手を掴んで人気のない場所へ行った。
「由紀奈、どうしたんだよ。付き合っていることは秘密なんだからあんなこと人前で言っちゃ駄目だよ。」
「だって…前の彼女のことなんて聞いてないもん。」
「もうどうでもいい女だからわざわざ言わなかっただけだよ。本当にごめん。」
そして翔祐君は私のおでこ、ほっぺにキスした。自分から求めてしまうと、恥ずかしいだなんて思わなかった。
「そうだ由紀奈、渡したいものがあるんだ。」
翔祐君は持っていたカバンの中から何か出した。それはヘアピンだった。
「俺からのプレゼントだよ。付き合っていることは秘密だけど、プレゼントのことはみんなにいっていいからさ。」
「ありがとう、嬉しい!あ、でも…。」
「どうした?」
「私からは何も準備してないの…。」
「いいんだよ。まだ小学生なんだからお小遣い少ないだろ。」
まだ小学生…か。
なんだか急に翔祐君が手の届かない大人に見えてしまった。私には前の人、なんていないしプレゼントを準備することも思いつかなかった。
そのあとは一緒にチキンを食べたり暖かい飲み物を飲んだりしたけど、いまいち身が入らなかった。せっかくのデートだったのにな…。
急に自分がただの子供に見えてしまった。
家に帰ったあとも翔祐君の話はしなかった。紗英に会わなければこんなことなかったのに…。ヘアピンだってママたちに自慢できるのに、する気になれなかった。
お風呂に入ったときに自分が写った鏡を見て嫌になった。なんで私、こんな子供なんだろう…。紗英みたいになれたらちょっとは自信が持てるのかな。
紗英の顔を思い出した。もちろん顔は変えられないけど、髪型なら変えられるかも…。そっか、髪が短いから子供に見えるんだ。紗英みたいに伸ばしたらいいんだ。
「由紀奈、そのヘアピン可愛いねえ。」
月曜日の登校で翔祐君からもらったヘアピンをつけていったら礼子ちゃん、佑梨ちゃんに言われた。あの日はちょっと暗くなっていたが、ようやく1個自慢することが出来るのでつけることにしたのだ。
「うん、翔祐君からもらったの!」
「へえ、ラブラブじゃん。いいなあ。」
「でしょ?」
佑梨ちゃんは肩くらいまでの長さだが、礼子ちゃんは髪が長い。髪を分けてほしいなぁなんて思いながら見た。
「髪伸ばすのってどれくらいかかった?」
「たぶん半年くらいは切らなかった気がする。」
半年か…。
「どうしたの?髪長くしたいの?」
「うん。」
「そういえば由紀奈ってずっと短いよね。似合うんだから短くていいんじゃない?シャンプー楽だし。」
確かに長いとシャンプーは大変そう…。
「あ、もしかして翔祐君が長いのが好きとか?恋するとやっぱりその人に合わせたくなるんだよね。」
「何々、恋バナ??」
周りで聞いていた女の子たちが入ってきた。みんな楽しそうに話し始めたが、私はみんなみたいに気楽に話すことが出来なかった。なんだか私、おかしくなってる気がする…。なんで私はみんなと違うんだろう?全然楽しくない。
家に帰ってからも気が重たかったが、翔祐君に呼ばれてちょっと気分が上がった。
「由紀奈の好きなアニメのDVD借りたから一緒に見ようよ。ね?」
「うん!」
部屋で一緒にいれば、嫌な気持ちは吹っ飛ぶはず…。でも、私は部屋に入った途端に机の上の雑誌が目に入った。紗英みたいな髪型の女の人が表紙だった。
「翔祐君、これ何?」
「ああ、それは好きなタレントが載ってるから買ってきたやつで…。」
そこまで聞いて、私は好きなタレントがその表紙の女の人と思ってしまって涙が出た。
「どうした?」
「翔祐君、やっぱり大人っぽい人が好きなんだね。」
「は?何言って…。」
涙が止まらなくなったため、何も言わずに翔祐君の家から出た。
やっぱり、紗英みたいな女じゃないと駄目なんだ…。私、早く大人になりたい。せめて見た目だけでも変えなきゃ…。
それから一週間くらいしたが、翔祐君とは気まずいままだった。ヘアピンを見ながらぼんやりしていた。
なんだか髪が目にかかって邪魔だった。今まで1か月に1回は切っていた前髪が伸びてきた…。いつもはママに切ってもらうけど、一刻も早く伸ばさないといけないのでちょっとでもハサミを入れてしまえばまた時間がかかってしまう。ヘアピンで止めていれば問題は無い。でもママは私の伸びた前髪を切りたがった。
「お願い、切らないで!絶対切っちゃ駄目!」
「邪魔になるでしょ。目に入ったら痛いじゃない。」
「ヘアピンで止めればいいから!」
じゃないと翔祐君とは一緒にいられない。
「由紀奈…何かあったの?」
翔祐君には秘密って言われたけど…もう私には限界だった。
「ママ、私…翔祐君が好きなの。翔祐君は髪の長い人が好きなの。」
涙が出た。いつも本人に言っているのに、何故ここまで苦しいのかわからなかった。
「そうなの…。」
ママはそれしか言わなかった。それ以上何も言えなかったようで、しばらくして部屋から出て行った。
由紀奈の母は翔祐の家に行った。
「はい。」
翔祐がすぐに出て来た。
「翔祐君、ちょっと話があるの。」
翔祐は由紀奈の母をすんなりと部屋へ入れた。
「あの…しばらく由紀奈に会わないでほしいの。なんだか不安定になってて。」
「不安定?」
「うん。泣きながら翔祐君が好きだって打ち明けられたわ…。このままだと翔祐君に何をするかわからないし、もし翔祐君の彼女にも何かしちゃったら責任なんて取れないじゃない。落ち着くまで距離を置いてほしいの。今までお世話してくれてたのは本当に感謝しているんだけど、まさか由紀奈がそこまで好きになっているなんて思わなかったの。」
翔祐は黙っていた。
「おかしいわよね。私、小学生の時にそこまで男の子を好きになれなかったから、由紀奈の気持ちがわからないのよ。いくら翔祐君が魅力的でもそんな好きになるかしらね。」
「…お母さん。それはもう…僕が悪いんです。」
「どういうこと?」
「僕だってその…由紀奈ちゃんが好きだし。」
「どういう意味で?」
「もちろん、一人の女性として。」
由紀奈の母は固まった。翔祐は自分の今までの行動がやはり危なかったことを認識して、かなり汗をかいている。
「そ、それ…由紀奈は知ってるの?」
「散々言ったから知ってはいますけど、たぶん本当の意味は分かっていないと思います。」
「…信じられない、小学生と高校生なのに。翔祐君、彼女いたじゃない。同い年の子で…。」
「紗英ですか?もうとっくに別れてます。」
「そんな…。」
由紀奈の母は戸惑いを隠せなかった。まさか自分の娘が高校生の男に狙われるとは考えもしなかった。今まで気づけなかった自分を恥じた。
やはり、2人の関係は許されるものではなかった。
夜になり、ママが血相を変えて私に言った。パパもなんだか様子が変。
「由紀奈、大人だけで話したいことがあるから呼ぶまで部屋から出ちゃ駄目よ。」
「何の話?」
「いいから、由紀奈は来ちゃ駄目!」
ママは何を怒っているのだろう?
しばらくしてリビングから声が聞こえた。パパ、ママ、翔祐君、翔祐君のお母さんが話し合いをしていた。大人だけで何の話し合いをするのだろう?
「何も由紀奈じゃなくても相手はいるんじゃない?高校だって共学なんだし…。」
「そうよ、翔祐。いくら由紀奈ちゃんから好かれていても、数年たったらどうなるか分からないでしょう。きっと翔祐のことは兄と思ってるのよ。兄として好きなのよ。」
何を話しているか聞き耳をたてた。翔祐君が内緒にしようといったのは、こうやって大人たちが騒ぐからだったんだね…。みんな私と翔祐君はうまくいかないと思ってるんだ。
「翔祐君、僕たち夫婦も10歳差だから気持ちはわかるんだよ。でもね、小学生の由紀奈だと話が違うんだよ。わかるよね?嫌な事言うけどロリータコンプレックスって言葉があるよね?」
??
ロリータコンプレックス…?
「違うんです、僕はそういうのじゃないんです!由紀奈さん以外本気で愛したことないんです!お願いします!僕たちの仲を認めてください、お願いします!」
みんながシーンとなる。
翔祐君はこんなに一生懸命になってるのに、なんで私は何も出来ないのだろう?私だって本気なのに…。
「翔祐君、それ以前に自分の娘が年上の男に抱きつかれたり、キスされたりってそんな目に遭ってたのが僕はショックなんだよ。本当に愛してるなら大人になるまで待ってほしかったよ。」
「それは本当に悪かったと思ってるんです。本当に、本当に申し訳ありません。」
やっぱり…私が子供だから駄目なんだ。それなら…。
私はリビングに入った。
「由紀奈!入ってきちゃ駄目よ!」
ママに怒られたが、構わず翔祐君へ近づいた。ママと翔祐君のお母さんはダイニングテーブルの椅子に座っていたけど、翔祐君は椅子から降りて土下座していて、パパはその目の前で正座していた。
「由紀奈…。」
顔を上げた翔祐君。私は翔祐君の顔を自分の両手で挟んだ。そして…口と口でキスした。
「ゆ…由紀奈??」
翔祐君は開いた口がふさがらなかった。みんなも驚いていた。
「私、翔祐君のこと本当に好きだもん!なんでみんな私達を引き離そうとするの!?話し合いだって私無しでしちゃ駄目だよ!」
「でも由紀奈…まだまだ由紀奈には知らないことがあって…。」
「知らないことなら一緒に勉強すればいいじゃん!」
しばらくみんな黙っていたが、パパが口を開いた。
「僕たちが思っているより、由紀奈はもう大人になってるんだね…。子供扱いして何も話そうとしなかったのは確かにいけなかった。」
「本当ね。由紀奈からは何も聞こうとしなかったわ…。」
そして翔祐君のお母さんも口を開いた。
「翔祐、由紀奈ちゃんのことを本当に愛してるなら、いろんなことを我慢しなきゃいけないのよ。由紀奈ちゃんはこれから色んな出会いがあるんだから、翔祐以外を好きになることもある。そのときに翔祐は文句言わずに離れないといけない。わかるわね?」
「そんなのとっくにわかってるよ…。」
翔祐君は涙目だった。私には翔祐君と離れてしまうことなんて想像できなかったのだけど、翔祐君には想像がついたのかもしれない。
結局まだまだ話し合いが必要そうなのでこの日は切り上げた。
翔祐君とお母さんが帰ったあと、ママと2人で話した。
「由紀奈、私が何を心配してるのかわかる?」
「必ずしも結婚できるかわからないってことでしょ。」
「違うよ。由紀奈、まだ恋愛したことないでしょ。だから本当に知らないことだらけなのよ。何したら妊娠するかなんて知らないでしょ。キスだって病気が移って危ないときがあるのよ。」
「え?そうなの?」
さっきみんなの前でしちゃったのに…。妊娠の方法だって注射じゃないの?
「でも由紀奈が翔祐君を本当に好きで一緒に勉強すればいいって思ってるのなら、私だってきちんと教えたいの。」
「……。」
私、本当にまだまだ何も知らないんだ…。
翌日から約束通り勉強することになったが、正直かなり生々しかった。そもそも妊娠の方法なんて知らなかったから、私はかなり衝撃を受けた。まさかそこまでしないといけないなんて…。
「パパとママも?」
「そうよ。でも大人になったらなんとも思わなくなるのよ。」
あまり想像したくなかったが、みんなのパパとママだって同じなのだろう。そして、あの日の翔祐君の行動の意味も今ようやくわかった。
「そういえば、翔祐君が自然に妊娠ができなかったら注射することもあるって言ってた。」
「その方法もあるけど、ママは打ったことないからどんなものかはわからないわ。」
翔祐君はこのことを説明したくないから注射を主張したんだろう。
「由紀奈、翔祐君がいくら好きでも自分の身は自分で守らないといけないの。小学生でも妊娠してしまうことがあるのよ。だから服を着ないで抱き着かれたりなんかしたらすぐ逃げるのよ。そしてパパ、ママに遠慮なく言うのよ。」
「翔祐君がそんなことするかな…。」
想像がつかなかった。
「高校生の男の子なんて何するかわからないのよ…。翔祐君は大人しそうに見えるけど、本性はわからないわ。」
ママは辛そうに言った。そんなに翔祐君が私のことを好きになるのはダメなことなのだろうか?
「それも含めて由紀奈はまだまだ知らないことが多いのよ。お願いだからまずいことがあったらママに報告してほしいの。」
「わかったよ。」
でも、もう隠さなくていいんだなと思うと嬉しくもあった。
そして勉強することにしたのはいいけど、あの後からお互いの親が心配するため2人で会える時間が取れなかった。翔祐君の「すぐに別れちゃうから言ったら駄目」っていうのは、みんなが会わせてくれないって意味だったのか…。どうにかならないかなぁ。
ママたちに黙って翔祐君の家に行ってもいいと思っていたのだけど、翔祐君も気を使ってるみたいで最近は帰りが遅い。
家の前で待ってたらちょっとだけ会えるかも…。私は翔祐君家の前で待つことにした。何時に帰ってくるのかは分からないけど、翔祐君と話したかったらとにかく待つしかない。
だけど、何時になっても帰ってこない。もう1時間くらいは待ってるはずなのに…。翔祐君、会いたいよ…。
「由紀奈!」
え?ママ?
気づいたら布団の中だった。
「もう、由紀奈ったら外に出たまま寝ちゃうなんて…。」
「私、眠ってたの?」
「そうよ、どこに行ったのかと思ったら翔祐君家の前にいたから驚いたわ。」
あ、そっか…。私はあのまま眠ったのか。
「ママ、翔祐君はまだ帰ってないの?」
「私が由紀奈を見つけたのと同じくらいに帰ってきたわ。翔祐君、きっとわざと帰宅時間ずらしてるのね…。」
もう少し我慢してれば話せたのになあ。
その後はいつも通り夜ご飯を食べてお風呂に入って寝た。
でも、朝起きたら頭が痛くて起き上がれなかった。熱を測ると38度あった…。
「昨日外で眠ったからよ。もう無茶しないでちょうだい。」
今日は学校を休んで眠ってるように言われた。昨日、無理して外で待たなければよかった。
その日はずっと眠ってたが、夢に翔祐君が出てきた。翔祐君と手をつないでデートしてた。みんなが私達を羨ましそうに見ていた。その中に紗英がいた。紗英が翔祐君を連れて行こうとしている。私は必死に翔祐君の手を握ったが、紗英が連れて行ってしまった。
「わあーー!」
叫び声とともに起きた。翔祐君は私の方が好きなはずなのになあ……。なんでこんなに不安になるのだろう?
「由紀奈、どうした!?」
え……?翔祐君?
「悪夢でも見たか?」
目の前に翔祐君がいるのがすごく嬉しくて何も言えなかった。
「翔祐君…。」
「なんだよ、泣くほど嫌な夢だったのか?」
違う、これは嬉し涙だ。
「翔祐君、会いたかった…。」
「俺もだよ。だからお母さんにもう一度話をしようと思ったんだ。そしたら由紀奈が寝込んでるって聞いてさ。今お母さん大変だろ?看病は俺がするって伝えたんだ。」
昨日、外で寝ちゃって正解だった…。
「俺、諦めないって決めたんだよ。時間かかると思うけど、お父さんとお母さんとちゃんと話すからさ。」
「うん…。私も頑張る。今ね、ママと一緒に大人になるための勉強してるの。翔祐君の隣にいたいから。」
「由紀奈、勉強は苦手だったのにすげえじゃん。」
本当だ…。私、勉強嫌いだったのに、翔祐君のためなら動けちゃう。
「そういえば、さっき由紀奈の友達が来たよ。学校からのプリントを持ってきてくれた。」
「誰が?」
「茉梨さんの妹と礼子ちゃんと達也君。」
茉梨さんとは佑梨ちゃんのお姉ちゃんの名前だ。
「達也君まで?」
「うん。なんかすごい心配してたよ。あいつ由紀奈のこと好きだもんなぁ。ま、由紀奈は俺しか見えてないもんねー。」
翔祐君は自信気に言った。あれから達也君とはほとんど話してない…。
「達也君ってちょっと乱暴なんだよね。大人しい子には優しいんだけど。翔祐君、何も言われなかった?」
「いや、特に何もなかったよ。由紀奈を心配してただけだよ。」
それならいいんだけど…。
「そうだ、熱測ろっか。それだけ話せるなら大丈夫かな?」
翔祐君には はい、と体温計を渡された。脇に挟むタイプだが、さすがにママからの信頼を落とせないからか、パジャマのボタンを外して脇まで突っ込むなんてやってくれなかった。別に翔祐君ならいいのに…。
測ると、熱はもう下がっていた。
「あ…もう平熱になっちゃった。」
「よかったじゃん。何がっかりしてるんだよ?」
「いや、だって…熱がないと翔祐君はもう来てくれないと思ったから。」
「大丈夫だよ。またちゃんとお母さん達と話して会えるようにするから。」
頭をポンポンと撫でられた。私の安心する翔祐君からの仕草。




